運命の7人目 ⑥
「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」
イレイノムの右手から絶え間なく発射される、空気を圧縮して生み出された弾丸を、加速と減速を交互に織り交ぜて回避する。
俺はオーバーを中心に、結界を張って飛行している。
結界の効力で奴の起こす風の影響から免れ、空を飛ぶ奴の土俵に立てているが――。
奴の纏う風の防壁に飛び道具を弾かれ、近づくのにもカウンターのリスクが伴う状況だ。
「ハァ、ハァ……チィッ…………!」
戦いが長引いてしまっている。
初めて相見える強力な人型の上級イレイノムで、風を操るという厄介な能力。
言い訳はいくらでも立てられるが、そんなもの集落に住む人達は聞きたくないだろう。
クロム達の状況はどうなっているのか、犠牲者が出ていないか。
確認する暇もないのが、もどかしい。
あと少しで、ドローンが下級の殲滅を完了し、多対一へと持ち込める。
それまでは――。
「ッ!」
イレイノムがこれまでにない状況を取る。
右手を握り、中からゼロサムを放出して刀身状に押し留めた。
ゼロサムの剣を装備したイレイノムは、こちらを見詰め静かに切先を向ける。
接近してくると言っているようなものだ。
いいだろう、そっちから来るのなら俺がカウンターをお見舞いしてや――。
「ッ⁉」
身体を右へ傾ける。
オーバーを急加速させるよりも、防衛本能が迫る死を察知したから。
――それは正解だった。
イレイノムは俺の眼前に、息をもつかせぬ突発的な超スピードで肉薄し、突き出したゼロサムの剣で結界をあっけなく破壊したのだ。
風を使っての高速移動!
接近するなら、その手を使うことも想像出来たろうに――。
抜かった!
イレイノムは間髪入れずオーバーをゼロサムで裂いて、機体を抹消。
俺は、身動き取れぬ降下を強いられた。
「クッ……!」
イレイノムは直ぐ様ゼロサムの刀身を伸ばし、落下する俺へ振り下ろす。
倒れ掛かる塔のように迫る、白き致命の剣。
間に合うか、結界――!
「させるかァァァァァァッ!!」
「ッ!」
女の声⁉
声のした右方へ視線を向け、目を疑った。
金の翼を羽ばたかせる同世代の知らない女性が、猛烈な速度で風を切って飛来し、俺の真上へ出てゼロサムと向かい合い――。
右腕に取りつけていた盾らしき装備から、光の壁を展開したのだから。
壁はゼロサムと衝突。
白光の閃きを散らし、完璧に防いで見せた。
俺はオーバーを再召喚して搭乗、落下を止める。
「ギリギリセーフ!だよね、大丈夫⁉」
「君は…………⁉」
「優木ルナ!さっきアンサラーになったの、よろしく!!」
「優木……?」
まさか、あの人の娘か。
「……ありがとう、俺は宗方アラタ」
「クロちゃんの仲間なんだよね!これからアンサラー同士、一緒に頑張ろ!!」
濁りのない朗らかな笑顔を向け、俺を味方と信じ、頑張ろうと明るく呼び掛ける。
……間違いなく、良い人だ。
そんな彼女が、アンサラーの7人目とは。
クロムといい、やりづらい――。
「気をつけろ、奴を風を操る……!」
「風ね!了――」
「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」
イレイノムは再び、風を使っての高速移動による奇襲を実行。
標的は、優木ルナだった。
「うわぁッ!?」
未だ現出させている剣ではなく両足による脚撃を放って、壁で身を守る優木ルナを斜下の遠景まで押し出し、俺達の距離を隔てた。
狙いは先ず俺という訳か――。
「ッ⁉」
だがイレイノムの目論見は、失敗に終わる。
突如、奴の背後から黄金の光が眩く発し――。
遠ざけたはずの優木ルナが、光の中から転移して現れたことによって。
「貰ったッ!」
優木ルナは背中を空けるイレイノムに、盾の刃で斬り掛かる。
俺もアームを装備し、斬撃に合わせて鉄の拳を振るう。
奴は高速移動した直後で風を纏っていない、今なら――。
「ッ⁉クウッ……!!」
「うわぁぁぁぁぁッ!?」
強烈な圧が攻撃を捻じ曲げ、俺達の身体を吹き飛ばす。
イレイノムは、乱回転する空気の渦を自身の周囲に発生させたのか。
防御がこうも早いとは!
身体が回り、視界が定まらない中――。
俺はオーバーに内蔵された自動制御機能、優木ルナは翼の羽ばたきによって体勢を取り戻した。
奴はどこへ――。
「ッ!」
見失ったイレイノムを探す俺の眼に、歪んだ空気が映る。
奴が放った空気の弾!
急ぎ、結界を自身に展開。
弾は結界に激突して炸裂するも、結界を割ることなく、風が結界を横切るのみに終わる。
周囲を見渡しても、イレイノムの姿はない。
「ッ!」
まさか。
そう思い、オーバーを真上へ上昇させ、下を見る。
「ッ、やはりな……!」
オーバーで隠れ、俺の死角になっていた真下に、イレイノムがいた。
右手に、ゼロサムを最大限まで充填した状態で。
「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」
右手を俺のいる頭上へ突き出し、イレイノムはゼロサムを発射する。
解き放たれた光線はイレイノムの姿を隠し、浮上する大地の如く迫り来る。
だが発射される寸前に気づいたお陰で、距離を取れていた。
最大加速で、オーバーの進路を左へ変えてゼロサムを回避する。
「なッ……⁉」
ゼロサムが、左へ曲がり俺を追尾した!
馬鹿な、風で強引に軌道を変えたというのか。
あまりの意表に震撼し、身体が硬直する。
これでは、躱し切れない!!
展開していた結界もあっけなく破壊され、俺の身体は白に呑まれ――。
「させない!!」
「ッ!」
優木ルナが発光と共に俺の前へ転移し、またしても盾の壁で俺をゼロサムから守った。
白の怒涛が、壁を突き破る勢いで優木ルナに押し寄せる。
「ぐっ、ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
このゼロサムは押し留めた剣ではなく、エネルギーの直接放射。
優木ルナの身に掛かる圧力は尋常ではない。
俺はオーバーを駆り、イレイノムの後ろへと回る。
今の内にイレイノムを倒してしまえば、ゼロサムは止まり、決着もつく!
軌道変更に風を使っているのなら、防御は出来まい。
ドグマ・バーストで――。
「OOOoooooooooooooッ!!」
「ッ⁉しまッ――!!」
俺の身の丈に勝る程の掌が上空より堕ち、オーバー諸共俺を叩き落した。
衝撃でオーバーと俺の足を繋ぐ固定器が破損。
成す術なく山肌に身体を打ち、転げ回った。
「クッ、ウゥ…………!」
お邪魔虫が、ドローンの攻撃を掻い潜ってやって来たか。
上級を倒すことばかりに没頭して、抜けていた。
身体を起こす中、跳び上がって俺を攻撃した敵が着地し、山が震撼する。
俺を、下級イレイノムを見る。
奴を除いた上級に匹敵する程の体躯。
大きな鼻と耳が目を引かせる、体毛で覆われた巨人。
全く、面倒な!
優木ルナは未だ、ゼロサムと競り合っている。
いつあの防壁を破られてもおかしくない、危うい状況。
こんな奴の相手をしている場合ではない!
「OOOOOoooooooooooooッ!」
「邪魔をするなッ!!」
手早く倒して上級を討つべく、光線を発射するライフル銃をデバイスで生成。
銃口に銀朱の光を輝かせ、イレイノム目掛けて引き金を引こうとした。
その時だった――。
「ッ!」
漆黒に包まれ、長い尾を引いた矢の如し飛翔体が、音すら置き去りにして巨人イレイノムの首へ真横から激突。
勢いを衰えることなく貫き、イレイノムを消失させた。
あの黒い理気力は、間違いない――。
「クロムッ……!!」
口から思わず漏れた名前に応えるように、包まれていた理気力が晴れ、黒衣を靡かせる神尾クロムの姿が明らかになる。
クロムは、先にいる上級イレイノムを見据え、2つの穂を向ける。
「ウオォォォォォッ!!」
穂の切先を合わせ、それぞれから放出される理気力を混成させた、漆黒の塊を撃ち出した。
攻撃を感知したイレイノムは、即座にゼロサムを止めて風で舞い上がり、塊を躱す。
一撃を外し、落下していくクロム。
俺はオーバーを2機生成し、1機をクロムへと差し向ける。
クロムはオーバーに気づき、俺が寄越した物であると理解し、搭乗。
直ちに上昇し、イレイノムへと向かって行った。
「ッ!」
山の下りから、滑走音が響く。
この音は、ランディングギアの――。
「アラタ。お怪我はありませんか?」
「アクトリア……!」
アクトリアの操るアイゼンが、俺の前へやって来る。
クロムとアクトリアがここへ来た、ということは――。
「片づいたのか」
「えぇ、それから……」
「ッ!」
「山にいたイレイノムも全て」
アクトリアの後に続き、殲滅を任せていたドローン達も現れ、俺の周囲に整列する。
やっと俺達の方に、風が舞い込んできたようだな。
勝利の風が――!




