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Seventh Øne  作者: 駿
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あるべきもの ①

 Cエリアに向けて山道を車で走っている最中、前々から気になっていた疑問を、ラスタに問い掛ける。

「なぁ、ラスタ」

「………………」

「ラスタ?」

「はい、何か?」

「イレイノムって一体何なんだ?」

「……………………」

「ラスタなら、何か知ってるんじゃないかと思ってさ。奴らのこと」

 3年間脅威に晒され続け、すっかり存在に慣れ切ってしまっていたけれど、やはり意味不明だ。

 どこから生まれてきているのか、なぜ俺達を消そうとするのか、何も分からない。

 イレイノムを倒すために現れたエルダーのラスタなら知ってると、そう踏んだ。

「…………イレイノムは――」

「ッ!?」

 突如として右後方の車体からパンと破裂する音が発せられ、ハンドルが独りでに動き始めた。

 バーストが起こったんだ。

「ヤバッ!!」

 急いでアクセルを離し、揺れるハンドルを真っ直ぐに保ちながら、ゆっくりと停車する。

「何が起きたのですか?」

「タイヤが壊れちゃったんだよ…………!」

 車から降りて、バーストしたであろうタイヤを確認しにいく。

「うわぁ…………」

 やはり右後ろのタイヤは思い切り破裂しており、空気も抜け切ってぺちゃんこになってしまっている。

 原因は多分ラスタの――。

「………………」

「?」

 いや、点検を怠った俺のミスだな。

 急いで直さないと。

 スペアタイヤとジャッキ、レンチ等の交換に必要な諸々の道具を車から引っ張り出す。

 力が身についたお陰で軽い軽い。

 ジャッキで車体を持ち上げレンチでナットを外して、タイヤ交換を行っていく。

 交換している間に、質問の続きでもするか。

 ラスタも暇そうにしてるし。

「イレイノムのこと、教えてくれ」

「…………はい。イレイノムの正体、でしたか?」

「そっ」

「そうですね。簡潔に説明致しますと、イレイノムは…………自然災害です」

「へ?」

 手が止まってしまった。

 自然災害だって、あんな奇々怪々な化け物が暴風雨や地震と同じようなものだと言うのか。

「そんな馬鹿な…………!!」

「この星を中心に活動を続けてきた数多の動植物、その負のエネルギーが長い歴史を掛けて積み重なり…………形となって溢れ出た存在が、イレイノムなのです」

「負の…………エネルギー?」

「何かしらの力が働いた時、それには必ず反発があるものでしょう。地球上で刻まれた歴史という名の正のエネルギー、その反対です」

 作用と反作用の法則が、何でそんな抽象的なものにまで働くんだよ。

 目にしていないだけで実際に存在していたのか。

 でも、そんなのってないだろ……!

「その車輪と同じです。回り続けた反動によって壊れてしまう」

「じゃあ、終わりが決まってるってことか。そんな無理矢理な形で…………世界が」

「そうならない為に、貴方がいるのです。クロム」

「…………」

 イレイノムの凶行が脳裏に過る。

 有無も言わさず、理不尽に生物を消し去って。

 原理が何だろうが許される訳がない。

「分かった、ありがとうラスタ。お陰で気持ちが引き締まったよ」

「……………………」

「イレイノムを倒して、世界を守ってみせるさ。俺の手で必ず」

 その果てに来る反動が、どれ程のものであろうとも。




「ふぅ…………」

 さてタイヤ交換もこれで完了、いざ再出発!

 と行きたいところだがもう日が暮れ掛けている、ここで夜を過ごすとしよう。

 この山道には電灯が無く、夜だと真っ暗になる。

 車のライトがあるとしても、万が一俺が事故を起こして一番困るのは、俺じゃなく待っている皆だ。

 過去に一度、焦りで夜すがら運転した末に事故を起こして、車と貴重な物資を失ったことがある。

 だから安全に配慮して、休める時は休むようにすると決めた。

「……………………」

 ラスタもご飯はまだかなと、目で訴えてるし。

「よし、夕飯にするか」

「ッ!今日は何ですか!?」

 ほら食いついた。

「う~ん…………今日はスープパスタにでもしようかな」

「………………!」

 まだ食べさせたことはないからな、きっと興味津々に違いない。

 キャンピングカーのキッチンは電力がないので、カセットコンロを簡易テーブルに置いて調理する。

 鍋に水を張り、その中でポリ袋に入れたパスタ麺と野菜スープを袋ごと沈めて暖める。

 そうして暖めてほぐれた麺を2つの皿に取り分け、スープを分けて掛けて完成。

 簡単だが、満腹感を得られ栄養も取れる良い料理だ。



「頂きます」

「頂きます」

 ラスタはプラスチックのフォークを手にし、パスタを掬い上げて食べようとしているが、するりと抜け落ちて悪戦苦闘している。

 フォークの使い方を知らなかったか。

 俺は先んじてパスタをフォークで食べてみせる。

 それを見たラスタは成程と頷き、要領よくパスタを巻き取って口に運んだ。

 さてさて、どんな感想を貰えるかな。

「ッ………………!」

 何も言わずにがっつくか。

「美味しい?」

 ラスタは食うのを止めず、うんうんと首を振って応える。

「そりゃよかった」

 微笑ましい奴だよ、本当に。

 ちゃんと美味しいリアクションしてくれるんだから、こっちも作り甲斐があるってものだ。

 もっと凝った物を食わせてやれたら、もっと笑顔を見せてくれるのかな。

「…………食べないのですか?」

「え?いやいや、食べる食べる!」

 私が食べちゃいましょうかって言われかねない。

 そそくさと麺を頬張り、食事を済ませた。


「ふぅ…………御馳走様でした」

「御馳走様でした」

 食事に使った道具を2人で片づける。

 まだ使える物は元の位置に戻し、使い終わった物はゴミ箱に入れる。

 溜まったゴミは適当なタイミングで、イレイノムによって侵食された地面に投棄する。

 あの白い地面に触れた物質は、全て数秒の内に白く変わって消失するからゴミ処理には困らない。

 イレイノムの力を活用するというのは、些か癪なものだけどな。

「よし、片づけ終わり!後は寝るだけ――」

「おい!そこに誰かいるのか!?」

「えッ!」

 後ろから、やや掠れた男性の声――。

 振り返るとライトの光に当てられる。

「おぉぉぉぉぉ、久々に人を見た!」

「あのっ、ちょっ…………ま、眩しいです!」

「あぁ!すまんすまん!!」

 光が消え、男性の姿を確認する。

 声からのイメージどおり、老境の人だった。

「えっとこの辺りに住んでいらっしゃるんですか?」

「うん!」

「お一人で?」

「うん!」

 この山中に住んでいる人がいるなんて――。

 ここらで留まることは殆ど無かったから、知らなかった。

「たまに車の通り過ぎる音が聞こえたが…………もしかして君達だったか?」

「多分、そうかと…………」

「いやぁ、こうして生きてる人と話せるなんて!ワシ、泉コウゾウ!よろしく!!」

「あぁ、神尾クロムです。よろしくお願いします…………それでこっちが、ラスタです」

「どうも」

「はい、どうも!」

 ハイテンションに圧倒される、本当に人と会うのが久しぶりで嬉しいんだな。

「いや、嬉しいなぁ。是非家に寄ってくれ!歓迎する!!」

「近くにあるんですか?」

「あぁ!さささ、こっちこっち!!」

「あっ…………わ、分かりました。分かりましたから、ちょっ、ちょっ、そんな押さないで…………」



 コウゾウさんに押されながら案内されると、広い和風の館に辿り着いた。

 泉旅館という看板が入口に掛けてある。

「ここって、もしかして…………」

「ワシが経営してた温泉旅館だ。どうぞ入ってくれ!」

 コウゾウさんに言われるがまま、やや色褪せた暖簾を軽く押し分けて、旅館の中へと入っていく。

「………………!」

 中は綺麗だった。

 まるで今も営業しているかのように、エントランスは丹念に掃除されている。

「お、お邪魔します」

「どうよ綺麗なもんだろう!」

「凄いですね。毎日綺麗にしてるんですか?」

「まぁ暇だからねぇ。ほんで、折角来てくれたことだし温泉にでも入っていくか?」

「温泉があるんですか!?」

「まだ運良く配管が生き延びてるんだよ。兄ちゃん入って無さそうだし、さっぱりしていきなよ」

「えっ…………分かっちゃいます?」

「あぁ。割りと匂いではっきり!ハハハッ!!」

 マジか。

 確かに最近、ウェットシートで身体拭いたりするのを面倒臭がって拭いてないことが多々あったけど、匂いではっきりだとは。

「…………匂ってた?」

「気にしない方なのかと思ってました」

 言ってくれればよかったのに…………。

 これから気を付けよ。

「じゃあ、お言葉に甘えて…………」

「よし、それなら早速案内しよう。ちゃんと男女別々だから安心してくれ!」

 砕石の踏み締める音を夜の森に響かせながら、館の裏側にある、囲いの覆われた露天風呂へ案内される。

「左が男湯で右が女湯ね。ワシは部屋を用意しとるから、どうぞゆっくり!」

「部屋まで!?ありがとうございます、何から何まで…………」

「気にしなさんな!久方振りの客人だ、丁重におもてなしせんとな。ハッハッハ!!」

 豪快な笑いを上げながら、コウゾウさんは本館に戻っていった。

 何か本当に旅行で訪れた気分だな、温泉なんていつ以来だろう。

「温泉…………」

「そうか、ラスタは入浴も初めてか」

「エルダーにとって、浴する行為は不要なので」

 羨ましいことにいつも綺麗だもんな。

「初めて入るとなると、心地よすぎてびっくりするかもな!」

「どうでしょう。人間と同じように感じるかは、分かりませんが……」

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