Even if we're apart…… ⑦
「あっ、クロちゃん!!」
「悪い、遅くなった!」
俺達は体育館に辿り着き、互いに首を絞め合っている住民達と、それを止めるルナ達とセリオスを目撃する。
……想像通りの、凄惨な光景だな!
「すぐに止める!ラスタ、やれるか⁉」
「はい!」
「間に合え…………!」
俺達は槍を生成し、住民達に黒塊弾を当てていく。
当てられた住民は途端に行動を止め、その場に倒れ込んだ。
よし、通じる!
「やった……!」
俺とラスタは動きを止めず、次々と黒塊弾を放つ。
1人、また1人、首絞めを止めて静かに倒れていった。
「まだいる!こっちだ!!」
セリオスが、奥で互いの首を絞め合う最後の2人を喰い止めながら叫ぶ。
俺達は槍を向け、狙いを定めて黒塊弾を放つ。
「……あ……」
黒塊弾は住民の胸に命中し、力を込めていた腕が解ける。
呆然とした声を漏らして崩れ落ち、暴走は沈静化した。
「これで、全員か⁉」
「うん……!」
「すぐに、安否を……!ゥ、カハッ…………!!」
「ラスタッ!?」
撃ち終えたラスタが突然、腹部を押さえて膝を折った。
口から血を吐き出し、床に撒き散らす。
「傷が開いたのか……⁉」
血が出ているのは口だけじゃない、押さえている腹部からも流れて服を濡らしている。
ずっと痛かったはずなのに、ここまで無理を通していたんだ。
此岸リョウによって傷が増えているにも関わらず、なんて無茶を……!
「心配しないでください。こうなることも、ッ……承知で、来ましたから…………!」
「するに決まってるだろ⁉ルナ、ラスタを看てやってくれ。無事は俺とセリオスが確かめる」
「わ、分かった……!」
「頼む、セリオス!」
「言われずともやっている」
俺はセリオスと共に、倒れている人達の安否確認をしに回った。
1人1人、声を呼び掛け、呼吸をしているか確かめていく。
…………皆、声を掛けても目を覚まさないが、首に痣こそあれど呼吸は出来ている。
俺達は全員を回復体位で寝かせ、目覚めるのを待つことにした。
よかった、誰1人死ぬことなくて。
これで後は……。
「おい、此岸リョウはどうした。その顔の傷、奴と戦ったんじゃないのか?」
「待ち伏せされた所を、切り抜けてやって来た……ラスタのお陰で」
「倒した訳じゃないんだな?」
「あぁ……だから、やって来るアイツを迎え撃ちたい。協力してくれ」
「いや、奴を倒すのは我々でやる。洗脳が解けた今、貴様の役目はもう終わりだ」
「そういう訳には……!」
「貴様はここで、ラスタと住民達を守っていろ」
「そうだよ!私達が2人の代わりに、アイツをのしてやるから!!」
……物騒なこと言うようになったな。
まぁルナも、非道な行いをする此岸リョウが許せない気持ちになっているのだろうが――。
「へぇ、誰をのしてやるって?」
「ッ⁉」
「テメェら如きに、俺が負けるかよ……!」
響く足音を共にして――。
此岸リョウの声が、入口の方から発せられる。
全員が一斉に入口へと視線を集め、こちらへ歩いてやって来る奴を捉えた。
「此岸リョウ!」
「その姿……!」
随分と、様変わりしている。
俺達のいる体育館内部に奴が立ち入り、窓から射す月光が奴に当たることでそれがよく分かる。
2本の斧をそれぞれの手に装備し、昔の西洋貴族が着るような、濃紺を基調にした盛装を身に纏っていた。
共命理したのか、エルダーと!
「もう出し惜しみはなしだ。全員、ここでくたばり散らしやがれ…………!」
「セリオス!」
ルナがセリオスを呼び掛ける、おそらくは共命理をするという合図。
それを承知したセリオスは、すぐに身体を理気力の風に変えて、彼女の元へと飛んで行く。
今、奴に拮抗出来るのは万全な共命理を行える、ルナとセリオスだけ。
ルナはそれを分かっていて、セリオスにすぐ呼び掛けたんだ。
しかし――。
「跪けッ!!」
片方の斧の刺先を理気力の風に向けて、此岸リョウがそう唱えると――。
刺先から、透けた紫色の波動が発射されてセリオスに当たった。
「ッ⁉」
セリオスが突如として人型に戻り、垂直に落下。
跪けという奴の言葉通り、両膝を床に付けて身を屈めた。
「クゥッ!何だ、これは……⁉」
「お前らもだッ!!」
「うッ……!!」
セリオスに向けた斧が、そのまま水平に振るわれると――。
紫色の波動が扇形に放出され、セリオス以外の俺達3人を通過し――。
「ッ!」
俺の身体に、途轍もない程の重圧が掛かる。
「ッ……クッ、ウゥ…………!!」
堪らず、膝が崩れる。
ラスタとルナも同様、抵抗叶わず膝を折っていた。
……身体が硬い。
全身を蝋で押し固められたみたいに、動きを封じられている!
「さて、どいつから殺してやろうかねぇ……」
此岸リョウは跪いている俺達を見下ろしながら、まるで品定めをするように悠々と、俺達の前を歩いた。
腹立たしい、その余裕の態度。
今すぐ崩してやりたいが、それが今出来そうにないのが歯痒くて堪らない。
「俺を散々殴ってくれた、神尾クロム……」
「ッ……!」
「いや、その前に……大事な仲間から逝って貰おうか」
「ッ⁉」
「こいつはテメェの彼女か何かか?クロちゃんなんて呼んでるし」
「ッ……!」
ルナの項に、斧の刃が添えられる。
鋭くて冷たい刃が自分の項に当たっている、しかもそれが真後ろにあって目に見えない。
ルナの顔が、恐怖に襲われて青ざめていく。
「ハァ……ハァ…………!!」
呼吸が荒れだし、目に涙が浮かぶ。
「ま、待てッ……!!」
「ハッ、馬鹿が……誰が待つかよォッ!!」
「ッ⁉」
斧が、振り上がる――。
ルナの首が、落ちて死ぬ――。
「止めろォォッ!!」
心底が焼け焦げるぐらい熱くなって、俺は必死になった。
邪魔なものは全て突き破る意気で、無我夢中に身体を動かそうとした。
そうしたら――。
「なッ!?」
気づけば、俺の右手はいつの間にか生成していた槍を握り締め――。
奴に向けて、黒塊弾を放っていた。
「チィッ……!」
此岸リョウは驚きを顔に出しながら、顔面に迫っていた黒塊弾を避ける。
「何で動ける……⁉」
「ウオォォォォォォォォォォォォッ!!」
俺は槍を構え、奴に突っ込んだ。
戦力差なんて関係ない。
俺の大事な人を殺そうとする奴は、俺が何としてでも倒す!
「いいぜ、そんなに死にてぇなら……望み通りテメェから殺してやるよ!」
あの掛かっていた重圧はない。
奴の命令から外れた行動を取ったことで解除されたんだ、今は存分に身体を動かして戦える。
「止まれ」
「ッ⁉」
刺先から新たに放たれた波動が、俺の胸を通過。
迫る最中で、身体をまた固められた……!
――此岸リョウが、右手の斧を振り上げてこっちに来る!!
「ッ、グゥ……!ウゥゥゥゥゥッ!!」
先と同じく、俺は我武者羅になって身体に力を入れ、斧が下ろされた直後の間に奴の命令を払拭。
斧の刃を右に身を投げ出して躱し、透かさず槍で斬り掛かる。
此岸リョウは、左手の斧の柄でこれを受け止めた。
「また動きやがった。気合で破れるもんじゃねぇってのによ……それがテメェの能力か?」
「ッ…………!」
槍に力を込め続け、押し切ろうとするが、受ける斧はビクともしない。
「とことん気に入らねぇぜ……神尾クロム!」
「ッ⁉」
槍を片手1つで押し返され、体勢を崩した俺の腹部に右手の斧が突き出される。
後ろへ跳ぶが――。
「ウッ……!」
間に合わず、裂傷が刻まれてしまう。
痛みで着地の姿勢を作れず転倒した俺は、奴が近付いて来る前に立ち上がろうとするが――。
此岸リョウはもう、俺の前に迫っていて――。
「ッ、ウァァァッ!!」
俺の左太股を、刺先で突き刺した。
鋭い衝撃が脚を貫き、焼け付くような激しい痛みが身体中に押し寄せて来る。
槍を手放し、両手で抜こうとするが――。
「ウゥ……ゥゥゥゥゥッ!!」
刺先が、抜けない!
「ハハハハハ!いい様だなぁ、神尾クロム。安心しろ、簡単には殺さねぇ」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………!」
「思う存分甚振ってやるぜ。精々味わえ、苦痛尽くしの地獄をよぉッ!!」
「ッ⁉ゥブッ……!」
奴の足が、俺の顎を蹴り上げた。
鈍い衝撃が頭の奥まで突き抜け、白くぼやけた視界が天井を映し、身体は倒れている住民達を押し分けて床を滑った。
「クロちゃん!」
「クロムッ!!」
「ッ……!!」
そうだ。
俺の黒塊弾で、動けないルナとセリオスを自由に出来れば、この状況を覆せる。
奴は俺を圧倒し、油断している今なら…………!
俺は倒れながらも首を起こし、ルナとセリオスの位置を捉える。
「おい、この程度でくたばるんじゃねぇぞ?地獄はこっからだぜ」
「…………!」
今だ!
槍を新たに生成し、間を置かずに黒塊弾を2発放った。
黒塊弾は、余裕な表情を浮かべて歩み寄って来る此岸リョウの横を通り過ぎ、ルナとセリオスの方へと――。
「させねぇよ」
「ッ⁉」
左手の斧が自動的に奴の手から離れ、後方に滑翔した。
黒塊弾を追い越して3人の元へと飛来し、囲うように周囲を旋回。
飛ぶ斧の軌道に沿って紫色に染まった円状の結界が形成され、黒塊弾を弾いた。
飛行していた斧は、奴の手に戻る。
「へっ、思った通り……結界を張っちまえば届くことはねぇな。能力を解除出来る能力ったって、力の差までは覆らねぇのが道理だ…………そうだろォッ!!」
「グッ……ッ⁉」
此岸リョウは俺の握る槍を蹴り飛ばし――。
そのまま足の裏で、俺の腹部の裂傷を踏み付け、圧迫した。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
踏み潰されるような圧力が腹の奥まで食い込み、全身に痛みが弾け飛んだ。
思わず身体が跳ねても、足は離れない。
此岸リョウは嬉々とした表情で足に体重を掛け続け、俺の傷口を踏み躙る。
……どうすればいい。
どうすれば、この状況を覆せる!
「ク、ロ……ム…………!」
同じ力を持っているラスタは既に戦闘不能、命令を跳ね除けて動く力はない。
俺だけの力で、切り抜けないといけないんだ!
切り抜けないと…………皆が、奴に殺されてしまう!!
「おらおら、さっきの勢いはどうした?ちったぁ張り合ってみせ――ッ!」
此岸リョウが後退り、足が腹から離れる。
「ハァ、ハァ…………!」
また新たに生成した槍を右手に握り締め、悪足掻きに振るった一撃が、此岸リョウの頬を掠めたからだ。
「……はっ、そうだよ。そうやって憎たらしく抗ってくれなきゃ、殺し甲斐がねぇってもんだ…………よッ!」
「ウグッ!」
此岸リョウは俺の横腹を勢いよく蹴り付け、俺は球のように転がされた。
「……ッ、グッ…………!」
腹部と膝に出来た、裂傷の脈打つ痛み。
蹴られた横腹と顎の、鈍く痺れる痛み。
全てが消えずに持続して発せられ、俺に伏することを促すが――。
俺は、身体の警告を振り切って立ち上がった。
「ッ……!」
すぐ側に、此岸リョウが蹴り飛ばした俺の槍が転がっていた。
既に新しく作った以上、普段なら放っておく物だが――。
「へっ……情けねぇ面だな。立つだけで精一杯か?」
立ち上がった俺に、此岸リョウは3人を遮るように移動しながら向き合った。
横柄に煽るような口調で物を言っているが、決して結界に攻撃を当てさせないよう、念入りに立ち回っている。
自分の勝利に盤石にする為、か。
「………………」
俺が奴を出し抜くには、搦め手じゃ駄目だ。
愚直なまでに真っ向からぶつかって、突破するしかない!




