現れる星戦士 ①
ラスタさんの尊い犠牲、クロちゃんの健闘の末に、此岸リョウをAエリアから退かせて……早5日。
クロちゃんの怪我はすっかり塞がり、自由に動けるようになっていた。
……傷痕は今も、顔や身体の隅々に残っているけど。
私とセリオスは、クロちゃんが治るまでの間ずっと、此岸リョウがまた襲ってこないようにAエリアを警備していた。
此岸リョウの足取りを追いたい気持ちもあったけど、動けないクロちゃんを1人にする訳にもいかなかったから……仕方ない。
「おはよう、クロちゃん……」
「おう、おはよう」
私とセリオスは、病棟にいるクロちゃんを呼び起こし……一緒の食事へと誘った。
クロちゃんは、いつもと変わらぬ身のこなしでベッドから立ち上がり、共に住民達が揃ってご飯を食べる広場に向かう。
「体調はどうだ?」
「あぁ……もう十分に動ける――って珍しいな。お前が俺の心配をするなんて」
「ルナの同盟相手として、足を引っ張られては困るからな。ラスタが消えたからといって、腑抜けにはなるなよ」
「セリオス……!!」
「……あぁ、そうだな」
もう、何だってコイツはいつもいつも配慮ってものがないの!
……身体の怪我は治っていても、クロちゃんの心の中はまだ癒えていないのに。
「………………」
クロちゃんはラスタさんを思い出しているのか、目を下に伏せて……物憂げな表情を浮かべる。
……あれからクロちゃんは、不意にこういう表情を出すようになった。
大切な人の存在が脳裏を過って、今にも涙を流しそうにして偲んでいる。
何だか……前のクロちゃんに戻ってしまったみたい。
クロちゃんにとって、ラスタさんはそれ程……心の支えになってくれていたんだ。
私じゃ、埋められそうにないぐらい。
「……………………」
埋めてあげられたら、いいんだけどなぁ……。
広場に着き、給仕係の人から鶏ささみと葱、そして梅が入った出汁茶漬けを貰って……3人一緒に食べ始めた。
「頂きます……」
「頂きます。うん、美味しい!」
「確か出汁茶漬けと言ったか?米に湯を掛けただけの簡素な物だと思ったが、何とも味わい深い一品だ」
「いやぁ、全くだ!この世界の人間は、実に良い物を食すのだな!!」
「…………?」
「……ラスタにも、食べさせてやりたかったなぁ」
「クロちゃん…………」
「なんだ。見掛けないと思ったら、そうか……君のエルダーは消えてしまったのか。まぁ色々と大変だろうが、頑張れよ」
「あぁ、ありがとう……それで――」
「アンタ、誰?」
いつの間にか私達の輪の中に、見知らぬ男が混ざっていた。
見ただけでただの人でないと分かる……煌びやかな赤い髪と緋色の両目を持った、10代後半の青年。
この世の材質で生まれたとは思えない、滑らかで光沢のある錆色のインナースーツを着込み――。
その上から、硬いのか柔らかいのか判別しにくい灰色のアーマーを、胸や手足や両肩に装着し……。
宇宙を連想させる、ネビュラ色のマントを羽織っている。
「おっと、失礼……俺はノヴァ。どうぞよろしく」
「あぁ、えっと……神尾、クロムです」
「優木ルナです。えっと、こちらこそよろしく……じゃなくて!!アンタ何者なの⁉」
「まぁまぁ。そんな焦らずに……先ずは食事を楽しもうじゃないか」
そう言って、ノヴァという男は出汁茶漬けを口に含み、満面の笑みで舌鼓を打つ。
まぁ、コアを付けていないし、敵意もなさそうだけど…………。
「にしても貴様、よく食料を貰えたな。そんな怪しい出で立ちで」
「普通の人間の目には、俺はごく普通の同族として見えているからな。すんなりと頂けたよ」
「……ますます怪しいぞ」
「まぁ怪しいっていうなら……堂々と甲冑を着込んでるアンタも大概だけどね」
「なっ……私は、貴方の理想に応じてこの姿になっているのですよ!?」
「あっ、そう言えばそうだったね。ごめんごめん」
「私とて、周りからいちいち奇異な目で見られたくはない……!」
「ひそひそ言われてたもんね。金ピカだぁとか、色々」
「………………」
「そういうの、気にする奴だったんだな……お前」
「君も頑張れよ。ファイト!」
「うるさいッ!!」
「うん、実に美味しかったな!あれを作った人には、礼を言いに行かないとな!!」
「それは、後で好きに言えばいいけど……」
「いい加減、話して貰おうか。貴様の正体と目的を」
「そうだな……よし、この辺りでいいか」
朝食を食べ終えた私達は、人気のない場所で話がしたいというノヴァの要望で、Aエリアの外れへと移動していた。
「ここなら、住民達が巻き添えを喰らうこともないだろう」
「巻き添え……?」
「どういうことだ?」
セリオスが、彼の言葉の意味を先んじて汲み取り、盾を生成して構える。
「待ってくれ。俺は何も君達と本気で争いたい訳じゃない。ただ、少しばかり君達と手合わせがしたいだけだ」
「手合わせだと?」
「今一度、君達の実力を確かめたいのさ。特に……君の力をな、神尾クロム」
ノヴァはクロちゃんを人差し指で差した。
「俺の……?」
「……ネイウルを倒したのは、君だろ?」
「ッ!?」
ネイウルって。
確かBエリアで、クロちゃんとラスタさんが倒した狼男。
なら――。
この男の正体はまさか、彼らの仲間……?
ネイウルや緋影と同じで、アンサラーによって作られた存在なの……?
「……仲間の敵討ちをしたい、って訳か」
ノヴァを見るクロちゃんの顔に、より緊張が滲んだ。
「違う違う。俺はただ本当に、君達の実力を確かめたいのさ……手を組むのにふさわしいかどうか」
「手を組む?」
「随分、上からな物言いだな」
「そう受け取ってしまったのなら申し訳ない。それでどうかな?俺と、戦って貰えないだろうか?」
「ちょっと待って、手を組むってどういう――」
「それは、戦った後に話すさ」
「………………」
私達は顔を見合わせる。
「どうする?戦えって言ってるけど」
「私は反対です。口約束など、後でいくらでも反故に出来る」
「酷いなぁ。一緒にご飯を食べた仲じゃないか」
「貴様は黙っていろ」
「………………」
「……俺は、乗ろうと思う」
「クロちゃん……!」
「また貴様は甘いことを…………!!」
「こうして話し合っているだけじゃ、事態は進まないだろ?とにかく、先ずは俺が奴と手合わせをして……様子を見る」
「でも、手合わせって言いつつ……本気で殺しに来るかもしれないし…………」
「もし奴がその気を見せたら、すぐに2人で奴を止めてくれ。なに、少しぐらいは持ち堪えてみせるさ……ラスタがいなくても」
「クロちゃん…………」
「おっ、話は纏まったか?」
「あぁ。先ずは俺からだ」




