Even if we're apart…… ④
此岸リョウは胡坐の状態から膝を立てて立ち上がり、斧を持って演台から飛び降りた。
私達は壇上の前まで歩き、彼を睨み据える。
この男が、Aエリアに住む人達を操り、ヨコミチさんの息子さんを手に掛けた元凶……!
「どうして、こんな真似を……!!」
「あの男は一緒じゃねぇのか?仲間だと思ってたんだが――」
「どうしてこんな真似してるのかって聞いてんのッ!!」
「おぉ、うるさっ。喧しい女は嫌われるぜ?ハハッ!」
私が我慢ならず飛ばした怒号を、 此岸リョウは軽くいなし一笑に付す。
自分の行為に悪びれもしない、その高慢ちきな態度が――。
より、私を腹立たせる。
「どうして、か……まぁ一足早い理想郷作りってとこかな?」
「理想郷……?」
「上下関係がはっきりした世界、俺はそれを望んでるんだ。格下は格上に絶対服従……決して逆らわず、命じたことにただ従う。そんな世界だよ」
「ほう……まるで自分は格上だと、信じて疑わない口ぶりだな」
「当然だろ。その結果が、あの連中なんだからよ」
此岸リョウは顎で、物言わず整列し続ける住民達を指した。
「それは、アンタが力で脅したからでしょ⁉人の命まで奪って!!」
「命?さて、何のことかな?」
「ッ!」
此岸リョウは、私を煽っているのか、素っ頓狂に知らない振りを見せる。
人を殺したことを、忘れるはずがないのに……!
「とぼけないで!ヨコミチさんの息子を、アンタがその斧で殺したんでしょ!!」
「あぁそうだよ!俺が殺してやった!!はっ……全く、馬鹿な奴だったよ。大人しくしてりゃあ、犬死ににならなくて済んだのになぁ!!」
「ッ……!」
私の中にあった得体の知れない恐怖は既に、あの男への怒りに昇華していた。
今すぐにでも叩きのめして、目を覚ました住民達の前で懺悔させてやりたいと、私の全身が叫んでいる。
私は、盾を生成して右腕に装着し、切っ先を此岸リョウに向けた。
「すぐに洗脳を解いて!さもないと……!!」
「さもないと、なんだ?」
「アンタを倒す!!」
セリオスも、私に続いて盾を作って装備し、戦いの態勢を取る。
「上等だ……と、言いたい所だが、先ずはこいつらの相手をして貰おうか?全員揃ったようだしな」
全員、揃った?
……夥しい足音が消え、沈黙が廃墟に訪れていた。
「ッ!」
此岸リョウは、整列し終えたAエリアの人達に視線を向けている。
まさか全員を操って、私達を殺そうと差し向ける気⁉
「ふっ、戦わせたりなんかしねぇよ」
此岸リョウは想定していたのか、私の心の中の考えを否定する。
「どうせ勝てっこねぇんだから……おい、雑魚共ォ!!」
「ッ⁉」
此岸リョウの下劣な呼び掛けで、住民達が一斉に目線を彼へと向ける。
「お前ら……今から互いの首を絞め合って、死ね」
「アンタ何言って――⁉」
「いいか、キチッと殺すんだぞぉ?自分だけが生き残ったら、自分で自分の首を絞めて死ねよぉ?」
「不味い……!」
住民達が2人一組になって向かい合い、互いに両手を首へ伸ばし――。
「駄目ぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
絞め始めた。
此岸リョウに言われるがまま、首の血管が浮き上がる程に力強く、容赦なく。
「ッ!」
即座に胸のコアに触れ、引き出した理気力を盾に注ぎ、切っ先を天に向けて円を描く。
4人の分身を、描いた円陣から呼び出した。
「イェ~イ参じょ……って言ってるじゃないね!これ!!」
「皆、止めるのを手伝って!!」
「「「「おぉ!!」」」」」
「流石に、看過出来る数ではないな……!!」
私達6人、盾を外し、全員で阻止に向かった。
生半可な制止は通じない。
持てる力を全て込めて、絞める両腕を次々と剥がしていく。
「分身か……変わった能力だな。まぁ、好きに止めてみろよ……そんじゃあ」
「ッ!?」
私達が首絞めを止めに動いている中、此岸リョウは壇上を降り――。
私達を狙うことなく、1人、悠々と体育館を出ようとする。
「貴様、どこに行く!!」
「俺はお前らみたいに暇じゃねぇんだよ」
そう言い残し、此岸リョウはこの場から姿を消えた。
てっきり助けてる私達の隙を狙って、攻撃してくると思ったのに。
どうして?でも、どっか行ってくれるのなら、止めるのに集中出来て好都合。
だけど――。
「ちょっと!止めなさぃ……ってぇ!!」
「あぁぁぁ!!そこ泡吹いちゃってる、誰か止めて!!」
「もう!離しても離しても、また首絞めようとするから埒が明かないッ!!」
「ならばッ……!!」
「セリオス⁉」
一向に収まる気配のない首絞め合いに、セリオスが痺れを切らす。
絞め合う両者を離した後に、手刀をそれぞれの後頚部に打ち当て、体育館の端と端に投げ飛ばした。
「アンタ、やり過ぎだってそれ!」
「こうでもしなければ終わるものも終わら――」
そう言いながら、次も同様の手段で阻止に取り掛かろうとしたセリオスだが――。
飛ばした後の2人を見て、絶句する。
……私達も。
当て身で意識を失って動けないはずなのに、何事も無かったように起き上がって、またお互いの首を絞めようと歩き出したのだから。
これじゃあ、本当に埒が明かない。
止め切れずに、人が死ぬ。
どうすれば――。
「ッ!」
そうだ。
クロちゃんの持つ否定の能力なら、操られている状態が解けるかも……!
「誰かッ!分身1人、クロちゃんを呼んで連れて来て!!」
「ルナ、それは……!」
分身への頼み言を聞いたセリオスが、懸念を示す。
ラスタさんと一緒に戦えないクロちゃんを呼び出す、それは此岸リョウから狙われることに繋がる。
それは分かってる、だけど……。
もうクロちゃんの手を借りるしか、この最悪の事態を止める方法はない!
「お願い、行って!」
「相分かった!!」
「そうか……」
走りながら、ルナからAエリアの大まかな状況を聞いた。
此岸リョウか。
グラスティウスで会った時から攻撃的だと感じていたが、そこまでする奴だったなんて。
「クロちゃんの力なら、なんとかなるよね……?」
「あぁ、任せろ!」
大丈夫なはずだ。
今を生きる人達を守る為の力、それが卑劣な洗脳に聞かないんじゃあ話にならない。
必ず効く、効かせてみせる。
「所で……俺達の所に来る時、後はつけられなかったか?」
「うん。特に追って来る気配はなかった」
「そうか、よかった。ならこのまま……!!」
一気に体育館へと、足のペースを速めようとした。
その時――。
ルナが、血飛沫を上げて横転した。
「ッ⁉」
急ぎ、足の勢いを止めて倒れた彼女へ駆け寄る。
ルナは、見覚えのある耀く戦斧の刺先で首を深々と突き刺されていた。
目を見開いたまま動かない。
首から溢れた血が、地面に水溜まりを作っていた。
即死だ。
「ルナ……!」
一瞬、熱が俺の身体に走るが――。
ルナが光の粒子となって跡形も無く消失したことで、分身だったと気付いて平静を取り戻す。
刺した存在が消え、戦斧はカランと音を立てて地面に倒れる。
「ッ!」
しかし、すぐに戦斧は謎の力で浮き上がり、横の脇道へと飛んで行ってしまった。
そして――。
「…………!」
飛んで行った先の暗闇から、二重の足音と揺れ動くチェーンの音がこちらへと近付き、紫の髪を左右で纏めた幼い少女と共に、此岸リョウがその姿を見せた。
「よぉ、ご無沙汰だな。神尾クロム」
「此岸リョウ…………!」




