脱落 ⑤
「来るがいい。正しき道を知らぬ、哀れな外道どもよ」
このメンバーの中では俺が一番、戦闘能力では下だ。
それでも、喰らいついてみせる!
出し惜しみなしの全力で!!
「ウオォォォォォォォォォッ!!」
隣で走るノヴァの存在と、ルナとセリオスの共命理の光を感じながら——。
俺は槍を持つ右手の親指でコアに触れ、引き出した理気力を即座に槍に付与し、ドグマ・バーストを発動。
大玉の黒塊弾をフメイに向け、撃ち放った。
射線上に住民はいない、それを確認した上で撃った。
黒塊弾は参道を抉り、白砂利を圧力で吹き飛ばしながら、標的へと迫るが——。
「ッ⁉」
俺の視界でフメイが黒塊弾に覆われ、見えなくなったのも束の間。
フメイの元で、枯れ枝のような奇怪な触手が、黒塊弾をはみだして無数に蠢き——。
黒塊弾を左右から覆い囲んで挟み潰し、フメイへ直撃する寸前に破裂させた。
膨大に詰まっていた理気力は散り……。
同時に、隠れていたフメイの姿が露わになる。
「ッ……!」
法衣の上半分を脱ぎ、晒したフメイの肉体は——。
不気味。
見た衝撃でそれ以外の印象が一掃される程に……異様だった。
黒塊弾を潰した長大な触手群を背中から生やし、胸のコア俺達より一回り肥大化。
そこを中心にして上半身が深緑に変色……いや、構造そのものが何かに変異していた。
これが、セカンドフォーム……!
「ッ!」
ノヴァが、灰の星珠を手にしてフメイの背後を取っていた。
あの星珠には、対象の時間を操る力を持っていると言っていた。
速めるだけでなく、遅めたり……止めることも。
いくらフメイが俺達より格上だろうと、あの星珠の能力に掛かってしまえば、無力に出来る。
当たれッ!
そんな俺の無声の叫びを乗せ、灰の星珠から光線が放たれた。
光線は一直線に向かっていく。
フメイは攻撃に気づいて振り向くが、既に回避が不可能なまでの至近距離まで到達している。
必ず当たる確信が、俺や……おそらくノヴァの中にもあった。
しかし——。
その心情は、敢えなく裏切られる。
「ッ⁉」
命中する寸前、光線の射線上に暗緑の渦が出現。
その内より現れた怪虫……慚鬼が、フメイの身代わりとなって、光線を受け止めた。
数少ない貴重な勝機は、慚鬼を空中で静止するだけに終わってしまう。
「クッ……!!」
「フフ、あの滑稽な前口上はなしか?人擬き」
「あぁ。2度はくどいと思って……な!!」
「ッ!!」
触手は再び動き出し、俺とノヴァに振るわれる。
眼前に迫る、鞭打の嵐。
触手と相対するのは、イレイノムとの戦いで既に経験している。
しかし、これはそんな実体験を遥かに凌ぐ。
襲来する1発1発が、速く、鋭く、重く——。
俺の守りなど意に介さず、強引に俺達の肉体を叩きに来る……!
「ウグッ……!!」
側頭に、打撃を入れられてしまった。
その圧力に頭部が横へと押しやられ、身体の体勢はそれに引っ張られてへし曲がり……。
受け身をとる余裕もなく俺は地面に倒され、砂利の上を滑る。
「……!」
ノヴァも同様に、触手の餌食となる。
頭部の半分が衝撃で欠損し、紙片を撒き散らしながら地面を転がった。
「ノヴァ!」
「ッ、大丈夫だ……!」
「フム、些か……鈍いな。今ので致命を与えようと思ったのだが……」
「畜生ぉ……!」
痛みに構っている場合じゃない。
俺はすぐに立ち上がり、フメイに掛かろうとするが——。
「2人とも、下がって!!」
「ッ⁉」
上空から聞こえるルナの引き留めの声によって、反射的に突撃を中断し……彼女が何か仕掛けることを予期し、後退した。
上空では、既に共命理を果たしたルナが、4人の分身を従えて攻撃の態勢を整えていた。
「ハァァァァァァァァッ!!」
全員、一斉に理気力で盾を巨大化させ、盾を前面に出しつつ翼をはためかせて……降下。
フメイを、頭上からの多重プレスで押し潰しに掛かった。
フメイは咄嗟に、触手で自分の身体を繭のように包み込み、5つの巨大盾から身を守る。
側にいた慚鬼はフメイに守られることなく、盾と触手の衝突して生まれた衝撃に潰れた。
「クッ、ウゥゥゥゥゥ……!!」
ルナ達は翼をはためかせ、強引に押し潰そうとするが……触手は壊れず、動かない。
それどころか——。
「ッ……⁉ウアァッ!!」
逆に押し返され、即座に防御を解いた触手による反撃の振り払いによって、5人とも叩き落とされてしまった。
それぞれ、違う方向に散らばって落下するルナと分身達。
……その内の1人が、未だ逃げずに戦いを眺めている住民達の元へと落ちる。
「クゥ……!ッ、ここは危険です!離れてください!!」
やって来たことに驚く彼らへ、ルナは退避することを促すが——。
「……消えろ!屑がァッ!!」
「ッ⁉」
「死ねッ!死ねッ!死ねッ!死ねッ!!」
彼らは驚きの表情を嫌悪に変え、倒れた状態のルナを囲んで踏みつける暴挙を犯す。
大人も子供も、皆……彼女を目の敵にしている。
「ッ……痛……!や、止め、て…………!!」
「教祖様に手を出そうとは……!手を出そうとはァッ!!」
「悪は消えろ、消えろォッ!!」
「フフフ、悪を討たんとするその心。実に善良だ」
「止めろッ!!」
本物か分身か分からなくても。
俺には到底、看過出来ない状況だった。
すぐに彼らの愚行を止める為、駆け出すが——。
「ッ!」
走る俺を、後方からフメイの触手群が抜き去り、俺よりも先んじて住民達の元へと進む。
そして俺から守る訳でもなく——。
ルナに暴行を加えていた者達……計6人を全員、触手で突き刺した。
「グゥ……!グアァァァァァァァァァァァ!!」
「何を⁉」
「彼らの殊勝な善意に、教祖として報いるだけのことよ」
「ッ、不味い……!」
ノヴァの炎撃と他のルナ達の斬撃を、残る触手で防御しながら、フメイは刺した触手から住民達に緑の理気力を流し込んでいく。
初めは悶え苦しみ、立ったまま泡を吹いて痙攣する6人だったが——。
やがて皮膚は緑に変色し、硬質化。
木偶人形のように……動かぬ存在と化してしまった。
「……………………!!」
これが、彼らに報いることだとでも言うのか?
馬鹿げてる。
だが、その様を見ていた周りの住民達は怯えるどころか、恍惚とした表情で動かない彼らを見詰めている。
倒れていたルナも、周りの光景を異常を感じつつも、起き上がって退く。
直後——。
「ッ⁉」
人だった木偶人形達がヒビ割れ、震え出す。
割れ目からは緑の光が漏れ始め、ヒビが増えると同時にその輝きも増していき——。
遂には、崩壊。
人の殻を破り捨て、異形異類の化け物が人の内からその姿を現した。
「何、これ……!?」
「これが、進化……⁉」
ノヴァの言っていたことが、脳裏を過る。
「奴は決めた善行を住民達に行わせ、徳を積んだ者を能力によって人ではないものへと進化させる」
くり抜かれたかのように、伽藍洞な面。
腕がなく、足がなく……フメイと同じように無数の触手を背中から生やす。
こんなものが、人が進化した存在である筈がない!
「ッ⁉」
歪な変貌を遂げた6人の顔面に、緑光が現れ……収束していく。
6方向から襲い来る、この過大な圧は——。
ゼロサムを放つ上級イレイノムを、連想させた!
ス、スバラシイ……!
「ッ!」
頭の中で、声が——。
コレコソガ、ヒトノシンナルスガタカ!
チカラガミチル!
ショウカヲハタシタ、ハタシタ!!
ワレラハ、コノチカラデアクヲメッスル!
タイヨウゲンシュサマモ、ソレヲノゾンデオラレル!!
キエロ!!
「クロちゃん!」
「ルナ!?」
6つの緑光が閃く刹那——。
ルナが俺を守るように目の前へ駆けつけ、盾を理気力で防壁に拡張させ、構えた。
「ッ!」
六条の光線が、放たれる。
目が眩む程の……激しい裂光。
その脅威は、すぐに轟音と熱、押し寄せる破壊の奔流として実体化し……ルナと背後にいる俺を襲う。
……拮抗する時間は、一瞬でさえ訪れなかった。
盾は、衝突と同時に崩壊。
彼女を光の中へと吞み込み——。
「ウワァァァァァッ!!」
俺の身体は、吹き荒ぶ爆風に飛ばされた。
視点が狂い……彼方まで放り出される勢いで無様に宙を舞う身体だったが——。
「ッ⁉」
その背を、誰かが優しく抱き止めてくれた。
「大丈夫⁉クロちゃん!!」
「ルナ……!」
翼を生やして飛行するルナが俺を抱え、神社へと戻って降ろしてくれた。
おそらく、彼女はさっきまでのルナと違う別のルナだ。
じゃあ……あのルナは。
「ッ!」
さっきまで俺とルナがいた、ビームの着弾地点。
そこには、黒く焼き焦げた地面と深いクレーターの跡以外、何もない。
俺を必死に守ろうとしてくれた彼女は、形すら残らず……消失してしまった。
容赦なく分身を消し去った化け物達は……今、本体のルナ達と空中で戦っていた。
「クロちゃん、アイツらは私達で何とかするから。クロちゃんは、ノヴァと一緒にフメイをどうにか抑えて……!」
「ルナ……!」
「ごめん。無理させちゃうけど、お願いね!」
そう言い残し、ルナは翼で飛び上がってルナ達の戦闘に加わった。
無理させちゃうけど、って——。
無理をさせているのは……俺の方じゃないか…………!!
「実に美しい」
「ッ……!」
「耀昇士。ただの人であった者達が、アンサラーを凌ぐ程の力を持ち、天を舞っておる。これが進化と言わずして何と言う?」
フメイはルナ達と戦う化け物達を見詰め、ノヴァの攻撃を変わらず触手で防ぎながら呟く。
「ふざけるな!お前にとって便利な道具にしているだけじゃないか!」
「……何だと?」
「ここにいる人達もそうだ!自分の都合のいいように洗脳して、王様になりたいだけなんだろう!!」
「……………………」
「人は、お前の玩具じゃ——!!」
「舐めるな小僧ォォォッ!!」
「ッ⁉」
激昂し、猛烈な勢いでフメイが迫り来る。
指1つ動かす間もなく、俺の頭は奴の手に握り締められ——。
未だ血を流す側頭を、削ぎ落すように。
迫った勢いを乗せ、地面に擦りつけた。
「ウアァッ……!アアアァァァァァァァァァッ!!」
抑えることなど到底出来ず、苦悶の叫びが俺の口から木霊する。
「矮小な貴様如きが、我が崇高なる教義を侮辱するとは片腹痛い……!」
「ガアァッ……!ウアアァァッ!!」
フメイの掴む手が……俺の頭を強く地面に押し続ける。
今にも割り砕かれそうな俺の頭が、警告の痛みを発して止まらない……!
「お前なんかが、教えを愚弄するなぁッ!!」
「教祖様、罰を!その愚か者に厳粛なる罰をッ!!」
「聞こえるか?小僧。皆が貴様という悪を憎み、滅びを望んでいる」
「ウゥゥゥッ…………!!」
「応えてやらねばな」
「ッ⁉」
俺の背中に、鋭く尖った錫杖の柄尻が——!
「堕ちろ」
「ッ……!」
「神尾クロムッ!!」
ノヴァが、炎を宿した左手から火球を放ちながら、俺とフメイの元へ駆けつける。
例の如く、触手を防御に用いて対処しようとするフメイだが——。
今回は違った。
「む…………?」
ノヴァの放つ炎は、ただ振り払われはせず……触手を黒く焦がしていた。
「やはりな!もうじき限界が来ると思っていた!!」
「ほう。貴様の炎如き、何百受けようと、焦がされることはないと踏んでいたが……」
「神尾クロムの攻撃が触手を弱くしたのさ!貴様の慢心が……生んだ誤算だッ!!」
間近に迫ったノヴァが、奴を守る触手へ直に炎を当てる。
俺との手合わせや、先程まで放ち続けていたものとは並外れた、猛炎の火球。
俺達の攻撃を防ぎ、苦しめ続けた触手も……遂に着弾時の爆破で大半が焼き切れ、フメイは衝撃でその場から退いた。
俺の頭を押さえていた、手も離れる。
「行くぞ、神尾クロムッ!!」
「ッ、あぁ……!!」
またとない攻撃のチャンス。
寝てる訳には……行かないッ!!
「ウゥゥゥゥ、クッ……!オオオォォォォォォッ!!」
俺は、身体を奮い立たせた。
吹き飛ばされた際に紛失した槍を、新たに生成し——。
コアから引き出した理気力を、穂に纏わせた。
ノヴァも、決定打を叩き込む準備を即座に整えていた。
「コアレス!!」
剣の力を持つ橙色の星珠と、飛行の力を持つ水色の星珠。
その2つを操作し……衝突させ、1つに融合する。
マグマのような色に変わり、煙を立てて熱を発するその特殊な星珠を、透かさずノヴァは解放——。
鋭利な翼から水色の粒子を噴出させ、浮遊する剣を出現させた。
更に、ノヴァはその剣に左手の炎の力を全て託し……激しく燃え上がらせる。
「オォォォォォォッ!!」
先んじて、俺が仕掛けた。
槍を渾身の力で振るい、纏った理気力を飛ぶ斬撃として斜め一文字に放つ。
参道を斬り裂きながら、怯んだばかりのフメイに襲い掛かる黒の斬撃。
フメイは咄嗟に、残る触手で自らの身体を庇う。
だが、俺の斬撃は押し合いの末に触手を全て斬り裂き——。
フメイの右肩に、切り傷をつけた。
逸れたことで直撃を当てることは出来なかったが——。
問題はない。
何せ今の攻撃で。
奴を守る触手は、使い物にならなくなったのだから!
「ノヴァッ!」
「あぁ!これならばァァァァァッ!!」
ノヴァが、殴り飛ばすように勢いよく拳を突き出す。
それに併せて剣は炎と粒子で駆使し……音の壁を突き破って疾走。
抵抗を許さず……フメイの腹部を貫き、風穴を開けた。
「こ……これで、終わりか…………?」
フメイの腹部の穴から多量の血が零れ、口からも血を吐き出す。
だがフメイは、これだけの傷を負ってなお……戦いを止めない。
コアに手を触れ、ドグマ・バーストを放つ為に理気力を引き出した。
そんなフメイの前に——。
「ッ⁉」
盾に黄金に煌めく理気力を纏わせ……ドグマ・バーストを放つ寸前のルナが、瞬間移動で現れる。
「これで……!」
盾の切っ先をフメイに突きつけ、理気力をそこへ一点に集約。
「終わりだァァァァッ!!」
極大のビーム砲として解き放ち、フメイを光の激流に晒し……覆い尽くした。




