脱落 ⑥
一帯を眩く照らしていた白光が収まり……荒れ狂う風と轟音が止んだ。
俺はしばしの耳鳴りと目に映る強い光の残像に耐えながら、ノヴァと共にルナの元へと歩く。
「やったな、優木ルナ……!」
「う、うん…………」
流石に力を使い果たしたのか、ルナはその場にへたれ込んだ。
身体から理気力の粒子が離れてセリオスとなり、共命理も解除され……空にいた分身達も消失する。
今はもう、ルナに戦える力は残っていないだろう。
俺も……正直、限界だ。
しかし、決着はついた。
この場に奴がいたことを証明するものは……地面に落ちた緑のコアと錫杖だけ。
6人の耀昇士も既に消えていた……ルナが既に対処したか、フメイの消滅と共に彼らも消えたのか。
見守るだけに留まっていた奴のエルダーも、フメイが消えてはどうしようもないだろう。
住民達が怪物になることは、もうない。
皆、今の強い光が原因で失神してしまっているが、しばらくすれば意識を取り戻し……時間は掛かるがフメイのいない元の生活に戻れる。
奴の野望は、完全に潰え——。
そうか……これで終わりか。
「ッ⁉」
「嘘ッ⁉」
フメイの声⁉
一体、どこから……⁉
善意は、決して滅びはせぬ。
特に、大耀元主様の寵愛を受けし……この儂はな!
「あれだけの攻撃を受けて、何故……!?」
「ッ、あのコアか!」
ノヴァは落ちているコアが声を発していることを察知し、すぐに剣を装備し、壊しに掛かる。
だが——。
「ッ⁉」
コアから拡散して射出された緑色の光線に、全身を貫かれ——。
肉体の形を失い、紙の山となって崩れた。
辛うじて胸から上は姿を保っているが、誰かどう見ても戦闘は不可能な状態だ。
「ノヴァッ、ッ……!」
コアが……輝く光を放ち、浮かび上がる。
その光は、やがてコアに定着する肉体へと形を変え——。
御影フメイを復活させた。
「ッ……オオオォォォォォォォォォッ!!」
「クロちゃんッ⁉」
俺はすぐにドグマ・バーストを発動し、大刃に変化させた穂を振り被り、突撃する。
何故復活したのかは分かってる。
恐らくは、ルナの光線が当たる前に発動する素振りを見せていた、あのドグマ・バーストだ。
奴は光線を受けている中で、どうにかドグマ・バーストを間に合わせ、辛うじて蘇ることが出来たんだ。
そうに決まってる。
だから今、奴が復活した直後の瞬間こそ、倒せるチャンス!
俺は持てる精力と理気力の全てを込めたドグマ・バーストの一撃を、フメイに叩き込む。
しかし——。
「実に、愚か」
「ッ!」
刃は、フメイの肉体を裂くことはなく……左手に掴まれ、呆気なく止められてしまった。
瞬間……俺は思い知る。
この突撃には、何の確実性がない。
奴が復活したことへの焦りから、あれだけの攻撃を喰らった後での復活なのだから著しく弱体化している筈、と——。
何の根拠もない仮定に縋った……無謀な行為であったことを。
「グゥッ……!グウゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!!」
犯した過ちを帳消しにする為に、刃を奴に届かせようと残るなけなしの力を加え続けるが——。
掴まれている刃は、小刻みに震えるばかりで動かない。
「惨めだと思わんか?」
「ッ!」
「貴様らがどれ程の覚悟で身命を賭し、勝利に一縷の望みを懸けようが……決して儂には届かぬ」
「クッ……!」
「何故だか分かるか?」
「お前が、アンサラーを陥れてコアを手に入れたからだろうが……!!」
「確かに……あの小僧からコアを奪い、我が力としたのも理由の1つ」
小僧⁉
ルウ君から、コアを奪ったのか!
「しかし、それだけではない」
「何⁉」
「フッ、純度よ」
「純度……⁉」
「そう。信じて疑わず……己が理想で人を導く決意で固めた、このコアのように潤沢で濁りのない純粋なる精神。それこそが、貴様らと儂の格を分かつのだ」
「ッ、ふざけるな…………!!」
何をいけしゃあしゃあと。
人の価値を勝手に決めて、存在を弄ぶ。
そんな奴の思いが、平和でありたいと願う俺達よりも上だと……⁉
認めるものか、断じて——!
「ッ⁉」
刃が、握力に砕かれた。
「故に貴様は敗れるのだ。何も守れず、救えず……ただ儂にコアを寄越し、無窮の後悔に身を沈める…………それが定めだ」
「ッ……!黙れ——!!」
理気力の刃は砕かれても、槍自体はまだ現存している。
俺は踏み込んで、槍を突き出す。
何が何でも否定したかった。
俺達より自分の方が格上だという奴の言葉を、俺では何も守れず……救えないという奴の言葉を。
だが……槍は奴に掴まれるでも、止められるでもなく——。
落ちていた錫杖が動き出し、槍を天高く払い上げ——。
滑らかな動作で、俺の胸を頭の先端で突き……俺は宙を浮いて後方から飛ばされる。
「クロちゃん!!」
「カハッ、ゲホッ……!ウゥゥゥゥ…………!!」
たった一突き。
刺し貫かれている訳でもないのに、何だこの痛み……!
錫杖の打撃だけじゃない。
胸の奥で、焼けるような苦痛が襲っている……!!
「さぁ、惨堕の時だ」
「ッ……⁉」
「罰を受けよ。人としての自由意志を失い、成り下がってしまったという後悔だけを背負う畜生の生涯を送らせてやる。あの小僧と同じようにな」
フメイが、錫杖を直接手に持って……緑の理気力を纏わせる。
惨堕。
俺達を、慚鬼に変えるつもりか……!
「優木ルナッ!!」
「ッ……!」
密かに俺達の近くへと這って移動していたノヴァが、ルナに合図を送る。
全滅の危機に陥ってしまった場合を想定した、撤退の合図。
ルナの瞬間移動で戦場を離れ、追い掛けられないようにノヴァの巨人を使って足止めしながら逃走する。
そういった算段も、作戦時には決めていた。
ルナは、すぐに今のが撤退の合図だと理解し、行動に移し始めた。
自身の身体にコアから引き出した理気力を纏わせ、瞬間移動を発動する。
俺達は彼女の腕や肩にしがみつき、ノヴァは白緑色の星珠を解放して周りを防御壁で囲う。
瞬間移動が発動するまでは……時間にして、おそらく2秒。
だが——。
奴を相手に、2秒は長過ぎた。
フメイが、逃げるつもりだということを察知したのか、俺達に向かって全速力で走り出した。
素早い速度で一瞬にして距離を詰め、防壁を触手で破壊。
錫杖を振りかざし、ルナを鋭く尖った柄尻で突き刺そうと打ち下ろした。
「ルナ——!」
瞬間移動よりも奴の方が速い。
このままではルナに錫杖が突き刺さり、慚鬼に変えられてしまう。
しかし……ルナは動くことが出来ず、へたれたまま。
生半可な援護では攻撃を止められない。
誰かが、ルナの身代わりとなって受けないといけない……!
誰かが!!
「ッ、クロちゃ——」
合理的な判断なんてない。
身代わりになる必要がある。
それが分かった時点で、俺の身体は——。
ルナの前へと、動いていた。
ルナを隠す為、目一杯に両手を広げ……この身をフメイに差し出す。
狙い通り、錫杖は俺の胸を刺し貫く。
そして——。
全身を、内部から破壊した。
「……ァ………………」
当然、痛みはある。
即座に意識が途切れようとする程に、強く。
だが、慚鬼の姿にはならなかった。
きっと俺の内にある否定の力が、変化を止めたのだろう。
代わりに身体はズタボロになったが、ルナに醜くなった姿を見られるよりはずっといいし……。
ルナが醜い怪物になるより、ずっといい。
これで死ぬことになっても、受け入れられる。
ごめんな、ラスタ。
お前が未来に繋いでくれた命を、こんな形で使っちゃって。
俺、全然分かんないんだ。
今の自分に何が出来るのか、生き続けることで何を成せるのか。
だから、誰かの代わりに自分の命を差し出す……楽な方法に懸けちまった。
アンサラーでも何でもないよな、誰がどう見たって失格だ。
本当、ごめん——。




