Even if we're apart…… ⑤
俺は後退りし、槍を生成して構えつつ、現れた2人と相対する。
あの半歩後ろにいる女の子は、エルダーなのか?
グラスティウスで見た全員の姿を覚えている訳じゃないから、確証はないが――。
2人掛かりで俺を倒しに来たというなら、エルダーで間違いないだろう。
……此岸リョウと違って寡黙、まるで機械だ。
彼女は着用している、濃紺が基調の豪奢なゴシックドレスは、着させられているように見える。
「やっぱり、ルナをつけていたのか?」
「つけた?いいや、張ってたのさ。テメェらが車でここに来たことは、最初から分かってたからな。そもそも、俺が来るように仕向けたんだからよ」
ヨコミチさんが助けを求めたのも、奴の洗脳からだと?
何から何まで俺達は、奴の掌で踊らされていたというのか。
「にしても、危機感のねぇ奴だなぁオイ。エルダーを車に置いたまま来るなんてな、自分の車が可愛かったか?」
「……………………」
ラスタが戦えない状態なのは、やはり知らないようだ。
なら今、ラスタが狙われる心配がないのは、この状況において唯一の救いだな。
「まぁ、テメェ1人ってんなら、狩り易くていいんだけどよ……行くぞ、ファラ」
「はい…………」
此岸リョウは薄ら笑いを浮かべながら、持っている斧を強く握り締めて腰を落とす。
エルダーも、彼に倣って同様の斧を生成し、構えを取った。
どうして俺達は、行く先々でこんな……。
「……どうしてなんだ」
「あぁ?」
「どうして皆、そんな倒すことしか頭にないんだ。そんなに自分の理想が大事か……!?」
「はっ、そんな甘っちょろいこと抜かしてぇなら……」
「ッ!」
「先ずテメェの理想を捨てろよなぁッ!!」
2人が、地面を蹴って俺に迫る。
槍の穂先から両者に黒塊弾を放ち、牽制するも――。
悉く反射的に回避され、斧の間合いまで接近を許してしまう。
「…………!」
空気を震わせ、俺の身に降り掛かる2つの刃。
――受けられるものじゃない!
後方へ跳び、斬撃を躱す。
外れた斧は地面を砕き、深い痕を刻む。
2人の攻撃は緩みない。
此岸リョウは、先の攻撃で飛んだアスファルト片の1つを空中で掴み、握り締めて――。
「飛べ」
そう言い放ち、腕を俺の方向に突き出し、握り拳を開く。
「ッ⁉」
すると、此岸リョウの手の内にある破片が、何の外力もなしに弾丸の如き速度で飛来した。
俺は、即座に左へ移動するが、破片は右腕に鋭い痛みを残して通り過ぎる。
「ッ、ウッ……!」
俺は突発的に、血を流し始めた腕の傷を押さえるが――。
「ッ!」
エルダーの少女が既に迫っているのを見て、押さえている場合じゃないと悟る。
攻撃を仕掛けられる前に槍を振るい、迎撃した。
「ッ……⁉」
しかし斧の刃と刺先の隙間に穂先を絡め取られ、地面に押しやられてしまう。
そして、エルダーは槍を斧で押さえ込んだまま、俺の懐へと跳躍。
「ゥグッ……!」
俺の鳩尾を、膝で突いた。
重い――!
俺はエルダーの膝蹴りに堪え切れず、槍を手放して倒れ込む。
「死ねやぁッ!」
「ッ⁉」
その瞬間を、此岸リョウは憎々しくも逃さない。
跳躍でエルダーを飛び越えながら俺に迫り、斧を逆手で振り上げ、俺の胸に目掛けて突き下ろす。
俺は、新たに槍を生成。
肉薄する斧に、柄を割り込ませた。
「チィッ……!」
柄は刃と刺先の隙間へと入って衝突し、辛うじて喰い止めることが出来た。
「クゥッ…………!」
――競り合いへ持ち込まれる前に、この状況をどうにかしないと!
「ッゥゥゥウアァァッ!!」
「ッ!?」
俺は、着地した此岸リョウの重心を、槍で引いて前側に移動させながら、奴の腹部に両足を当てて蹴り上げ、槍ごと飛ばす。
この土壇場、苦し紛れに放った見様見真似の巴投げは決まり、此岸リョウは俺の真後ろへ飛んで地面に落ちた。
「ッ!」
投げた勢いで起き上がった俺に、再びエルダーが襲い掛かる。
繰り出される斧の刺先。
俺は斧を躱し、突き出した柄と彼女の腕を掴む。
そのまま、力任せに身体を回し――。
勢いで体勢が崩れた所で彼女に足を引っ掛け、放り投げた。
意図せず、立ち上がった此岸リョウの元へと転がり込んだエルダーは、ボールのように此岸リョウの足裏で受け止められる。
「ハァ、ハァ……!」
俺の敗北に直結する攻撃が、絶え間なくやって来る。
――しかし、対応出来ないことはない。
無論この状況が続けば負けは確実だが、目的地である体育館に向かえば、俺は住民達の洗脳を解き、足止めを喰らっているルナとセリオスの助太刀を得られる。
奴らの攻撃をどうにか耐え忍びながら、皆の元に辿り着く。
それが、ただ1つの勝機。
「ったく。どうせ俺に殺されるってのに、足掻くなよ」
何度もラスタを甚振って、俺を脅し続けた汐見ルウとはまた違う。
この男は最初から、俺を殺すつもりでコアを獲ろうとしている。
人に対して断じてとるべきじゃない奴の言動と態度、そして攻撃は、俺の胸に見えない棘を刺し――。
内に溜まっていた、俺の鬱憤を吐き出させた。
「お前、人を殺すのに何の躊躇もないのか……!?」
「はっ!一線なんざ、もう越えちまったからな。今更、何人殺そうが同じだ」
「どうして、そんな風に開き直れるんだよ……!お前は、自分の行動がおかしいかもしれないって、一度でも思ったことはないのか⁉」
「……そういう問答をしに来たんじゃねぇんだぞ、俺は」
「1人の人間が命を好きに殺したり操ったりするのは、駄目なことだって分かるだろ⁉」
「相変わらず下らねぇことを、うだうだと」
此岸リョウは、俺の逆上して出た言葉に舌打ちを放つ。
表情も、先程の笑みとは打って変わって、渋面に。
「あ~あ~気に入らねぇ。さっさとぶっ飛ばして黙らせてやりてぇが、テメェ1人に共命理は勿体ねぇしな…………ファラ」
「はい」
「奴を潰せ。全力でな」
そう言って、此岸リョウは前に立つエルダーの背中を叩く。
奴の苛立ちの表れか、気合を入れる為の一種のルーティーンか。
いずれにせよ、今の行為に大した意味はないと気に留めていなかったが……。
その見通しは甘かった。
「……………………」
叩かれたエルダーは衝撃で前へぐらつき、地面に倒れ掛かると思いきや――。
紫の、仄かな光を発し――。
「ッ!?」
一陣の風が吹き付けたかのように、瞬時に俺のすぐ側にまで距離を詰められ――。
捉える間もなく、彼女の足底が俺の腹部に深くめり込んだ。
「グェッ……!」
あの時の膝より遥かに重く、鋭い一撃……!
抗えず、身体が地面から離れて真後ろへと飛び、車止めのポールに背が当たる。
「ッ、ウゥッ…………!」
腹部に加えて背中にも来た鈍痛が、身体中を伝播する。
何だ、今のは……!
明らかに、エルダーの速度が上がっていた。
力が上がったのか。
いや、確かに蹴りは更に強烈な威力になっていたが、そんな単純なものじゃない。
彼女は本当に風みたく、浮いて俺の懐へ――。
「ッ⁉」
振りかざされた斧の威圧が、俺の思考を中断させた。
エルダーはまた、不可思議な手段で浮いて俺に接近し、着地。
勢いで足を滑らせながら更に俺の間近へと迫り、斧を斜めから振り下ろした。
俺は咄嗟に地面を蹴り、左へ身体を投げ出すことで回避する。
俺の後ろにあったポールは、エルダーの斧によって圧し折られ、無惨にも両断された。
……髪を、刃が掠めていた。
後少しでも遅れていれば……あぁなっていた、そう思うと寒気立つ。
生成した槍を杖にして立ち上がる俺に、向き直って斧を構えるエルダー。
その両の袖口から――。
「ッ!」
一筋の黒い液体が流れ出す。
液体は、斧を握る手へと伝わり、指関節から滴り落ち、地面に痕を残していた。
よく見れば、裾からも液体が流れ出ている。
これは……血、なのか?
衣服も一部、破れている箇所があった。
「いいねぇ。そうやってビクビクした顔がテメェにはお似合いだ」
此岸リョウは傍観者気取りで、自身のエルダーが俺を襲うのを楽しげに眺めていた。
「……彼女に、何をした?」
「何って、他のエルダーじゃあビビってやれない戦闘法を……アイツにやらせてるだけだ」
「戦闘法……?」
「そら、来るぜ」
「ッ⁉」
彼女が斧を水平にした突きの構えで、また薄光を発して俺に迫る。
俺は柄を縦に構え、再び槍での喰い止めに臨んだ。
「ッ!」
だがエルダーは至近距離になって、斧を手放し――。
両足の靴底を、俺に見せた。
これは、斧に注意を向けさせてからのフェイント――!
「ウブッ……!!」
柄で突き出す両足を受けるが、勢いは止まず――。
俺の顔面に柄が押し込まれ、大きく上体を仰け反らされた。
瞬く星々の夜空を映す上向きの視界。
俺はすぐに、エルダーの方へと正しく戻した。
捨てた斧を両手に引き寄せ、逆袈裟の軌道を描いて振るうエルダー。
俺も、後ろへ跳びつつ槍を斧に刃向かって振るい、互いをかち合わせる。
鳴り響く金属音。
「ッ……!」
彼女の勢いを削ぐべく放った一振りだったが、効果はなし。
削ぐどころか、こっちが衝撃で槍を持っていかれそうだった。
「エルダーって理気力に姿を変えられるだろ?普通は共命理をする為だけのものだが、その姿になった時の動きは非常に速い」
「ッ!?」
此岸リョウが、戦っている俺に続きを語り始めた。
「なら……理気力状態で素早く立ち回り、人型状態で叩くスタイルを取らせれば、誰もが手こずる強いエルダーになるって訳さ」
エルダーが、奴の言っていることの実例を見せるように、紫の光を上げて高速移動を行った。
今度は、より理気力に姿を変えて、より速く――。
残光を描いて、俺の背後へ回る。
目で追っていた俺が、振り向き掛けた時には既に――。
「ッ⁉」
斧の刃が、俺の首を横から刈り取ろうとしていた。
息を吞む間もなく迫る死に、俺は死に物狂いで斧の柄に槍を押し当てる。
「ゥゥゥウグゥッ……!!」
勢いで身体が後ろへ押し出されながらも、決して刃が首に当たらぬよう踏ん張り、辛うじて刃を留めた。
――畜生、駄目だ。
エルダーには防戦一方で、逃げ出せる隙がない!
ドグマ・バーストを切って強引にエルダーを突破したいが、此岸リョウが離れた場所で控えている。
どうすれば…………。
「ッ!」
エルダーの顔を見ると、至る箇所に裂傷が付いて出血を起こしていた。
顔だけじゃない。
両手や首などの肌、破れた衣服の内の肌から、同様の傷が見える。
さっき、血を垂れ流していた袖と裾の内からは、更に多量の血が流れていた。
「まっ。本来は、瞬時に切り替えられるものじゃねぇから……再構築が上手くいかず、やればやるほど傷が出来ちまうがな」
「そんな、無理矢理な方法をさせてまで……ッ…………!!」
喰い止めてもまだ、競り合いは続く。
エルダーは傷だらけであろうと表情を変えず、力を少しも緩めず、斧を強引に振り抜こうとしていた。
刃は依然、俺の目と鼻の先にある。
「フン。エルダーに何させようと、俺の勝手だろ?けど、流石に1人で戦わせ続けるのってのは……悪ぃからな」
「ッ……!?」
「加勢してやるか」
そう言って、此岸リョウは持っている斧を空中へ放り投げた。
縦に回転していた斧は、上昇し切った段階で停止。
自動的に、刺先が俺に向けた。
「ウゥッ……!!」
こうなったら、ドグマ・バーストを切るか!?
だが、両手は槍で斧を押さえていて離せない、片方でも手を離せばその瞬間に俺の首が斬られてしまう!
――だったら!!
「刺し殺せ」
此岸リョウの命令によって、空中の斧が射出される。
と、同時に――。
俺は、競り合いを維持したままエルダーへ詰め寄った。
「あぁ?」
元より間近な為に、彼女の身体とはすぐに密着する。
俺は、その瞬間――。
エルダーの肩と頭に背を預け、勢い任せに1回転し、彼女の後ろへと移動した。
「ッ!」
此岸リョウの刺し向けた斧は、俺でなく地面に深々と突き刺さる。
槍の抵抗がなくなり、空を斬り裂いたエルダー。
振り切って空いた彼女の脇の下を、透かさず槍の石突で突いて打ち倒し、即座の追撃を阻止して距離を作った。
「チィッ!往生際が悪ぃんだよ…………!!」
粘っている俺を腹立たしいのか、此岸リョウが傍観を止めた。
突き刺さっている斧に手をかざし、遠隔操作で自身の手元へ引き寄せ、俺に迫――。
「ファラ、捕まえろ!」
「ッ⁉」
倒れていたエルダーが不意に発光し、完全な理気力の風になって押し寄せる。
咄嗟に黒塊弾を発射するも、縦横無尽に空間を動くエルダーに当てられず、肉薄を許してしまい――。
「ウッ……!」
当たる寸前に人間の姿となったエルダーに、腕で組み付かれ――。
建物の壁に激突した。
「ッ!ァアッ…………!!」
先よりも更に強烈な痛みが襲うが、すぐに無視して現状の危機回避に動いた。
痛がっている時間なんてない。
エルダーは俺に組み付いたまま離れず、此岸リョウは刻一刻と俺に近付いて来る。
一心不乱に動き、腕に力を込め、拘束を解こうとするが――。
「ッ…………!!」
解けない。
また理気力の状態になって、より傷付いているにも関わらず、エルダーは変わらない全力で俺の自由を封じている。
両腕の関節も組み付きに巻き込まれているから、ドグマ・バーストも使えない。
「よし、しっかり押さえておけよ……!」
バディをどれだけ酷使すれば、気が済むんだ…………!!
ルナ、アラタ、ルウ。
皆、エルダーとは何かしら意思を共にして協力していたのに、こいつときたら――。
何から何まで、道具扱いだ。
俺は、こんな奴に…………負けたくない!
「あばよ、善人ぶったクソ野郎!!」
「ッ!!」
此岸リョウが俺の前に立ち、高々と振り上げる。
成す術、なし。
「クッ…………!」
痛みに耐える方向で意思を固め、打破する思考を放棄してしまった。
その時――。
「あ……?」
「ッ⁉」
視界の左端、俺が走って来ていた道の奥から光と見え、音が聞こえ出した。
暗い夜の中で、その光と音は瞬く間に強くなり、俺達に正体を明かす。
「なッ……⁉」
猛スピードで近付いて来ていたのは、キャンピングカー。
俺の車だった。
運転しているのは誰か、すぐに分かった。
「ラスタ…………!」
ライトが、俺達の視界を覆う。
車は全速力を維持したまま、俺達の元へ突っ込み――。
「ヴゲェッ……!!」
此岸リョウを撥ねた。
思い切り撥ねられた此岸リョウは、横へぶっ飛び、地面を派手に大きく転がった。
車は急停止し、運転席のドアから――。
「クロム!」
ラスタが現れた。
ラスタは、エルダーに組み付かれて動けない俺の現状を、即座に察知。
槍を生成し、穂先から黒塊弾を彼女へ撃ち放った。
命中したことでエルダーの腕力が緩み、そのお陰で俺は彼女を退かして脱出に成功する。
「大丈夫ですか、クロム!?」
「ラスタ、どうして……!?」
「話は後です。今は速く、目的地に!」
俺はラスタに手を引かれ、共に車に乗り込んで、体育館へと発進。
此岸リョウとエルダーを置き去りにして、ラスタの駆る車は道を突き進んだ。




