脱落 ②
俺達は、少しばかり開けた場所で腰を下ろし、身体を休めながらノヴァのお披露目会を見物する。
「元々、これから行う作戦の為に能力の説明をするつもりだったんだ。まぁ君達にとっては、もっと早く教えて欲しかったのだろうが」
「御託はいい。早く教えろ」
「はいはい」
よく見えるよう中心に立ったノヴァは、かざした手から光を発し……再び6つの星珠を出現させる。
「知っての通り、俺は六星衛装という特殊な能力を用いて戦う。え~っと、まだ君達に見せてないのは3つか」
「橙色は剣で、赤いのは炎で……水色は空を飛ぶんでしょ?」
「そうだ!じゃあ、先ずはこれを見せようかな?」
ノヴァは周囲で回る星珠達の中から灰色の星珠を操り、左手に取った。
「この中には……時を操る力が収められているんだ」
「時って、凄くないそれ⁉」
「おっ、いいリアクションだな。それで、これを対象に向けて力を解き放つと……」
「対象って……え、私⁉」
ノヴァが、星珠をルナに向けると——。
星珠は一筋の光線となって空を走り、ルナに命中。
反応出来ずに受けたルナは、膜のように灰色の光に包まれ、衝撃によってか……静かに後ろへと倒れた。
「貴様……何を!」
これをバディへの攻撃と捉えたセリオスが、透かさず盾を装備して構えた。
俺も、今の行為を不意打ちと認識し、緊迫感に従って倒れたルナに駆け寄ろうとした。
その時——。
「ッ!」
「ッ……⁉」
ルナが、ノヴァに迫ろうとしたセリオスを、武器を手で押さえて制した。
倒れた状態から起き上がったことも。
セリオスへ詰め寄ったことも。
脳が理解する間もない程、一瞬で。
「~~~~~~~~!!」
「……?今、何と?」
「~~~~!!」
「?」
ルナがセリオスに、何かを語り掛けている。
しかし、その内容が……彼も俺も、彼女の喋りが速過ぎて聞き取れない。
まるで倍速に編集された動画を見ているかのようだ——。
「ッ!まさか、これが…………⁉」
「そう、これが灰の星珠の力。彼女の流れている時間を早めた」
なんて力だ。
もし、俺との戦いでこれを使われていたら……勝負にすらならなかったかもしれない…………。
「そこら辺を走り回ってみてくれ!」
ノヴァが、早口でルナにそう言うと……聞き取ったルナは高速で頷き——。
「ッ!」
再び、目にも留まらぬ速さで移動を開始した。
「ルナ……な、何…………うぶっ!」
「ちょっ、止め……!」
風を切りながら周囲を駆け巡ったり、悪ふざけに俺やセリオスの頬を指でつついたりしながら、自分が速くなったことをアピールする。
「早めるだけじゃなく、遅くしたり止めたりも出来るが、実例として分かりやすいから早くしたんだ」
「よく分かったが……!こっ、これはいつまで続くんだ!?」
「30秒だ。だからもうすぐ切れる」
「あたぁ!あぁたたたたたたたた…………あた?」
時間加速の効果が切れ、連続して脇腹をつつくルナの速度が、元に戻った。
「楽しんでくれたようで何よりだ」
「…………うん」
ルナは舞い上がっていた自分を恥ずかしそうにしながら、そそくさと俺から離れた。
包まれていた光は消え、灰の星珠は既にノヴァの元へと戻って公転を再開していた。
「凄い力だろ?しかし、その分クールタイムは10分と長い……だから戦いでは精々1回こっきりだ」
「クールタイムがあったのか?」
「あぁ、それも説明しないとな。星珠は能力を使い切ると、次に使うまである程度時間が掛かるんだ。剣は5秒、炎は30秒、飛行は20秒と、それぞれ掛かる時間は違うがな」
「へぇ~」
「まぁ、本当は10分じゃなくて7分なんだがな……」
「ん?何か言ったか?」
「えっ⁉あぁ、いいや何も!それじゃあ次の星珠の説明に入ろうか!」
ノヴァは早急に話に進めたいのか、すぐに次の星珠を手に取った。
白緑色の星珠を。
「これには防護の力が備わっている。さっきと同じく対象物に向けて解放すると、相手を障壁が囲って守るんだ。大体は防御用として俺自身に使うものだが……さて、誰に体感して貰おうかな?」
「わ、私はもういいから!」
「私も結構。よし、貴様の出番だクロム」
「えっ、俺……!?」
「決まりだな」
「ッ⁉」
勝手に実験台と決められた俺に、ノヴァは星珠を向け——。
力を解放。
光線が放たれ、一直線に俺へとやって来る。
「う……!」
殺意はないと分かっているが……それでも数歩、後退ってしまう。
当たったら痛いんじゃないかと嫌な想像が脳を巡り、身体を強張らせたが——。
「ッ!」
光線は、俺に至近距離まで迫った段階で四方八方に分裂。
瞬く間に球状の障壁へと形を成し、俺を取り囲んだ。
これが守りの力…………。
不思議と圧迫感はない。
むしろ、信頼を感じる。
俺は試しに障壁をノックしようと、腕を伸ばす。
「えっ……!?」
だが、障壁は弾くことなく俺の拳を素通りさせてしまった。
何だこれ——。
「手を引っ込めておけ」
「ッ!?」
ノヴァが、いつの間にか橙色の星珠から解放した剣を装備し、投擲する姿勢を見せていた。
「おい、待っ——!!」
俺の声も聞かず、剣は全力で投げ飛ばされた。
俺は反射的に手を引っ込め、身構える。
しかし——。
「ッ……!」
金属の衝突音がやや薄まって耳に響く。
障壁は剣を弾き、剣は地面に落ちた。
俺の手を難なく通していた障壁は、外からの攻撃を完璧に防いでみせたのだ。
「どうだ、それなりの防御力はあるだろ」
「相手の攻撃は通さず、こっちの攻撃は通せるってことか?」
「それが1番いいからな。あと……この力はただ守るだけじゃない」
「え?」
「無効能力を持ってる君でも上手く働くかは分からないが…………えい」
ノヴァは、軽く右手を横に振るう仕草を見せる。
すると——。
「……?」
白緑色の障壁が、消えた。
解除したのか?それとも何か失敗が——。
「クロちゃんが消えた!?」
「おい!奴をどこへやった……!?」
「えっ…………!?」
ルナとセリオスが、俺がいないと言って辺りを見回し始めた。
当の俺は1歩も移動せず、すぐ近くにいるというのに。
…………もしかして、見えていないのか?
「お~い!!」
俺は2人に向かって叫ぶが、聞こえている様子がない。
声も、遮断されているのか。
「透明化。それが、この力が持つもう1つの機能さ。取り囲んだものを見えなくし、発する音を漏らさない。その分、防御力は皆無になるがな。ちなみに、クールタイムは2分と少し長い」
そんなことまで……。
なら——。
「透明……じゃあ、クロちゃんはそこに——」
「あぁ。いるとも」
ノヴァが、また手を横に振った。
これで……透明化は解除された訳だ。
「あれ?まだ消えたまま——」
「ワァッ!!」
「ひゃあぁぁぁッ!?」
「ッ!?」
解除される前に2人の後ろに回り込み、解除された直後に声で驚かす。
「貴様、いつの間に……!」
「もう!」
「ははは!悪い悪い」
…………こういう茶目っ気を見せておけば、ルナも俺を心配しないで済むだろう。
「もしかしたら、君には透明化が効かないかもしれないと思ったが、杞憂でよかった。これなら…………問題なく作戦を遂行出来そうだ」
「作戦?」
「それは後で話すとして、残る星珠についてだが……生憎とこれを披露する訳にはいかないんだ」
ノヴァは、最後の1つである黒茶色の星珠を手に取って俺達に見せるが、やんわりと首を横に振った。
「何故だ?」
「これには……俺の従者である、アストの魂が入っている。解放すれば、約120mの体躯を持つ巨人の兵がこの場に現れる」
「巨人……⁉」
「120mって、凄っ!」
ハッタリなんかじゃ、ないんだろうな。
「これから潜入しようというのに、そんなものを出せば作戦は台無しだろう?しかも、再使用まで36時間を要する。シンプルに強力な力だが……おいそれと扱える代物じゃない」
これで、ノヴァの能力の全部が分かった。
剣、炎、飛行、時間操作、防壁、巨人の使役——。
ノヴァの力が判明する程……俺との勝負はギリギリだったと言った彼の言葉が、リップサービスだと思えて仕方なくなる。
ルナに……ノヴァに…………俺は気遣われてばかりだ。
こんな状態で一体、俺に何が出来る。
「さて、これで俺の全部を見せたことだし……これから行う作戦の説明に移ろうと思う。俺の能力を知った直後なら、すんなりと頭に入るだろうからな」
「その作戦とやらで……御影フメイを討つのか?」
「あぁ。俺と君達の力を合わせれば、これで確実に倒せる」
ノヴァが、俺達に集まるよう手招きする。
「………………」
何が出来るかなんて、考えてもしょうがない。
ノヴァの言う作戦に俺の存在が含まれているのなら、俺はベストを尽くして臨むしかないんだ。
俺がまだ、アンサラーである限り……!




