Even if we're apart…… ⑧
「オォォォォォォォォォォッ!」
「…………!」
俺は雄叫びを上げ、チャンスは一度きりの作戦に全てを懸ける意志を固めた。
ドグマ・コアから理気力を引き出し、槍に込める。
「ドグマ・バースト……!」
「待て、クロムッ!!」
分かってるよセリオス、真正面から放っても止められるだけだって。
――分かった上で撃つんだよ!
「ッ!」
俺は槍を3人の前の立つ此岸リョウに向け、人を覆い尽くせる大玉の黒塊弾を穂先から放出した。
黒塊弾は、圧を周囲に発しながら奴の元へ前進する。
避けたら結界に当たるんだ、此岸リョウは必ず受けて止める!
「ヤケクソになったな!通すとでも思ってんのか⁉」
黒塊弾が此岸リョウと3人の姿を、俺の視界から隠すが――。
「消し飛べぇッ!!」
その姿は明瞭になる、此岸リョウが黒塊弾を右の斧で叩き切ったことで。
狙い通りだ――!
「ッ⁉」
此岸リョウの眼が見開く。
当然だ、何せ――。
黒塊弾を防いだと思えば、俺が眼前にまで迫ってるんだからな。
「テメェッ――!」
俺は黒塊弾を発射したと同時に、俺も黒塊弾を遮蔽物にしながら奴へ突っ込んでいた。
一撃を防いだ所へ、透かさず奇襲を仕掛ける為に。
そして、俺は既に――。
ドグマ・バーストを放つ分の理気力を、槍に込めている!!
「オォォォォォォッ!!」
「クッ……!!」
俺は穂を大形の刃に変え、右手で槍を突き出した。
振り下ろした直後の右の斧は、すぐには振り直せない。
此岸リョウは身体を右に傾けて刺突を躱しつつ、結界を守るべく左の斧で槍を打ち上げた。
刺突は上向きになってしまったが、槍は無事、結界に当たって破壊に成功する。
後は、俺の理気力を皆に当てるだけだ。
待ってろ!俺が今、解き放って――。
「調子乗んなよッ……!」
「ッ!」
此岸リョウが、結界を破壊されたことに危機感を感じたのか――。
殺意を表明するかの如く紫色の光を纏わせた両の斧で、俺の身体を断ちに来た。
どれか1つでも接触すれば死は免れない、1双の厚刃が襲い掛かる。
――それも、狙い通りだ!!
「ッ⁉」
俺は背後に隠していた、左手の持つもう1本の槍を前面に出し、2つの斧と衝突させた。
これも、突撃を仕掛けた時には既に、コアからの理気力を注入させている。
武器に込められた互いの理気力が、衝突したことで放散し合い、空気中に残滓が舞う。
これは無論、押し勝てると思っての行動じゃない。
共命理をされている以上、負けは見えてる。
だが一瞬、ほんのわずかな時間でも、奴の攻撃を受けられれば――。
右手の槍が自由になる!
「ウゥ……ッ…………!!」
俺は刃を届かせないよう受ける左腕に全力を傾けつつ、右手の槍を3人に向ける。
狙い撃つ余裕はない。
当たってくれッ!!
そう強く念じて、俺は黒塊弾を連発した。
作り出した小規模の弾幕が、ばらけながらも3人へと迫る。
「ッ!」
その内3、いや4発が、彼女達に命中する軌道だった。
当たれ!!
後、数瞬で弾が届く――。
その時だった。
「壁に張り付けぇッ!!」
「ッ⁉」
此岸リョウの言葉が響き――。
3人が、何かに引っ張られるようにして、3方散り散りに宙を飛び、壁に張り付けにされた。
「そ……」
当たるはずだった黒塊弾は、誰もいない空間をただ突き進んで――。
無為に、別出口の扉へ着弾した。
「そんなッ……⁉」
狙いを変えて撃つ時間は、もうなかった。
「残念だったなぁ!神尾クロムゥッ!!」
「ウァッ……!!」
槍で持ち堪えていた左腕は限界を迎え――。
列をなした刃が、俺の胸を切り裂いた。
「グァッ……ァ…………!」
走る痛みとドグマ・バーストの反動が、一挙に身体を襲い、俺は力なく仰向けに倒れ込んだ。
衝突したことで勢いは減衰し、裂傷は辛うじて浅く済んだ。
しかし、どんなに浅かろうと――。
この一撃は、絶望という途轍もない苦痛を俺に叩き付けていた。
全てを懸けた作戦は失敗に終わり、ドグマ・バーストは使い果たし、身体はもう満足に動かせる状態ではなくなった。
その上――。
「いやぁ、マジで冷や汗かいたぜ。さっきのはよ」
余裕を取り戻した此岸リョウの斧が、既に宙を舞って3人の周囲に結界を張り直していた。
俺がどれだけ頭の中で策を練ろうとしても、絶望的な現状が不可能だと断じてしまう。
「ホント、恐れ入った。まぁ、でも結局……テメェみてぇなペラ野郎のすることなんざ、全部無意味ってことだよ」
「ッ……!?」
此岸リョウは、戻った両の斧を床に突き立てて手放し、俺の首を左手で掴んで持ち上げた。
奴の握力が俺の気道を塞ぎ、息を途絶させられる。
だが奴のやることが首絞めだとは思えない、首絞めならもっと力を入れるだろう。
何を――。
「ぶっ飛べ」
手が、離れ――。
「ゥブッ……!!」
喉奥から、生温い鉄の味がする液体がせり上がる。
奴の右手と、拳から放出された理気力が腹部にめり込み――。
後方へと打ち飛ばされた。
「クロム…………」
遠のく意識の中で、ぼやけた視界越しに彼を追う。
私達を助ける為に死に物狂いとなって戦い、傷付いていくクロムの姿を。
助けに行きたい。
一緒に戦いたいのに、身体が動かない。
「ッ!」
クロムが――。
此岸リョウの殴打で血を吐き出し、扉を破って視界から消えた。
生きている彼の姿を捉えられなくなってしまった。
此岸リョウが、消えたクロムを追っていく。
駄目だ。
このままでは本当に、クロムが死んでしまう。
今すぐにこの拘束を破らないといけないのに、力を出せない。
彼と同じ、理想の力を持っているのにどうして――。
「おい、ラスタ」
「ッ!」
此岸リョウがこの建物から出て行った折に、別の壁に張り付いているセリオスが私に喋り掛けた。
「何故、同じ力を持っているお前が、抜け出せないか分かるか?」
「分かり、ません……」
「恐れているからだ」
「ッ……!」
恐れている、私が?
馬鹿な、そんなことはない。
今までどんな敵が相手だろうと、私とクロムと共に戦って来た。
今更、恐怖するなど――。
「それは敵の強さからくるものじゃない、貴様は……神尾クロムと別れてしまうことを、恐れている」
「ッ⁉」
「お前も分かっているはずだ。共命理を行っている此岸リョウを倒すには、同じく共命理を果たすしかない。それも、数秒間だけの生半可なものではなく…………自身の存在全てを懸けて行う完全な共命理をな」
「……………………」
セリオスの言葉が、反発せず私の胸に浸透する。
そうなのだと、私の心が認めているからだ。
一切の希望がなく、確定した私の消滅。
もうクロムの隣に居られない、クロムが作る料理を食べられない、クロムとの想い出を作れない。
生きて欲しいと言ってくれたクロムの言葉を、裏切ってしまう。
それらが、全部――。
全部――。
どうしようもなく、怖い。
「フン、感情で行動が支配されるとは……本当に逸したエルダーだ。貴様は」
「……………………」
「覚悟を持て!」
「ッ!!」
「お前が心の底から、奴を想っているのなら……何が何でも奴の未来を守り抜けッ!それが、愛ある者が背負う本当の使命じゃないのか⁉」
「…………!」
クロムの未来。
彼がまだ、生きていられる時間――。
まだ、彼が歩き続けていられる先――。
「戦え!ラスタッ!!」
「………………………………」
恐怖が消えたわけじゃない。
でも――。
「……オオォォォォォォォォォォォォォォッ!」
それを押し退ける程の意志が、私の中で出来ていた。
壁に縫い付けていた力を跳ね除け――。
私は、降り立つ。
戦う為に、クロムの未来を拓く為に。
「ラスタさん…………」
「行け」
「はい……ありがとうございます」
痛み、未練。
全てを振り切り、私は彼の元へ駆けた。




