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Seventh Øne  作者: 駿
6/42

優木ルナ ①

「じゃん、けん…………ぽん!よし、じゃあルナちゃん鬼ね!!」

「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!待て~~!!」

 近所の公園で2人の子供が走り回っている。

 これは、小3の時に2人で遊んでいた時の夢。

 全てが平和で楽しかった、幼い記憶。

「へへ~ん、捕まえてみろ~~!」

「あっ!うぅ………………うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「大丈夫!?ルナちゃん!」

 あの時、鬼ごっこでクロちゃんを追い掛けていた私は転んで泣きじゃくった。

 子供の頃は転ぶと凄く痛くて、今日1日は最悪な気分になるぐらいだった。

 でも、クロちゃんは泣いてる私を一生懸命慰めてくれた。

 水で傷口を洗い流して、家まで私をおんぶして運んだりもしてくれた。

「ありがとう、クロちゃん…………」

「友達なんだから当たり前だろう?何かあったら、必ず俺が助けてやるよ!」

 何1つ陰りもない眩しい笑顔で、クロちゃんはそう応えてくれた。


 パパの転勤でクロちゃんと離れ離れになってしまう時だって。

「うっ、うぅ…………えぇ~ん!クロちゃ~~ん!!」

「泣くなって。ほら、これを俺だと思ってさ!」

 クロちゃんは目に涙を浮かべながらも笑って、ヒーローのフィギュアを渡してくれた。

「俺の一番の宝物、ルナちゃんにあげる!」

「良いの…………?」

「良いの、大切にしてよ!」

「…………うん。絶対、絶対大切にする!」

「向こうでも、元気でね!」

「うん。私のこと、忘れないでよね?」

「忘れないよ。離れていても、俺達はずっとずっ~~と友達!!」

 クロちゃんだって泣いてるのに、私を元気づけるために気持ちを押し殺して励ましてくれた。

 クロちゃんは昔から、誰かのために目一杯頑張る男の子だった。

 それは、今は変わっていない――。



「ルナ!起きてルナッ!!」

「う~ん、突然なにぃ…………?」

「イレイノムが来たの!早く起きて!!」

「え、嘘ッ!?」

 この拠点に移り住んで以来全く見掛けなかったから、もう来ないんじゃないかと淡い期待を抱いていた。

 だけどイレイノムは何の前触れもなくやって来る、そういうモノだと改めて思い知る。

 私とお母さんは急いで荷物を纏めて仮宿を後にし、用意されている避難経路へと向かう。

 私達が暮らしているのは廃れたマンションが建ち並ぶ地方の住宅地、その中でも一際大きいマンションに皆と一緒に住んでいる。

 1ヶ所に集まっていることで住民の管理がしやすいというのと、他のマンションをダミーにして全員が逃げられる確率を高めるために。

 放棄せざるを得ない場合に備え、離れた第2の避難所も用意し、そこへの円滑な避難行動を取れるように訓練だって執り行っていた。

 全ては磐石、安全に逃げられると誰もが思っていた。

 しかし、いざ実際に襲撃を受けると――。

「皆さん、落ち着いて!落ち着いて移動してください!!」

「おい押すなよ馬鹿!」

「子供がいるの!先に行かせてッ!!」

 皆、冷静さを失くして人が殺到してしまい我先にと他者を押し退ける、忘れ物をしたと居住地に戻ろうとする、恐怖から早く行けよ、遅ぇよ、と騒ぐ。

 そんな人達で一杯になる、パニック状態となってしまった。

 誘導係の落ち着きを促す声も全く届かない。

「退いて!」

「ッ!痛…………」

 後ろから肩を強く横に押され、壁に頭がぶつかる。

「ルナ!大丈夫!?」

「うん、大丈夫…………」

 怒っている場合じゃないし、押した人だって生きたいって思いがあるが故の行動だって分かってる。

 マンションの外に出れば、道が開けて怪我をしなくて済む。

 そう思っていたけど――。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「ッ!?」

 既にマンションの外に出ていた人達の絶叫が木霊し、エントランスに人が逃げるように戻ってきた。

 押し寄せる人波に、多くの人がドミノの如く倒れてしまう。

 私も母さんも当然巻き込まれて、後頭部を強くタイルに打ちつけた。

 疼痛に耐えながら何事かと一瞬困惑するが、直ぐに想像がついて戦慄する。

 イレイノムがやって来たんだ。

 痛んでいる場合じゃない、死がそこまでやって来ている。

 逃げないと、母さんを連れて逃げないと。

 でも、身体が人と人で挟まれて、動けない。

「ッ…………!」

 外に立っているイレイノムの姿が、目に映った。

 屋形のような車の前面に巨大な般若顔が貼りついた、異形のイレイノム。

「Oooooooooooo………………」

 イレイノムが車輪を高速で回して、こっちに向かって来る。

 上に乗っかっていた人達が、皆して立ち上がったことで身体の自由を取り戻せた。

 けど、もう逃げる時間はない。

 だったら私が身代わりになって母さんを守るしか!

「ルナッ!?」

 お母さんの身体に覆い被さる。

 目を瞑った、歯は食い縛った。

 死にたくないけど、覚悟は出来た。

 クロちゃん。

 私、先に――。


「ウォォォォォォォォォッ!!」

「ッ!?」

 衝撃音と共にクロちゃんの声が聞こえた。

 目を開くと――。

「…………!」

 クロちゃんが押されながら、黒い棒をイレイノムの開いた口に垂直で引っ掛け、全身で押し留めようとしていた。

 踏ん張る身体が、タイルを抉ってやって来る。

「グゥゥゥゥゥゥ…………ウゥッ!!」

 私達の眼前の距離で、クロちゃんとイレイノムが止まった。

「クロ、ちゃん………………!?」




 良かった、ルナは無事だ。

 後はコイツをここから追い出して、倒すだけ!

「ッ!」

 イレイノムが車輪を後ろに回し、急速に後退した。

 逃げた、いや違う。

 またこっちに走って来るつもりだ。

 俺がいながら、2度も入れさせるかよ。

 再発進するイレイノムに合わせ、こちらも前に出る。

 迎え撃つは玄関先。

 ドグマ・バーストで――。

「ッ!?」

 速い!

 俺が外に出られたのは良いが、放つ時間がない。

 先程よりも、更に速度が増してイレイノムが突撃して来る。

「チィッ!」

 即座に両手で槍を構え、タイミングを合わせて奴の屋形らしき部位の側面を叩く。

 イレイノムの突撃する方向は逸れ、マンションの壁に激突させた。

 散乱する瓦礫は、白く染まり消滅する。

「ッ…………!!」

 両腕に走る痛みで顔がしかめる、へし折れるかと思った。

「ッ!?」

 イレイノムが間髪入れず俺に向かって来る。

 不味い、腕が上がらな――。



 全身に衝撃が伝わる。

 視界は目まぐるしく回り、急傾斜の下り坂を転げ落ちているかのように長い距離を転がった。

「Ooooooooooo…………」

 俺の手から離れた槍が遠くで落ちる音がする。

「クッ、アァァ………………!」

 アスファルトから伝わる冷たい感触を切り離し、立ち上がる。

 初めて喰らったが、痛いものだな。

 ドグマ・コアの力で大して痛みはないんじゃないかって、勝手な期待を抱いていたけど、過信だった。

 でも、アンサラーじゃなかったら今の激突で間違いなく死んでいたし、守ってくれてはいるんだよな。

「ッ!」

 俺に向けられた3度目の突進が、間髪入れず容赦なくやって来ている。

 予定外の痛手は負ったけど、イレイノムの注意は完全に俺へと向けられたはず。

 奴を倒す算段は既についている。

 ここからが本番だ。

 ちゃんと動いてくれよ、俺の足……!


 突撃を横へ跳んで回避し、イレイノムとの距離を離すべく逃走する。

 真正面から受け止めることを考えなければ、直進的な奴の攻撃を躱すのは簡単だ。

 透かされてマンション向かいの廃墟に激突したイレイノムは、方向転換して俺に狙いを定め直す。

 またやって来る前に、ラスタの元へ向かわないと。

 マンションから左に曲がった十字路に、ラスタが待機している車がある。

 それに――。

「ッ!」

 猛烈な早さで迫るイレイノムを、街路樹を使った三角跳びで再び避ける。

 白く染まった街路樹の木片が宙に散らばり、地面に落ちることなく消え失せた。

 これで間に合う。

「ラスタァァァァァッ!」

 運転席に座る彼女の名を叫び、車の上に飛び乗る。

「Ooooooooooo………………」

 イレイノムがこっちを向いて、車輪を回している。

 それを確認したラスタは車を急発進。

 キャンピングカーと牛車姿のイレイノムによるカーチェイスが勃発した。


 イレイノムはアスファルトに白い車輪の跡を残しながら追走してくる。

「頼むぞラスタ…………!」

 俺はただイレイノムから逃げるためだけに、ラスタに運転をさせている訳じゃない。

 マンションから奴を離し、ある位置へ誘導する為だ。

「お任せください。私の操縦テクニックでイレイノムから――」

「ッ!?」

「逃げ切ってみせます」

 車の速度がぐんぐんと上がっていく。

 行く先々の建築物も早々と通り過ぎ、直ぐに遠ざかっていく程。

 イレイノムと戦っていた時以上の緊張が、俺に襲い掛かる。

 いくらイレイノムが追ってきてるからって、この速度はあまりにも――。

「ちょっ…………!」

 交差点付近に差し掛かる。

 そこで左へ曲がる手はずになっている、けどこのスピードのままじゃ曲がることなんて出来ない。

「ラスタ、スピード!!」

 スピードを落とせと、運転席のラスタに呼び掛ける。

 しかし。

「……………………」

 ラスタは耳を傾けず、スピードを維持し続けた。

「ラスタ!」

「しっかり掴まっていてください…………」

「えっ、何だって!?」

「ここッ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」

 タイヤが突然スリップを起こし、車体が左に曲がり傾いた。

 俺は咄嗟にへばりつき、慣性に落とされまいと必死の思いで踏ん張る。

 車体は倒れないギリギリの角度を保ちながら、左方向へ横滑りして、曲がることに成功した。

「うっ…………!」

 傾いた車体が元に戻る際の衝撃で、胸を強く打ってしまう。

 ラスタの奴、運転2回目にしてドリフト走行をやりやがった。

 しかもキャンピングカーで。

 まさかこれを披露したいが為に、無茶な運転をしているんじゃないだろうな。

「ッ…………中々やりますね」

 イレイノムも同様、その姿に似合わぬ秀逸なドリフトをこなし、ラスタは称賛の声を上げる。

「ラスタ!もう少し、安全に運転出来ないのか…………!?」

「無理です」

 断言されちゃったよ。

「あのイレイノムには、全力を以て相手しなければ。すみませんが耐えてください」

「そうは言ったってなぁ…………!こっちは落とされたら堪ったもんじゃな、いぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 とにかくラスタのドラテクを信じるしかない。

 どうかイレイノムに追いつかれませんように、あとラスタが下手打って事故りませんように。

 俺はそう祈りながら目を瞑ってひたすら車にしがみつき、目的地までの過酷なドライブを味わった。



「クロム、目的の小道に差し掛かりました」

「ッ!」

 目を開くと、確かに目的地だった小道に辿り着いたようだ。

 後ろを見る。

 イレイノムもちゃんと近過ぎず、遠過ぎず、丁度良い距離を保っている。

「よぉし、来たぁ!!」

 俺の口から出たこの叫びが、イレイノムを倒せる機会が訪れたことかラスタの運転が終わることの、どっちを現しているのか自分自身でも分からなかったが、とにかくこれで決着がつく。

 俺は立ち上がって後ろへと向き直り、槍を再出現させ、右手に持つ。

 空いて左手で胸のコアに触れ、込められた理気力を槍に纏わせた。

 この一撃で終わらせる。


 俺は少しだけ後退り、助走を付けて跳躍。

 イレイノムを軽々飛び越えて、地面を転がりながらも着地し、即座に穂先をイレイノムへ向けた。

 いくら素早くても、この狭い道なら躱しようがないだろう。

 あのイレイノムを倒す、俺のイメージ。

 大玉の如く膨大な理気力を穂先に収束させ、超巨大黒塊弾として発射する。

「うおッ!?」

 通常とは比べものにならない反動に、堪らずひっくり返る。

 弾は狙いどおり真っ直ぐに進み、イレイノムへ迫る。

 一転して追われる立場になったイレイノムだが、弾に気づかず車を追い続け、自身よりも素早くやって来る弾を喰らい、風穴が空いた。

 イレイノムは断末魔を挙げることも無く、残された身体が黒く染まり、爆散し消滅した。

「ふぅ…………あッ、痛て…………!」

 ドグマ・バーストの反動でやって来る倦怠感に腰を落とすが、地面に座り込んだ途端、戦闘で受けた痛みが思い出したように襲い掛かった。

 戦っている時は夢中で気にしてなかったけど、これ思っていた以上にキツいな。

 身体の中に刃物が入って内側から斬りつけられてるかのように、熱く激しい苦痛だ。

 まぁ、骨折していないだけマシだけど――。

「ッ!?」

 自分の身体をまじまじと見ていて気づいたが、全身各所に白い斑点が付着している。

 擦っても取れない。

 何だ、これ。

「お疲れ様です、クロム…………どうされました?」

 車から降りたラスタが、俺の元にやって来た。

「ラスタ!白いのが付いちゃったんだけど!?俺、大丈夫かな!?」

「はい。それはコアの防御を上回る攻撃を喰らうと現れる、白化反応です。そういえば負傷は初めてでしたね」

「ほ、本当!?」

「ご安心ください、その程度であれば白化が侵食することはありません。時間経過で自動的に回復します」

「そ、そうか…………よかった」

 もしかしてこのまま消えるんじゃないかって、背筋が凍ったが、回復するのか。

 左腕の斑点をよく見てみたら、確かに少しずつ斑点が薄くなって元に戻りつつある。

「外傷も高まった自己治癒力で早く治るでしょう」

「なら全部問題ないな、皆の所に行こう」

 ラスタの手を借りて立ち上がり、車に乗り込んでマンションへと戻った。

「どうします、出来る限りの最速で向かいましょうか?」

「…………勘弁してくれって」




 マンションに戻った後、倒したことを伝える。

 Aエリアの人達と同じく、このBエリアの人達も驚くのが殆どだった。

 そして、俺が持っている力について説明しようと思ったのだが。

「今はそんなこといいから!」

「へっ…………ちょっ、何!?」

 ルナに制止され、肩の上に担ぎ上げられてしまう。

「怪我してるんだから、直ぐに医務室に向かわないと!」

「いや、大丈夫だって!」

「そんな訳ないでしょう!あんな撥ね飛ばされて…………私見てたんだから!!」

「わ、分かったよ…………ラスタ、代わりに説明頼む!」

「…………分かりました」

 ルナの勢いに流されるまま、医務室代わりとなっている個室へ運び出されてしまう。

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