楽園にようこそ ①
「あっ、クロちゃ――えっ!?」
「なッ!?」
ルナとセリオスが、帰路に着く俺達を見つけ、ラスタを抱えて歩く俺に驚いていた。
「…………見られちゃったか」
「クロム、もう降ろして頂いて構いません」
「そうか?よっと……」
確かに見た感じ、身体の傷は既に塞がり、痣に変わっていた。
これなら歩いても大丈夫だと判断し、ラスタを降ろした。
「あの忍者は?」
「えっ、あぁ……うん!倒したよ!!」
「怪我はないか?」
「ちょっと貰っちゃったけど、大丈夫――」
「おい、それよりも何だ今のは!?ラスタッ!」
セリオスが激昂した様子で、ラスタに詰め寄った。
ラスタは表情を変えず、彼を見詰め返す。
「アンサラーを足にするなど、言語道断!何を考えているんだ貴様!!」
「…………あれはクロムが、怪我を負った私を気遣って行ったものです。私が彼に命令して、させた訳ではありません」
「エルダーはアンサラーの手先だ!掛ける必要のない配慮を、甘んじて受け入れるな!!」
「おい、ちょっと待てよ!」
俺は堪らず、会話に割って入った。
「必要ないって、お前…………!バディなんだから助け合ったっていいじゃないか!!」
「甘い男だ。そんな仲良しこよしを続けたまま、この戦いを勝ち上がるつもりか?」
「俺は戦うつもりなんかない!」
「…………そうだったな」
セリオスは俺達に呆れ果てた顔を見せながら、後ろへ振り向きマンションへと先んじて歩く。
「もう、何なのアイツ!お互いがいいならそれでオッケーじゃん!!ごめんラスタさん、気にしないでいいからね!」
「…………ありがとうございます」
「それじゃあ行こ!パパとママが待ってるだろうし」
「あぁ」
俺達3人、セリオスに続く形でマンションへと帰る。
「ラスタ、本当に気にするなよ。俺の好きでやったことだから」
「はい…………」
優木家の部屋へ戻り、おじさんとおばさんの心配を解消させ、一家団欒のひとときを、見張りに出たセリオスを除いて5人で再開。
一頻り談笑を楽しんだ後、話題は俺達のこれからの話になった。
「しかし、イレイノムの次には同じ力を持った人達と…………休む暇がないな。君達は」
「まぁ、しょうがないですよ。やるしかありませんし」
「大丈夫!私も付いて行くから!!」
「心配ね…………」
「何でよぉ!?」
どんなに強くたって、自分の子の身を案じるのは当然だ。
「安心して下さい。危ないと判断したら、直ぐに戦いを降りて貰いますから」
「もう、クロちゃんまでそういうこと言う…………!私、最後までクロちゃんを助けるからね!!」
「……………………」
有り難い言葉だけど、ルナには何よりも先ず、傷ついて欲しくないんだよ。
エルダーのセリオスだって今は方針に従っているが、言動からして、ルナをセブンスワンの勝者に擁立したがっている。
無茶させないよう、気を配っておかないと。
「それでもって、ここにちゃんと帰るから。武勇伝、楽しみにしててね!」
「えぇ。聞いてあげる」
「楽しみに待ってるよ」
「……………………」
目の前で交わされる、家族の約束。
ちゃんと果たしてやりたいと思う、情の片隅で。
連鎖的に現れた、どうしようもない疎外感が、しつこくこびり付いた。
そうしてしばらく話し明かした後、眠りに着き――。
早朝、旅立ちの時。
住民達が朝の活動を始める中、俺達4人はおじさんとおばさんに見送られ、旅に出る。
「行ってらっしゃい」
「ルナ、身体に気をつけるんだよ。クロム君も」
「貴方も、辛くなったらいつでもここに戻っておいで。私達一家全員…………クロム君の味方だから」
「…………はい」
「行ってくるね。パパ、ママ…………」
ルナは両親にハグを交わし、車に乗る。
座る位置は、久し振りに見る外の景色を前から見たい、という本人の希望で助手席に。
ラスタには、セリオスと共に後部座席にいて貰うことにした。
車を発進。
サイドミラーには手を振り続ける優木夫妻の姿が、遠く離れるまで残り続けた。
ルナも、見えなくなるまで元気よく窓から手を振り返し――。
「クロちゃん、改めてよろしくね。ラスタさんも」
新たに決意を固めた証なのか、俺達へ、戦う仲間となることを挨拶で表明した。
「あぁ」
「よろしくお願いします」
「…………ふん」
だがセリオスはそんな俺達のやり取りを、愚かしく見えるのか鼻で笑った。
静寂の支配する、コンクリートの道を突っ走る。
既に発見しているAエリアは、木々が密集していて向かいにくい為に後回し。
取り敢えず道なりに進んで行って、見つけた集落からアンサラーの情報の聞き込み。
終わったら次の集落を発見するまでまた進む、その繰り返しだな。
地形が変わったせいで地図は役に立たないが、隣接して集合したのなら必ず見つけられるだろう。
「ねぇセリオス。エルダー同士で場所とか分かったりしないの?」
「残念ながら…………我らに分かるのは、バディと定めたアンサラーの居場所のみです」
「ふ~ん、そっかぁ…………」
分かっていたらとっくに進言してくれていただろうし、楽な道は早々ないものか。
「それにしても、無事でよかったね。車」
「本当にな。イレイノムに触れられていても、おかしくなかったし」
「幸運が付いてるのかもね!」
前にも、ドローンが移動させたお陰で、消えずに済んだことがあったし。
ルナの言う通りコイツ、強運の持ち主なのかもな。
「……………………」
そんなこんな、会話を挟みながら小1時間程走り続けているが、集落は未だに発見出来ていない。
周囲の地形ごと移動させたとエルドルーラーは言ったが、随分大きく巻き込んだな。
この地形には見覚えがないから土地勘も働かないし、参った。
だが知らない土地に来たということは、別のアンサラーが作り上げた領域であるということ。
いる可能性は、大いにある。
「ねぇ、何かデカいの飛んでるよ?」
「えっ?」
差し掛かった交差点を右に曲がろうとした時、ルナが空に指差した。
俺はカーブする為に目を離せず、今すぐ見ることは出来なかったが、ラスタとセリオスが指差した先を見て――。
「あれは、流れ星でしょうか……?」
「あの高度の隕石ならもっと速く落ちる……謎の物体だな」
要領を得ない感想を漏らした。
一体、何が見えているんだ。
道を曲がり切り、目の前に障害物がないのを確認して、俺も振り向いた。
「まだいるのか?」
「うん、あそこに」
ルナが改めて指し直した方向を見る。
俺の席の右窓。
黒色で楕円球の物体が、車と並行して空を走っていた。
高度を落とさず、一定の速度を維持して。
セリオスの言う通り、謎だ。
「……………………」
知らない土地に来て正体不明の飛行物体に遭遇する。
これは――。
「アンサラーの能力が作り出した物かもしれない。用心しておけ」
「分かってる」
少しばかり車のスピードを抑え、物体の様子を――。
「ッ⁉」
伺おうとした途端、物体が突如として軌道を変化。
俺達のいる方へと旋回し、降下を始めた。
俺は急いでブレーキを踏んで、車を停止させる。
「皆、物に掴まれ!!」
物体は、最早隕石に匹敵する程、急激に速度を上昇。
道路の50m先の地点に、墜落した。
「ッ……!」
「うわぁッ⁉」
落下の衝撃で起きた震動が、俺達のいる車を揺らす。
一瞬、身体が跳び上がる程の揺れだったが――。
シートベルトに押さえつけられ、物体の墜落寸前に右手でグリップを掴み、左手でダッシュボードを押さえていたことで、姿勢が大きく崩れることなくやり過ごす。
「皆、大丈夫かッ⁉」
「うん、平気……」
「私も怪我はありません」
「……右に同じだ」
他の皆も怪我はなく、幸いにして積んでいる荷物も無事だった。
「一体何なんだ。いきなりこっちに落下して来て…………!」
「直接、確かめてみる他ないだろう」
俺達全員、落下物の正体を見るべく車を降りる。
落下物は周囲の地面を陥没させ、黒煙を上げていた。
「…………まぁそれで行くか。ラスタも後ろにいてくれるか?」
「はい」
「えぇ!?私、先頭がいいんだけどなぁ」
「「いや、後ろにいて欲しい」」
「ハモった…………!」
セリオスの提案に従い、セリオスと俺は前、ルナとラスタは後ろというポジションで、落下物へと――。
「………………!」
歩き出そうとしたが、状況の異変に全員が足を止めてしまった。
あの落下物が、膨張を始めていたのだ。
それも、既に空気を満杯に送られた風船のように、今にも破裂しそうな程の驚異的な速さで。
爆風、棘の炸裂、毒ガスの散布。
膨張速度に合わせて、俺の脳内で破裂した時のイメージが一挙に雪崩れ込み――。
逃避へと舵を切らせた。
「逃げるぞッ!!」
そう俺が言い出し、車を捨てて逃げ出そうとしても遅かった。
膨張はものの数秒で極限へと達し――。
破裂した。
「ぱぁんぱかぱ~~~~~~~ん!!」
「……ッ!………………?」
「えっ?」
「あはははッ!そんな大慌てしちゃってさ!!あ~可っ笑し!!」
「…………」
「ルウ、君…………?」
「に、逃げるぞぉって……!ふっははははははははははッ!!」
破裂した物体の中から現れたのは、グラスティウスで出会ったアンサラーの1人。
汐見ルウだった。
「はははは……あ~傑作だこと!」
「え………えぇ………!?」
理解が、追いつかない。
突然破裂した物体の中から、ルウ君が現れて――。
慌てふためいていた、俺をネタにして笑っているのだから。
「………………」
緊迫感が解れて心の落ち着きを取り戻していき、同時に揶揄われていることへの恥ずかしさが込み上げてくる。
「エルダーも連れずにやって来るとはな…………」
セリオスが盾を生成して装備し、鋭い目つきで見詰めながらルウ君に刃を向ける。
ルウ君は、大げさに驚いて両手を上げた。
「ちょっとちょっと~いきなり武器構えないでよ。僕、話し合いに来ただけなのに」
「……話し合いだと?」
「その証拠に、僕1人でここに来てるだろ?僕は君達と戦うつもりなんてない」
「…………本当か?」
「ホントにホント、大マジ。だからさ、武器を向けるの止めてよ」
彼の大マジというのが嘘偽りないのなら、こんな好都合なことはない。
アンサラーと話し合って戦いを止めさせるのが、俺達の目的なのだから。
俺、そしてルナはセリオスに視線を送り、装備している盾を消失させるように訴える。
セリオスは渋りながら、盾を消した。
「それで、話し合いとは……?」
「まぁ急がない急がない。ホラ……こんな場所じゃあなんだからさ、僕のホームで腰を落ち着けて話そうよ」
「ホーム?」
「そっ、僕が案内してあげる」
「フン……敵の陣地に足を踏み入れるなど、冗談じゃない」
「ちょっとセリオス……!」
「……ふぅん」
警戒心を剥き出しにするセリオスの態度に、終始にこやかだったルウ君が顔をしかめる。
「信用してくれないのなら、話し合いは無理かなぁ。僕、君達となら話が出来ると思ったのに……」
「いや、ごめんごめん……私のエルダー、ちょっと気難しい奴でさ!私達も、君と話せたらいいなって思ってるの!!ほらセリオス、頭を下げる……!!」
ルナは、ルウ君を機嫌を取るべく笑顔で弁解しながら、セリオスの頭を掴んで強引に謝らせようとする。
考えを曲げないのを体現するように、セリオスは抵抗する。
「し、しかし……!」
「説得出来るまたもない機会なんだ!頼む、ここは折れてくれ……!!」
「クッ……!」
俺の言葉に納得したか、抵抗を止めて頭を下げた。
「…………まぁいいや!それじゃあ、僕のホーム……楽園に案内してあげるから、ちゃんと付いて来てね」
「ら、楽園?」
突拍子もない言葉に、ルナが片眉を上げる。
「フン、益々怪しいな……」
「しぃ!」
懐疑的なセリオスを窘めながら、俺達は車に乗り込む。
その様子を見たルウ君は、自身を虹色に輝かせて――。
膨張し、湾曲。
「ッ!」
この車を包み込める程の巨大な羽を持った翼竜へと形を変え、空へ飛び立った。
俺はアクセルを踏み、彼に追従する。




