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Seventh Øne  作者: 駿
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Even if we're apart…… ②

 Bエリアの隣にAエリアは位置していた。

 だから来た道をある程度まで戻って、Bエリア近辺で生い茂る森林地帯を迂回すれば、辿り着けるだろう。

 俺は記憶を頼りに、道を引き返していく。

「ヨコミチさん。落ち着きましたか?」

「はい、幾分か……」

「改めて、聞いてもいいですか?何があったのか?」

 俺は車を運転しながら、ヨコミチさんに質問する。

「はい。あれは、少し前からの出来事ですが…………」

「?」

「地面の移動に戸惑いつつも、変わらない生活を過ごしていた私達の前に、あの恐ろしい厄災がやって来て……突然、皆を凄い大変な目に遭わしたんです!!」

「……?おい、待て――」

「1人、また1人と、厄災によって尊厳を踏みにじられました……このままでは皆が駄目になる。そう思って私は、集落から離れ、助けてくれる人が必死に探していたんです!」

「……それで、俺達を見つけたってことですか?」

「はい!クロムさん、どうかまた……私達に明日を下さい!お願いします!!」

「………………」

 皆、困惑している。

 俺もだ。

 頭の中で一生懸命に言葉を繕って、必死に俺達へ訴え掛けているが、内容が曖昧過ぎる!

 嘘じゃないのは、表情と声で分かるが――。

 厄災と呼んでいるそれが一体どういった存在なのか、住民達が具体的に何をされたのか、全く分からない。

「まだ落ち着いてないみたいだな…………」

「あの、すいません。その厄災というのはどういう…………?」

「え?あぁ、厄災というのは…………えぇと、その……………………」

「………………」

「そのぉ……あぁ、すみません。なんか、思い出そうとすると……頭の中で靄がぼ~っと掛かって…………」

「?」

 どういうことなんだ。

 あまりの恐ろしさから、心の防衛本能でも現れているのか?

 ……仕方ない。

 ともかく、Aエリアに住む人々の平穏を脅かしている存在なのは確かなんだ。

 一刻も早く向かって、直接この目で見るしかない。

 でも、恐らくその厄災というのは――。

「別のアンサラー……かな?」

 脳内で出ている仮説を、代わりにルナが口にする。

「超常的な現象が働いているのなら、間違いないでしょう」

「………………」

「無関係な人間達を巻き込む者でも、貴様は平和を説くのか?神尾クロム」

「…………」

 ハンドルを握る両手とアクセルを踏む足に、力みが加わった。

 俺の胸中で、スタンスは変えたくないという意地と、問答無用に今すぐコアを奪うべきという強硬な意思が、主導権を巡ってぐちゃぐちゃに混乱する。

 俺は、どうにか葛藤を纏め上げて――。

「とにかくまずは状況を見る。それで、相手がこっちの言い分も無視して人に危害を加え続けようとするなら…………その時は、全力で止める」

 今出せる答えを、セリオスに語った。

「止める、か」

 セリオスの言葉に若干の蔑みを感じ取りながらも、俺は運転を続けた。

「所で、右の袖から包帯が見えていますが……それは、厄災による傷ですか?」

「あぁ、これですか?これは…………あれ、いつ巻いたっけな?」

「……………………」



 運転を始めて数時間、昼の時刻。

 覚えのある風景、Aエリアの土地に入った。

 前にも空中で見たが、開けた土の道から一転して、廃墟の建物が並ぶアスファルトの道路に変わるのだから、やっぱり驚く。

「止まれ」

「えっ?」

 まだ到着していないが、セリオスの言うことを聞いてその場の左端に車を停めた。

「車はここでいい。後は、この男の案内で歩いて向かう……ルナと私がな。お前とラスタは待て」

「どうしてですか?」

「貴様は万全ではないだろう?そんな状態でアンサラーと遭遇しては危険だ。私達が状況を確かめ終わるまで、待機していろ」

「……そうだね!私も、その方がいいと思う」

 ルナも同意して、先遣への意気込みは十分といった顔を俺に見せた。

 ……また彼女を頼ることに抵抗はあるが、ラスタが危険に晒されるのは、絶対に避けたい。

「それじゃあ、頼む……」

「心遣い、ありがとうございます」

「勘違いするな。お前の消滅が、結果的に神尾クロムのコアが奪われることに繋がる。それを避けたいだけだ」

「わぁ、なんかツンデレっぽい」

「ツンデレ……?」

「じゃあ、行って来るね!」

「気を付けろよ……!」

「大丈夫!!それじゃあヨコミチさん、案内お願いします!」

「はい……」

「いいか?決して出るなよ」

 3人は車を降りて、ヨコミチさんを先頭にAエリアへと向かい去る。

 俺達2人、静かになった車の中に残った。

「…………行きたかったですよね」

「いや、いいよ。ラスタの安全第一だし」

 ……もし、厄災とやらがここにやって来たら、俺がラスタを守らないと。

 何としても。

「あっ、氷砂糖舐める?甘いぞ」

「朝のお餅の醤油に溶かしていたものですよね?頂きます」

「ほい」

 保管している瓶から1個を取り出し、ラスタの手に渡す。

 ついでに俺の分も取り、2人で氷砂糖を口に含み、舌で転がした。

「おいひいでしゅね」

「らろぉ?」

 氷砂糖のしつこさのない甘さを堪能しながら、ルナとセリオスを待つ。

 1時間程で戻って来るかな?と、思っていたが…………。



 3時間程、時刻が経過しても尚、2人はここに戻って来なかった。

 窓の外の景色は既に、夕焼けに染まっている。

「随分経つな」

「えぇ」

「まさか、危険な目にあったりして……」

「分身や瞬間移動を扱える彼女なら、危機と相対しても直ぐに逃れて、こちらに向かっていると思います。冷静な判断が出来るセリオスも側にいることですから、易々と敵の手玉に取られることはありません。捜査を、続けているのでしょう」

「そう……だよな!」

「今は彼女達に事件を任せて待つのが最善。ですから……こうして、私達がトランプを嗜んでいても、問題はありません」

「そう……かも?」

 4人分の昼食を作って一足先に食した後、ちょっとした時間潰しにトランプでも遊ぼうとラスタを誘った。

 数回やって終わらすつもりだったが、ラスタがはまり込んでしまったものだから、幾度も白熱した勝負を繰り広げることとなった。

 勿論、辺りへの警戒を常に張り続けながらだが。

 勝負するトランプのルールもポーカー、ドボン、スピードなど、ルールを変えながら何度も勝負を続け――。

 現在、ババ抜きによる対決を行っていた。

 俺は1枚、ラスタは2枚。

 俺が正解を取れば勝ちになる最終局面だ。

「これだろ?ババ」

「………………」

「いや……やっぱこっちか!?」

「………………」

 流石はラスタ、ポーカーフェイスが極まってるな。

 こうなれば運否天賦、来い――!

「あぁ、違った!」

「では私の番…………これですね」

「あぁ、負けた!」

「瞳孔が少し開いていましたよ」

 不覚。

 これでどのルールも数回やり終わったが、最終的には全部ラスタの勝ちで終わってしまった。

 最初の内は、事前に熟知している分、俺が優勢になることもあったが、ラスタが慣れてしまうと途端に負けてしまう。

 ちっくしょう、悔しいなぁ。

「………………」

 気づけば高まっていたテンションと、自分自身の意外な心中にハッとする。

 ――悔しい、か。

 なんでもない遊びに熱中して、悔しがるなんてな。

 前の俺ならこんな瞬間が訪れるのを、想像すらしてなかった。

「クロム……?」

「ん?あぁ、じゃあ次はインディアンポーカーでもやるか」

「ポーカーとは違うのですか?」

「これはシンプルな奴なんだ。これはな…………」

 ――思えば最近、浮ついてばかりだった。

 ルウにはその甘さを突かれて、酷い目に遭ったけど……。

 今、また性懲りもなく浮ついてしまっている。


「アンサラーとエルダーの関係に未来などない。己が本懐を遂げたいのなら、目先の関係に囚われるな」


 そう忠告を言われても、2人きりになればこうだ。

 ……ボケてしまったんだろうな、俺は。



 流石にぶっ通しで遊び続けて疲れた為、トランプは止めてシートで横になる。

 結局、ラスタには負けっぱなしだった。

「トランプ、楽しかったです」

「そりゃよかった」

「多人数で遊ぶルールもあるんですよね?次はルナやセリオスも誘ってやりましょう」

「セリオス、乗ってくれるかなぁ……?馬鹿馬鹿しい、何故貴様らと仲良く紙遊びをせねばならんのだ!って言われそうじゃない?」

「似てますね」

「やってて俺も思った」

 時間帯はもう夜に。

 遮る雲1つない満月の光が、日が落ちた世界を鮮明にさせていた。

 何もせずくつろいでいるだけだが、トランプの余韻とラスタとの会話で退屈しない。

 これも、全く想像出来なかったことだ、何もしていない状況に苦痛を感じないなんて。

 ――ずっと、寝るだけの夜や止まらざるを得ない時間が、嫌だった。

 動いていないと……記憶が、戻らない過去を思い出させてくるから。

 でも、最近は違う。

 次はどんな料理を食べてもらおうかな、とか……何か喜ばせる方法ないかな、とか…………。

 アンサラーとしての問題とは別に、ラスタのことを頭の片隅で考えたりする。

 引け目は感じるけど、それでも彼女といる未来を楽しく思う自分がいるんだ。

「ラスタ。改めて言っていいかな?」

「はい?」

「ありがとう」

「?」

 限りある時間なんだ、言えることは言ってしまおう。

「俺の元にやって来てくれて、一緒にいてくれて……ありがとう」

 こっ恥ずかしくて頬が熱くなるが、流れに身を任せて言葉を続ける。

 あの時、ラスタは俺に自分の心境を話してくれたんだ、俺だって――。

「ラスタが傷ついて倒れた時……俺、一瞬凄く…………怖くなったんだ」

「怖く、ですか?」

「あぁ。頭から身体に…………こう、よく分かんない熱がジワーって伝わる感覚がな、襲って来てた。いや、こんな表現じゃあ…………分かんないよな、悪い」

「……………………」

「俺、その感覚が本当に嫌なんだよな。涙がぼろぼろ流れて止まらなくなるし…………そうなった瞬間やその人との記憶を、何度も何度も不意に思い出してまた泣きたくなっちゃうしで……………………出来るなら、2度も味わいたくないんだ。まぁ、その……何が言いたいのかっていうとぉ……俺にとってラスタは、そのくらい大事な、存在……っていうかさ…………」

「クロム…………」

 あかんあかんあかん、照れくさ過ぎてしどろもどろになってる。

 慣れない言葉を喋るのって、キッツいなぁ。

「それで……俺、ラスタにはなるべく…………生きていて欲しいんだ。この世界から、別れる日が必ず……来るとしても、楽しく?いや、状況が状況だから……楽しむなんて、難しいかもしんないけど…………それでも、最後まで楽しんで無事に生きて欲しい。その為なら俺、何だってする」

「…………ありがとうございます。ですが、私はクロムと出会ってから既に沢山、楽しさというものを貰っていますよ?」

「いやいや!この世界にはさ、ラスタの知らない楽しみや喜びが一杯なんだぜ!?だから、もっともぉぉぉぉっと知って欲しいんだよ!!」

「ふふっ、これ以上ともなると…………過剰摂取で破裂してしまいそうです」

「んな、大げさな」

 よぉし!言った。

 何度か詰まりながらも言い切ったぞ、俺!!

 語り過ぎて引かれてないかなって不安もあったけど、ラスタが思いを受け止めてくれてるようでよかった。

「はぁ…………」

 緊張からの解放が、溜め息になって漏れる。

 ……あっ、しまった。

 これからも一緒にいて欲しいって、締めの言葉を言うのを忘れた。

 今、言ってしまおうか?

 駄目だ、もう言い出せる勇気がない。

「…………」

 まぁ、あそこまで言ったんだ。

 そういう気持ちも、多分伝わってるだろう。

 あ~あ、言えてたらよかった。

「クロム」

「ん?」

「私も、貴方に伝えておきたいことがあります」

 横になっていたラスタが起き上がり、真剣な顔で俺に目を合わせる。

 自然と俺も身体を起こして姿勢を正し、彼女と見つめ合う。

 月光を背にして俺と向き合う彼女の姿が、普段よりも綺麗に映って胸が弾む。

 ラスタが、俺に?

 何だろうな。

 改まった態度を取られると、またドキドキしてくる。

「ここにいるのは私とクロムだけですから……今の内に」

「ッ!?」

 ラスタが、視線をそのまま俺に近付いて――。

 俺の両腕を力強く掴んだ。

 彼女の瞳が視界を占有し、吸い込まれてしまいそうな距離に…………。

「な、何?」

「私は…………」


「クロちゃん!」


「ッ!」

「………………」

 いきなり、ルナの声が車内に響く。

 咄嗟に離れて振り向くと、急いでやって来たのか額から汗を流すルナが、ドアを開いていた。

 ラスタに釘付けになって気付かなかった。

 でも、どうしてルナが1人だけ?

「あの私、分身なんだけどさ……!直ぐに来て欲しいの!!」

「どうしたんだ!?」

「行きながら説明するから、とにかく一緒に来て!クロちゃんの力が必要なのッ!!」

「…………!」

 ラスタに視線を送ると、彼女は頷き、私には構わず行けという合図を出してくれた。

 一時的にラスタと離れて、向かうしかない。

 ……大丈夫だ。

 仮にアンサラーが俺達の存在を認識しても、ラスタではなく俺を標的にしてコアを奪いに来るだろう。

 その方が二度手間にならないからな。

 だから、ラスタが襲われることはないはずだ。

「悪い、話は後で!」

「……はい」

 差し迫った状況にあるのは間違いない。

 走って向かった方が静かでバレにくいという分身ルナの判断の元、俺はルナと並走でAエリアへと向かう。

「教えてくれ。一体、何があったんだ」

「えっとね……」

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