新たな戦い ①
「クロちゃん……私達も、どうしようか?」
「決まっているでしょう。今ここで、神尾クロムと決戦を交えて奴のコアを貴女の手に――!」
「セリオスは静かにして!!」
「……………………」
戦いを強いるセリオスを、ルナが一喝して黙らせた。
「…………俺は止めたい」
「何だと?」
「クロム………………」
「1人で決めた理想の世界なんて、ただのエゴだ!そんな身勝手で、今いる人達を振り回したり、争いを起こしたりするなんて……馬鹿げてる!!」
「フン……貴様こそ、理想の世界を抱いているではないか。それをエゴとは呼ばんのか?」
「ッ!」
セリオスの言葉で、掴めない刃になって胸に深く刺さる。
俺の抱く想いが、ただのエゴだと。
違う!
「俺は……皆の明日を守りたいだけだ!!」
「私だって。私の力で皆を守りたいと願ったからアンサラーになった!なることで皆が少しでも、幸せになってくれると信じて!!」
「考えが違うだけで、他のアンサラーが同じ気持ちであるとは……思いつかないのですか?」
「ッ⁉」
「セブンスワンは、個人の欲望を果たす低俗な行いではない…………各々が信じる正しき世界を懸けて争う、崇高なる儀式!断じて、他者の信条を軽はずみに否定してはならない!!」
「それでも!争ったりしたら、いけないんだよ!!」
グラスティウスで起こった戦いが、脳裏を過る。
御影フメイも、此岸リョウというあの男も、殺す気で仕掛けていた。
イレイノムから生き残った数少ない俺達人間が、今ここで争いを繰り広げてどうする。
死んだら、全部終わりだ。
どれだけ会いたいと泣いて叫んでも、帰って来ず、大切に想っていた者の心を永遠に欠けさせる。
命はそれ程重いもので、だからこそ争いで浪費していいはずがないんだ!
「決めた。私もクロちゃんの言った通り、戦いを止める!」
「ルナ!?」
「ルナ……!」
「クロちゃんや、アラタさんと戦ったりなんか……したくないしね。私の決意に全幅の信頼を置くんでしょう、セリオス?」
「……………………」
セリオスは無言で頭を抱え、深く息を吐いた後――。
「分かりました…………」
渋々といった様子で、ルナの方針に賛同した。
「ラスタも、それでいいか?」
「はい。クロムが、そうしたいと言うのなら」
「ありがとう」
「フン……好きにすればいい。だが――」
「いずれ思い知る。その考えが、いかに浅慮な偽善だったか……」
「何か言ったぁ~?セリオスゥ?」
「いいえ、何も」
よかった。
ルナと戦い合うという最悪だけは、何とか避けられそうだ。
「じゃあ私達は、他のアンサラーに戦いを行わないよう、説得するってことでいいんだよね?」
「そうだな。結界中をしらみ潰しに回って、アンサラー達と話をする」
「大変だけど、一緒に頑張ろうね!!」
「…………あぁ!」
一緒に、か。
「取り敢えず、集落の方へ戻ろう。どうなってるのか気になるし、ルナも家族に挨拶した方がいいだろ?」
「なら共命理で飛んで連れていくよ!もう出来るだろうし、大丈夫だよね?」
「えぇ…………しかし、単なる移動に偉大なる共命理を使うというのは――」
「いいからいいから!ほら、やってやって!!」
「……………………」
セリオスは不本意ながら、金色の理気力へと身体を変え、渦になってルナを包んだ。
渦の中から、入り込む力に苦しむルナの声は聞こえない。
もう慣れたという訳か。
「ふぅ…………!!」
渦が晴れ、共命理を果たしてセリオスの鎧を身に付けたルナが、姿を現す。
「じゃあ私に掴まって、ラスタさんも!」
「頼む」
「よろしくお願いします」
俺達はルナに手を取って貰うと、ルナは背中から翼を生やし、俺達を引っ張って上空へと飛翔する。
「えッ!?」
「どうした…………?」
集落がどこか見渡していたルナが、信じられないものを見たような、面喰らった顔を浮かべる。
「あ、あれ…………」
「ッ⁉」
ルナの見詰める、自然の先には――。
見覚えのある寂れた街並み、Aエリアがあった。
自然の上から強引に張り付けたように接していて、違和感を感じずにはいられない光景だ。
緑溢れる地面から突然、コンクリートの街に。
「……………………」
数々の集落が一か所に集まっていることを、俺達ははっきりと理解した。
Bエリアへ戻ると、避難していた全員が外へ出ていた。
皆、困惑している様子だった。
そりゃあイレイノムの騒ぎが治まったかと思いきや、地面が動いたのだから当たり前か。
「あっ、2人共!」
おじさんが気付くと、皆も上空から降りる俺達に目を向ける。
おじさんは事情を説明してくれと駆け寄ろうとする皆を止め、代表して俺達の元へとやって来た。
「無事でよかった。暫く帰って来ないから心配したよ!」
「すいません。少し休んでた後に、色々あって…………」
「――それって。ここが突然動いたことと、関係があるのかい?」
「えぇっと……」
俺は出来る限り正確に、起こった出来事をおじさんに伝えた。
集落が1つの集まったこと、イレイノムの襲撃は暫く沈静化すること。
そして、アンサラー同士で争いが起こることを――。
「それで俺達…………また旅に出ようと思ってます。争いを止めたいんで」
「色々、事態が変わったんだな…………分かった。皆に説明してくる」
おじさんは皆へ戻り、俺の話したことを伝えた。
無用な混乱を来さないように、かいつまんで。
おじさんの説明である程度納得した住民達は、イレイノムが現れなくなることを喜んだり、本当なのか訝しんだり、多種多様な表情を浮かべながら解散する。
「君達も旅は明日にして、今日は私の家で泊まったらどうだ?もうそろそろ夜になるし」
「俺達も、いいんですか?」
「勿論!」
「…………そうですね。ありがとうございます!」
確かに空はもう夕焼けだ。
ルナも、おじさんやおばさんにはしばらく会えなくなる。
家族との一時を、過ごすべきだろう。
「よろしいのですか?ルナやクロムだけじゃなく、私達まで」
「勿論。是非とも、守ってくれたお礼をさせて欲しいと思っていたんだ!」
「私にも、ですか?父君」
「…………あぁ。ついでとは言わない」
「幸甚に存じます」
おじさんに連れられ、俺達は優木家の個室へと足を踏み入れた。
「ルナ」
「うわっ、ママ…………!?」
部屋への扉を開くと、おばさんが玄関で仁王立ちして待ち構えていた。
「お母さん、お父さんとあれから話をして覚悟を決めました。貴方のやりたいようにやらせるって」
「あっ、そうなの…………」
「ルナ…………精一杯頑張りなさい。だけど絶っっっ対、死んだりしないこと…………いいわね?」
「うん。ママとも、約束する!」
両親共に、ルナが戦うことに納得したらしい。
「……………………」
俺は、どうなんだろう。
今は彼女という味方が必要不可欠な為に、受け入れているが――。
やはり、危ない目にはなるべく遭って欲しくない。
いざとなったら、無理を言ってでも彼女からコアを手放させ、戦いから遠ざける。
そのことを、常に留意しておこう――。
「皆さんも、元気だけが取り柄の娘ですが…………どうか、ルナをお願いします」
「心配には及びませんよ、母君。彼女には、清廉なるエルダーである、この私が付いている!必ずや、彼女を至道へ導いてみせ――!!」
「はいはい、頼りにしてますよ。よろしくね、クロちゃん!ラスタさんも!」
「…………あぁ」
「よろしくお願いします」
「………………………………」
そうして、俺達は優木家で1日を過ごすこととなった。
天井に吊り下げられたソーラー式ランタンによって、薄く灯る家。
テーブルに並ぶ、食欲をそそるレトルト食品達。
アラタが、ここに置いていったもの。
「アラタ君も、クロム君の仲間になってくれると思うんだよね。会ったばかりだけど、間違いなく彼はいい奴だし」
「…………えぇ。そうですね」
窓から、集落の様子を見る。
外ではアイくんやドローンが、周囲を巡回していた。
ここへ来る際に、俺達に攻撃は仕掛けてこなかった。
あくまで、住民達への被害が出る場合のみに、迎撃へ出るのだろう。
つまりアラタは人々を守る為だけに、アレらを置いたのだ。
間違いなく善意からの行動。
おじさんの言う、アラタの人物評は当たっているだろう。
俺だって同じ考えなんだから。
しかし、アイツとの間に溝を感じられずにはいられない。
アラタの一言を、思い出す。
「皆が守られる世界を作りたい。そう思っただけだ」
「……………………」
アラタ。
その世界って、セブンスワンでしか手に入らないのか。
「さっ皆、食べよう!頂きます!!」
おじさんに合わせ、俺達5人も頂きますと挨拶し、食事を摂る。
「うん、美味しい!アラタ君に感謝だな」
「フン…………細かい恩を売って、儀式を有利に運びたいという思惑か。随分回りくどい戦略だ」
セリオスはそう言って、目の前にある食事を前へと押し出し、食べることを拒絶した。
「敵の施しを受ける気はない。申し訳ないが、私は遠慮させて貰う」
「どうして、そんな考えになるの…………」
「善意の頂き物に屈折した見方をするというのは、エルダーとして如何なものかと思いますが?」
「…………それはこちらの台詞だ。何も考えず食い意地を張りおって、みっともない」
「……………………」
セリオスの言葉を受けて、ラスタの眉がピクりと上がる。
「そもそも、場の雰囲気を乱すのがエルダーとして相応しいのか、甚だ疑問ですね」
「ほう?エルダーらしからぬ楽観的意見だな」
「…………力で物を言わせないと、分かりませんか?」
「やってみろ。どちらが正しいかはっきりさせ――」
「止めなさいって!」
「ッ…………!」
ルナは席から立とうとするセリオスに、拳骨を叩き込んで制止させる。
俺も、珍しく苛立ちを見せたラスタを宥めた。
「落ち着けよ、怒ったら飯も不味くなるだろ?」
「はい…………」
「まぁ。その、仲良くね?」
かくして、食事会は続行された。
セリオスもルナに強く叱責されたのが効いたのか、大人しく食事を摂った。
しかし――。
ラスタが、自分から相手を非難するなんて。
正直、俺もセリオスの態度は場違いだと思ったが、あそこまで食って掛かるとは。
みっともないと言われたからか、それとも――。
守ろうとしたのか。
優木家の3人の、久し振りの家族の食卓を。
「………………………………」
「ん。どしたの、パパ?」
「いや、何でもないよ」
「うっそだ~!じろじろ見てるの丸分かりだし!!」
「…………久しぶりだからね」
「え?」
「娘が箸を使って食べる姿、美味しくて顔がほころぶ姿。眼福とはこのことだ」
「もう、パパったら…………!」
「本当に、ッ…………本当に、会えてよかったぁ…………!!」
「泣く程!?」
「止めなさいよ、もう…………私まで、ッ、泣きたくなるじゃない……………………!!」
「ママも泣いてどうすんのさぁ、もう…………!」
おじさんとおばさん、そしてルナ。
皆して涙を浮かべ、その珍妙な様をそれぞれが笑い合っていた。
誰もが幸せと呼べる光景、それを見て思わず頬が緩むが――。
「ッ……!」
「……………………」
ラスタも、彼らを見て笑っていた。
優しい笑顔を浮かべ、目の前にある瞬間を愛しく見詰めていた。
同じ気持ちなんだ、俺もラスタも。
「ほう。これは中々…………不本意だが、味は認めてやるか」
ちなみに、セリオスはマイペースに料理を口へ運び、舌鼓を打っていた。
「ご馳走様でした!」
「やっぱり……大人数で食べると、食事もより美味しく感じるな」
「分かります。誰かと一緒に食べると、料理の味わいとはまた別の妙味を感じます」
「そうね。大切な人となら、より一層…………」
「私にとっては、家族がそうだな。ラスタちゃんにとっては…………クロム君とかかな?」
「クロム…………」
「ちょっと、おじさん!」
「あっ、ごめんごめん!今のは忘れて――」
「そうかもしれません」
「ッ⁉」
「えっ……」
ラスタは顎に手を当てて思案を巡らせながら、はっきりとそう答えた。
そうかもしれないって、お前――。
周りにどう思われるか分かって言ってるのか⁉
「あの、2人って……もしかしてそういう――」
あぁ!
ルナが目を丸くして、俺達を見やっている!!
いや――!
落ち着け。
俺が顔を赤くしたら、ますます邪推される。
「……まぁ、確かにな!一緒に戦う戦友として、仲はある程度……あっ、いやそれなり?には…………深まっ、てるよな!!」
ラスタが言ったのは決して恋仲ではなく、仲間として。
俺は皆にそう捉えられるよう、相槌を打つ風を装いつつ、印象操作を行った。
我ながらなんて素早く、完璧な収拾だ。
今の発言で、周りも納得してくれたに違いない――。
「あぁ~……そうか仲間としてか!そうかそうか、私はてっきり……ううん、何でもない!」
「………………」
あれ、もしかして危うい感じ?
「私……少しばかり星を見て来ますので、失礼します」
「うん?あぁ、行ってらっしゃい!」
ラスタは心の中であたふたしている俺などお構いなしに、席を外して部屋から出た。
あっ。
俺、ラスタに話したいことがあるんだった。
俺も出れば2人きりで話せるいい機会だけど、皆の勘違いが酷くなるかもしれない。
「…………」
もういい、知らねぇ!
「あの、俺もちょっと……外の空気、吸って来ます!」
そう言い残し、俺はそそくさとラスタの後を追い掛けた。
「もう、デリカシーがないんだから!」
「いやぁ……冗談のつもりだったんだけどなぁ」
「嘘、本当にそういう関係なのぉ……⁉」
「…………何だこの茶番は」




