脱落 ⑦
「クロちゃん!!」
「クロムッ!ッ……!!」
金のアンサラーとセリオス、ノヴァは……アンサラーが発動した瞬間移動によって退却してしまった。
神尾クロムと呼ばれている黒のアンサラーから離れ、地面に落ちたドグマ・コアも、セリオスの手で回収されて。
「……………………」
「クッ!おのれぇぇぇッ……!!」
あと少しという段階で逃げられ、コアを奪い取れなかったフメイは、意識なく倒れている黒のアンサラー……だったクロムを睨み、何度も踏みつけて八つ当たる。
「忌々しい外道め!儂の邪魔をしッ!その上慚鬼にもならずッ!罰を拒むとはッ!!」
「当たり散らしている場合か?フメイ。まだ、遠い距離へは行っていない筈だ。疾く探し出せ」
「……!申し訳ありません大耀元主様。すぐにッ!!」
私の指示で我に返ったフメイは、即座に捜索を開始した。
大量の慚鬼を探査用に召喚して辺りに散らし、本人も宙を飛んで探しに向かう。
……では、私はクロムの処分でもしておくか。
身体を起こし、石段を降りて……クロムの元へと歩く。
どうやら、まだ死んではいないようだ。
金のアンサラーとノヴァは、庇ったクロムを連れて行こうとしていた。
もし瞬間移動を行う前に奴らの伸ばした手が届いていたなら、こやつも助かっただろうな。
最も……コアが離れた時点で、再起は不能だが。
「ッ!」
視界の片隅で、遠方で……何かが膨張している。
「あれは……」
見ると、空高く宙を漂う黒茶色の光る球体が、膨れ上がっていた。
この広い集落の一角を、影に落とす程の規模にまで。
そして、眩い光を発して砕け散り——。
内部に閉じ込められていた巨人が降り立ち、大地を揺らした。
……ノヴァの仕業か。
金のアンサラー一行を空から探していたフメイは、巨人の登場に驚く素振りを見せた。
そして被害を出させないよう、目的をすぐに巨人の撃破へと切り替え、突撃。
遠いこちらにまで風圧を撒く巨人の剣の斬撃を躱し、体当たりで転倒させ……錫杖から光線を放って追撃する。
しかし、これだけで倒せるような容易い相手ではなかった。
すぐ図体に似合わぬ素早い動きで立ち上がり、フメイに攻撃を仕掛ける。
これは、対処に相応の時間が掛かってしまうな。
その内に奴らは集落から抜け出し、撤退は達成されるだろう。
しかし、まぁ——。
クロムを処理しただけでも、御の字と言えるか。
見た所、この男にはアンサラーの力を弱体化させ、無力に出来る能力を持っていた。
あのまま逃げられ……能力をより強められていたならば、間違いなく脅威となっていた。
今の内にその脅威を潰したのは、ある種幸運と言える。
……さて、殺すか。
アンサラーでなくなったとはいえ、まだクロムの内には理気力を宿している。
慚鬼にするのは不可能、手駒に出来ないのなら殺す以外に手はない。
私はフメイと同じ錫杖を生成し、再度柄尻を——。
「待て」
「……!?」
見知らぬ声が、後方の斜め上から発せられる。
クロムを手に掛けようとする私を、止める声。
振り向くと——。
「……………………」
楽な格好で、気怠い雰囲気を漂わせる1人の男が、本殿の屋根上から私を静かに見下ろしていた。
「……誰だ?お前は」
力みはなく、殺気もない。
ただそこに立っているだけだというのに、妙な存在感がある……。
「ッ⁉」
あれは、ドグマ・コア⁉
紫がかった鮮やかな桃色のコアを、この男は胸に宿していた。
世定まで果たし、完全に我が物としている。
正真正銘のアンサラー。
エルダーである私が…………奴を確かにそう認識している。
だが奴はグラスティウスにいなかった、あんな色のコアを宿した人間はあの場に存在していなかった。
そもそも、セブンスワンに参加出来るアンサラーは7人だ。
7人のアンサラーが雌雄を決する、戦いの儀式に——。
何故、ありえる筈のない8人目が存在している……!?
「……亡白シュウリ」
「ッ……!」
「お前達が示す……下らない幻想を終わらせる者の名だ。精々覚えておけ」
男はそう告げると、胸のコアに触れ、コアと同じ赤柴色の理気力を纏わせた手を上空に掲げる。
そして、理気力を放出し——。
「ッ!?」
打ち上げられた理気力はすぐ、散開し……落下。
雨のように、周囲に降り注がせた。
「クッ……!」
地面に着弾した理気力が炸裂し、地面を抉って白砂利を飛び散らせる。
私は直撃を喰らう前に、恐らくは雨の範囲外であろう境内の外まで、大きく跳んで後退した。
——その時だった。
「ッ⁉」
1つの人影が、爆破が連発する境内の中を一直線に走る。
そして、淀みない手つきで倒れたクロムを抱え、通り過ぎて行った。
今のは奴の仲間か。
あの素早い動き……あのアンサラーと事前に着弾地点の打ち合わせをしていなければ難しいだろう。
飛ぶ砂利と土塊に視界を遮られ、詳細な姿を見ることが出来なかったが…………アンサラーの仲間なら、正体はエルダーか?
奴らの正体と目的は何なのか。
何故、クロムを連れ去ったのか。
雨が止み、それらを問い質そうと再び屋根を見上げた時にはもう——。
アンサラーは、姿を消していた。
「…………………………」
先の戦闘も相まって……最早、境内は窪み尽くしの荒れ地と化してしまった。
外では、未だにフメイは巨人と戦い轟音を響かせ続けていた。
私の中の常識を覆す、衝撃的な出来事が起こったことなど露知らず。
……亡白シュウリ。
奴は一体、何者なのだ?
奴は……何を理想に掲げ、この舞台に現れたというのだ。




