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Seventh Øne  作者: 駿
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今を正す者 ②

「た、たたた倒したぁッ!?」

 ヨコミチさんの驚きの声が地下鉄に響き渡り、集まった人達の耳に届く。

 対処する手段が無いとされていた、イレイノムを俺が倒した。

 その事実に、全ての人が驚愕し、どよめき、訝しんだ。

 ここで、全てを話してしまおう。

 俺は自身が力を受け取った経緯、一緒にいるラスタの正体、その一切を皆に説明した。

「それは……何とも、摩訶不思議ですな」

「…………信じて貰えないかもしれませんが、ほら」

「おぉッ!!」

 槍を出現させ、周囲に見せ付ける。

 今は相手がいないから実際に力の披露は出来ないけど、見せるだけでも効果はあるだろう。

「そ、そんな力があるなら……俺達はもう安心出来るんだよな!?」

 住民の1人が声を上げた。

「もうイレイノムに怯えること無く暮らせるんだろ⁉アンタが守ってくれるんだからさ!!」

「あ、えっと…………」

 1人のその言葉を皮切りに、皆の眼差しが希望へと変わっていく。

 見たことの無かった安心の顔。

 それに応えたいが、はいと言えない。

 だってここ以外にも集落が沢山あるのだから、ここだけを守って他を見捨てるなんてしたくない。

 どうしよう。

「えぇ、貴方がたの生活はクロムが保障します」

「えっ…………!?」

 ラスタの奴、何を勝手に。

「これから貴方方の生活圏に結界を施します。そうすれば、イレイノムが結界の内から出てくることは無くなり、結界の外から侵入されることもありません」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「おい、ちょっ…………!?」

 結界って。

 そんなこと出来るの、俺?

 でも、出来るというのならやらない選択肢はない。

 信じるぞ、ラスタ。

「それじゃあ、俺はその結界を張りに行きますので……えっと、皆さんはここで待っていてください。なるべく手早く終わらせますので」

 ラスタの手を引いて地下鉄を後にする。

「本当に…………出来るのか、俺に」

「えぇ。身体に宿ったコアの力…………その最大限を引き出すアンサラーの奥義を、用いることで」

「奥義…………?」

「その名も、ドグマ・バースト」



 まずはAエリアの外れに移動するようにとラスタに教示され、俺は言われるがままに動いた。

 地図の通りなら、ここでコロニーの端っこだ。

「着いたけど、どうするんだ?」

 何も分からない以上、ラスタに手解きされながら行動するしかない。

 まるで先生と生徒だな。

「では、これからドグマ・バーストの説明に入ります。準備はいいですね」

「はい、是非教えてください先生」

「………………?」

「あっ、いや何でもない。教えてくれ」

 軽口は通じなかったか。

「まぁ、説明と言ってもやることは単純です。貴方の胸に付いているコアに手を触れてください、守りたいという思いを込めて」

「わ、分かった…………!」

 守りたいという思いか。

 目を閉ざし、思考に移った。

「………………………………」

 このコロニーに住む沢山の人々。

 皆、今の世界を呪っているはずだ。

 家族や恋人といる者は常に喪う恐怖を抱き、俺みたいに孤独な者は生きる意志を見失い掛ける。

 これ以上彼らが不幸な目に遭わないために、懐かしい暮らしを取り戻すために。

 俺が、今を正す!


 思いを込めた左手でコアに触れる。

「ッ!」

 するとコアが閃光を放ち、左手に黒い放射体が纏わり付いた。

 感触は無い。

 しかし克明に映るそれが、膨大な理気力であることは理解出来る。

 だからこそ恐ろしい、まるで爆弾を抱えているみたいだ。

 ラスタがイレイノムに放った塊とは、比べ物にならないくらい。

「これは……⁉」

「槍を召喚して、今度は左手を槍に触れてください」

「あ、あぁ!」

 言われた通り槍を召喚して右手で持ち、左手を槍の柄に触れてみると――。

「おぉ……!!」

 黒い放射体、理気力は左手から槍全体に流れ、恐ろしさをより一層醸し出している。

 手放したくなるけど、離したらどうなるか分からないから離す訳にもいかない。

「そして……脳内で一帯に円を描くイメージを想像しながら、穂先を思い切り地面に突き刺してください。いいですか、大事なのはイメージです」

「イメージ…………」

 どのようにして、円を描くか。

 それは、こうだ!

「ハァァァァァッ!!」

 地面に槍を突き刺す。

 槍は埋まった穂先から、ガソリンに付いた炎の如く、理気力を二手に別れて走らせた。

 理気力は俺のイメージ通り、猛烈な速度でコロニーを囲い込んでいく。

 理気力が出て驚いている間に、理気力の行き先が見えなくなる程。

 この調子なら、円はすぐに完成するだろう。

 そう思いながら刺さった槍を握り締めつつ待って、約10秒後。

「はい、これで完了です。離して大丈夫ですよ」

 ラスタから結界が出来たと言われ、槍を引き抜く。

 身体が少し重い、ドグマ・バーストを使った反動か。

 しかしそれに見合う働きは出来た。

「本当に、これを俺が……」

 実感が湧かない。

 中世の防壁の如く張り巡らされた、この揺らめく理気力の結界を、俺1人で作り上げたなんて。

 まぁ、ラスタの指示があってこそだけど。

 壁はしばらくすると姿を消し、地面に刻まれた線だけが残った。

 見えなくなったけど、効果は残ってるんだよな。

「これって……人には何の問題ないんだよな?」

「えぇ、影響を受けるのはイレイノムと……」

「と?」

「あっ、いえ。とにかく……彼らには何の支障もありませんし、自由に出入りも可能です」

 ラスタは何度も結界内に手を出し入れし、何ともないことを掌返しで俺にアピールする。

「それは良かった…………ッ!?」

 この場に似つかわしくない音が、突如として聞こえ出す。

 水中音。

 それは決して癒される音では無く――。

 深海から未知の怪物が現れるかのように低く、薄気味悪い感覚が伴っていた。

 俺は知っている。

 この音が感覚通りに怪物、イレイノムが現れる音だということを。

 音のする後方を見やると遠い地面に白濁の水溜まりが形成されている。

 そして――。

 その溜まりから巨体な人型イレイノムが、地面を掴んでこの地上に這い上がった。

 イレイノムが現れた後に水溜まりは消失し、乾いたように白い地面に変わった。

「Ooooooooooooooooo………………」

 デカい。

 俺の身長を優に勝る筋骨隆々の巨体、側頭に生えた一対の2本角。

 まるで鬼、今までのイレイノムとは一線を画しているだろう。

 けど、丁度いいや。

「ラスタ、ドグマ・バーストってさ。イレイノムを倒すのにも使える?」

「はい。寧ろ攻撃手段として使うのが、本来の用途です」

「成程……じゃあ、試してみようかな!」

「ッ、待ってください!貴方は既に――」

 イレイノムに向け足を走らせる。

 この戦いで試したいのは3つ。

 結界の効力と、ラスタが見せた理気力の発射と、攻撃としてのドグマ・バースト。

 それらが全部分かるのなら俺は、もっともっと人を守ることが出来る。

 アンサラーとして!


 向かって来る俺に気付いたイレイノムも、俺を殺すべく白い足跡を刻みながら迫り来る。

 縮まっていく距離。

「ッ!」

 イレイノムが走りを止め、左足を引き上げた。

 前蹴りが来る!

 足裏を突き出す寸前に横へステップし、直線を描いて繰り出された蹴りを躱す。

 分厚い足から出る風圧が、俺の身体に吹いて髪を揺らした。

 躱したところで透かさず俺は、背中に回り込んで飛び上がり、イレイノムの後頭部目掛けて右の蹴り足を振り抜き、黒い痣を刻んだ。

 衝撃で前へふらつくイレイノムに、着地した俺は間髪入れず槍をイレイノムに向ける。

 槍を短く持って突き出した右手の腕に、左手を添えて。

 理気力の発射を、ここで試す。


 ラスタは言っていた、身体能力の強化は理気力によって引き起こされていると。

 そして理気力はコアから流れ出ていて、しかも上がった身体能力が消えることはこれまで一度も無かったのを考えると、普段は外へ放出されてはいないんだ。

 なら理気力というのは、血液のようにコアから俺の全身を巡っているんだ。

 とすれば、その流れを槍に集中させて理気力の塊を作り出し発射出来る筈。


 商店街での戦いの後、ずっと考えて推測した発射のメソッド。

 それは正解だった。

 槍の穂先に黒い理気力が球状に収束し、ラスタと同じサイズになった段階で自動的に発射された。

 反動で上がる腕。

 理気力は真っ直ぐに、こちらへ振り向いたイレイノムの胸部に着弾して炸裂、黒痣を残し大きくのけ反らせた。

 よし、発射は成功して効果はてき面。

 名付けるなら、黒塊弾。

 更に後ろへ追いやる!

 立て続けに黒塊弾を連発し、後ろへと退らせる。

 その先のある罠へ仕掛けさせる為に。

「……ッ!」

 掛かった。

 イレイノムが線に足を踏み入れると、黒い壁が姿を再び現れ、防壁に触れた箇所から侵食するように、身体が黒く染め上がっていく。

 急いで離れるイレイノムだが、ダメージが大きかったのか、膝から崩れ落ちて満身創痍の状態。

 これで壁が機能するのも分かった。

 最後は、ドグマ・バーストで決める!

 憎きイレイノムを倒すという気概を持って俺はもう一度左手でコアに触れ、槍に膨大な理気力を纏わせる。

 ドグマ・バーストはイメージによって、如何様にも変化するのなら――。

「……………………」

 槍に思念を込める。

 すると穂に理気力が集中し、俺どころかあのイレイノムの身長を越えた、長さと厚さを持つ極大の刃となって具現化する。

「ッ!」

 余りの重量に落としそうになるが、急ぎ両手で柄を掴み、剣と化した槍を振り上げてイレイノムに迫る。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 物を背負い投げるように勢い任せで槍を振り下ろす。

 未だ立ち上がれずにいるイレイノムが、これを躱せる筈もなく――。

 一刀の元、巨大な体躯は両断された。


「Ooooooooooo……………………」

 真っ二つとなったイレイノムは例の如く破裂、勝負は決した。

 俺1人の手で、巨大なイレイノムを……。

 これがドグマ・バーストの力。

 この力があれば、どんなイレイノムだって倒せる。

 俺の中で、達成感と全能感が身体を震わせ――。

「ッ!?」

 震わせていたところへ突然、俺の身体が地面に吸われたかと誤解する程、急激な速度で力を失い、身体が横に反れてしまう。

 安定しようにも、足を上手く動かせない。

 一体、どうし――。

「ッ!」

「戦闘、お疲れ様でした」

 あわや地面に倒れる寸前、静観していたラスタが抱き抱えて支えてくれた。

「あ、ありがとう…………」

「ドグマ・バーストの連続発動は使用者に多大な負荷を及ぼします。分かりましたか?」

「あぁ、良く分かったよ」

「では今後、こういった無茶はお控えください。ご自身の身体の配慮も、アンサラーとして大事な責務ですので」

「…………無茶はするな、か。それは、難しいかもな」

「何故?」

「ドグマ・バーストで誰かを救える状況になったら、俺は迷わず使うと思うから」

「自分を犠牲にしてまで、誰かのために尽くすと…………そう言いたいのですか」

「アンサラーである前に、俺は神尾クロムだから」

 そう。

 自分に圧し掛かるこの罪が赦されるのなら、無茶でも何でもする。

 それが、愚かな俺の生きる道なんだ。

「悪いな」

「いいえ、私はただ従うのみです。でも…………貴方が無茶する度に――」

「おぉッ!?」

「こうして担ぐ羽目になると考えると、億劫ですね」

 まるで荷物みたいに、右肩に乗せられてしまった。

 我ながら何とも情けない姿だな。

「では住民達の元へ戻りましょうか」

「えッ、この状態で!?」

 それはちょっと……格好悪過ぎる!

「いやいやいや、自分の足で歩くって!」

「そんな力など無い癖に、良く言いますね。無茶をした罰です」

「これでも頼れる人ってイメージを持たれてるんだよ俺!それを崩すのは、ちょっと面子が――」

「知りません。格好付けてないで、本当の自分を見せてやればいいじゃないですか」

「別に格好付けてなんて…………いいから下ろしてくれぇ!!」

 結局、担がれたまま皆に結界のことを報告する羽目になった。

 喜びの声は勿論上がって俺も同様に嬉しく思ったが、同時に羞恥心を味わわされた。

 ラスタの奴、担いでいる俺の説明を全くしないから、変な目で見られたじゃないか。

 コイツ、絶対怒ってる。



 2度のドグマ・バースト発動の反動は思った以上に大きく、暫く経っても全く身体を動かせなかった。

 ラスタいわく、明日の朝までこの調子なんだとか。

 なので、今日はこのエリアで一夜を明かすに決まった。

 本当なら今すぐにでも行きたいのに。

 ごめん、ルナ。

 明日まで生きていてくれよ。

「……………………」

 皆の喧騒が聞こえてくる。

 このテントの外では宴が開かれて、盛り上がっていた。

 当面の危機が去り、全員が大いに祝っている。

「自分達を助けた張本人を差し置いてはしゃぐなんて…………人間はなんと利己的な生き物なのでしょうか」

「いいんだよ。俺が気にせず楽しんで、って言ったんだから」

「…………反対に貴方は利他的ですね」

「何だったらラスタも混ざってくればいいのに」

「私がバディを置いて、遊び呆ける愚か者だとでも?いいから口を開けてください」

 ラスタは地面に置かれたカレーライスをスプーンで掬い、俺の口に食べさせてくれた。

「…………フフッ」

 美味しい、カレーなんていつ以来だろう。

 最後に食べたのは、母さんが作ってくれたカレードリア――。

 …………だったなぁ。

「…………………………」

「泣く程、美味しいのですか?」

「えっ!?いや、まぁ…………そうだね!」

「そうですか」

「もしかして食べたいの?」

「いいえ、エルダーである私に食欲など…………」

 その割にはカレーを凝視して離さないじゃないか。

「1回食べてみなって。初めてなんだろ?」

「……そこまで言うのなら、頂きます」

 ラスタはスプーンを手に取り、掬ったカレーを頬張った。

 あれ、これって間接キス…………。

 まぁいいか。

「…………………………」

 黙々と咀嚼するラスタ、はっきりと感情は出さないが、噛み締めて味わっている。

 初めて食べる料理だ、さぞ未知の体験だろう。

「…………美味しいです」

「そりゃあ、良かった」

「あの、もう一口頂いても?」

「いいよ、別に」

 余程美味しかったのだろうな。

 今度は素早く口にカレーを含み、舌鼓を打って食した。

「もう一口宜しいですか?」

「いいよ」

「………………もう一口」

「…………いいよ」

 俺の分、無くなりそうだな。

「どうも、体調の方はいかがですか?」

「ヨコミチさん?」

 テントの入り口のジッパーを開けてヨコミチさんが入って来た。

「朝までこの調子ですよ。それで、何かご用ですか?」

「いえ、ちゃんとお礼を言いたくて……」

「いやいや、そんな態々――」

「本当に、ありがとうございましたッ!!」

「ッ!」

 ヨコミチさんは正座になり、俺に向けて深々と頭を下げた。

「ずっと不安でした…………いつイレイノムが現れるか分からず、私達は恐怖と焦りの中過ごしていました。そんな日々に生きた心地などありませんッ!!でもクロムさんがイレイノムを倒して、こうして生きる場所を与えて下さったお陰で……皆、明日を生きていけるようになりました!」

「…………」

「クロムさんがいてくれて、私達……本当に救われました!!」

「ッ!」

「だから!ありがとうございますッ!!」

「…………もう、止してくださいよ。頭を上げてください」

 救われた、か。

 か、熱い気持ちが昇って来る。

 胸を満たすような、塊を溶かすような。

 暖かい、ものが。

「あの…………」

「はい?」

「このカレーは、お皿にあるのが全部でしょうか?」

「ッ、いえいえ!まだまだありますよ!!今日は大盤振る舞いですからね、すぐ持って来ます!!」

 ヨコミチさんはカレーの皿を持ち、急いでテントを後にしてしまった。

「よっぽどハマったのな」

「世界を理解するための一環です」

「ハハハ…………なぁ、ラスタ」

「はい?」

「俺、頑張るよ。アンサラー」

「……そうしてください」

 テントの布越しに、外の賑わいが聞こえてくる。

 笑い声、談笑、子どもの駆け回る足音。

 全部が当たり前の様で、だけど今の世界においてはとても輝かしいもの。

 俺の力が、彼らの明日を守れたんだ。

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