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Seventh Øne  作者: 駿
38/55

運命の7人目 ⑤

 両腕、両脚。

 イレイノムの荒々しく振るう4つの鎖が、空気を裂く。

 ルナはそれらを掻い潜り、黄金の盾で軌道を読み切って叩き割る。

 金属と鎖がぶつかり合う甲高い音が、周囲に木霊する。

 詰まっていく間合い。

 迎撃として繰り出される、イレイノムの鉤爪。

 ルナは同時に盾を突き出し、それと真正面から激突させ、膂力で押し勝った。

 大きく腕を弾かれ、隙を見せたイレイノムの胴へ、刃で逆袈裟に一閃。

 イレイノムに、大きな傷を与えた。

 静観していたラスタは、これは一気に叩く好機と見て加勢に出ようとするが――。

「我がバディの記念すべき初陣。手出しは無用だ、ラスタ」

 金を基調とする鎧を纏った金髪の青年が、そう言い放ちながら片腕を伸ばし、ラスタを止めてしまった。

 いつの間に――。

「貴方は……!」

「神尾クロム、貴様もな。最も、助太刀出来る力はなさそうだが……」

「誰だ……?」

「セリオス、ラスタと同じエルダーだ。まぁ……よろしく、と言っておこう」

「ッ!」

 このエルダーが、ルナにドグマ・コアを渡したのか。

 ルナをアンサラーに選んだ理由を、今すぐにも問い質したいが――。

 今の俺は、話す力も削がれてしまった。

 ただ、ルナの戦いを見守ることしか、出来ない――。

「ッ……!」

「ッ⁉」

 爪を躱し切れず、ルナの左頬に白い引っ搔き傷が刻まれる。

 白化が治った時に、傷の痛みがルナを襲うだろう。

「止めてくれ……!」

 堪らず、声が零れた。

 戦いってのは、苦しいんだぞルナ。

 いくら治癒力は上がっても、傷を負えば焼けつくような感覚が何時間も続くし。

 もっと深ければ、立ち上がれない程の激痛が襲う。

 なくなってくれと願っても、痛覚は訴えを一切止めない。

 最悪、取り返しのつかない死だって待っている。

 それを承知で、お前はアンサラーになったのか。

 自分の身体も顧みず、お前は世界を守りたいのか。

「ハァァァァァァッ!!」

「ッ!」

 俺の思念に応えるようにルナは叫び、攻撃の勢いを増した。

 敵の行動の一挙手一投足を見て、圧し掛かりを躱し、爪をすり抜け、カウンターとして着実に斬撃を負わせ、追い詰めていく。

 アンサラーの力だけじゃない。

 ルナの中にある戦いの勘が、イレイノムを追い詰めている。

「素晴らしい……!やはり私の見込んだ通りの女傑だ、貴方は!さぁ、止めを!!」

「言われなくったって……!!」

 イレイノムの顔面に盾を叩きつけ、怯んだ隙にルナは俺と同じく胸に埋め込んでいた金色のコアから、輝く理気力を引き出して盾に纏わせる。

 輝く光に包まれた盾を掴んで、ルナは高く跳躍。

 そして――。

 纏う光を使い、イレイノムを容易く覆ってしまえる程の規模に、盾を拡張させた。

「…………!!」

 最早、壁を手にしているのと同じだ。

 圧倒的な規模の力、それをルナが物にしていることに――。

 俺は、息を呑んだ。

「潰れろォォォォッ!!」

 ルナは落下と共に巨大化した盾を、言葉通り押し潰すようにイレイノムへ真上から打ち込む。

 イレイノムに逃れる術はなく、急降する盾と地面に挟まれ――。

 一瞬、ひしゃげた姿を俺達に見せた後、圧壊。

 盾は爆破じみた衝撃音と、木端微塵となった地面の砂塵を撒き散らす。


 砂塵が晴れた時――。

 残ったのは、僅かばかりの白化した地面と、あの一撃を思い起こさせるクレーターだった。

「ふぅ…………」

 決着がついた後も、しばらく盾を押しつける姿勢を保っていたルナが、一息吐いて立ち上がり――。

「イェイ、初勝利ィ~!なんて、へへ…………」

 俺とおじさんへ振り向き、左手でピースを作って俺達に笑顔を送った。

 横でセリオスの、勝利を収めたルナを称える拍手が響く。

「………………」

「………………」

「……怒ってる?」

「そういう訳じゃ、ないけど……」

 事実、ルナがアンサラーになって現れなかったら、俺達の誰かはやられていたかもしれない。

 でも――。

「ッ……!」

「ルナ!」

「大丈夫か⁉」

 ルナの頬の白化が治り、引っ搔き傷から血が垂れた。

 突然の痛みに、芳しいルナの顔は歪み、咄嗟に傷を手で押さえる。

 倦怠に侵された身体を、おじさんの助けを借りて動かし、一緒にルナの元へと駆けた。

「うん、大丈夫。むしろ……嬉しいんだ」

「えっ……」

「クロちゃんが受ける傷を、代わることが出来て……」

「代わる…………?」

「やっと、クロちゃんの背負うものを分かち合えたなぁって。あはは……口に出すと、なんか恥ずかしいね」

「ルナ…………」

「でも、これが私の本心だよ」

 小さく息を吸い、ルナは真っ直ぐ俺を見詰めた。

 俺は彼女の視線から、目を逸らしてしまう。

「クロちゃん、前に言ってたよね。元気に生きてくれてるだけで、俺は救われるって……それは私も同じ気持ちなんだよ。クロちゃんの持つ重荷とか苦しみとか、少しでも減って……また元気になって欲しいから。だから、私も戦うの」

「ッ……!」

 こんなにも俺の身を案じて、憂いてくれる人がいる。

 間違いなく俺は幸せ者だろう。

 ――けど。

 ルナに負担を負わせる為に、俺は戦って来たんじゃない!

 これは俺のエゴだ、分かってる。

 それでもルナには戦うことを知らず、平穏な日々を過ごして欲しかった!

 イレイノムがいるから、真の平和なんて程遠いけど――。

 大切な家族と、ずっと一緒に居て欲しかった!

 こんな台詞を吐いても、ルナの意志は変わらないだろうな。

 お前は、頑固だから。

「ごめんね、パパ…………」

「……父親としては、娘に戦って欲しくはない。でも……世界は、ルナを必要としているんだろ?」

 おじさんはルナにではなく、セリオスに言葉を掛けた。

「えぇ。この世界を救うのはルナであると、私は確信しています」

「ルナにもしものことがあれば、私は絶対に許さんぞ…………!!」

「父君。私が選んだアンサラーに敗北はありません。それを、お約束しましょう」

「ルナ、お前も約束をしてくれ。絶対に生きて帰るって」

「うん……パパは、約束通り帰って来たもん。私も守る」

「……クロム君にもお願いする。ルナと支え合ってイレイノムと戦って欲しい」

「…………」

 おじさんの願いは、俺にルナが戦うことを認めろと、言っているように聞こえる。

 可愛い子には旅をさせよと、貴方は言うのか。

「分かり、ました…………!」

「ありがとう、ルナを頼むよ」


「皆さん、御無事ですか?」

「ッ!」

 スラスターの風圧と轟音が飛来する。

 アクトリアの乗るアイゼンが上空から着地し、地面を揺らした。

「うわ、でっかぁ……!これに、クロちゃんの仲間の人が乗ってるの!?」

「…………助っ人がいましたか」

「えっと、優木ルナです!よろしくお願いします!!」

「今……姿をお見せすることは出来ませんが、アクトリアと申します。アンサラー、宗方アラタのエルダーです」

「あっ、エルダーなんだ」

「では、優木ルナ。出会って早々に悪いのですが……上級の相手をしている、アラタの助太刀へ向かって頂けませんか?」

「上級……?」

「それは――!」

 まだアンサラーになって間もないルナに、上級イレイノムの相手なんてあまりにも無茶だ。

 ルナには下級の対処を任せて、加勢には俺とラスタで――。

「分かった」

「ッ⁉止せ、ルナ!!」

「クロちゃんの持つものを減らすって言ったじゃん。どうせ、無理して自分が行こうとしてたんでしょ?私に任せて」

「でも…………!」

「要らん心配だ神尾クロム。共命理を使えば、上級1体程度……訳なく始末出来る」

「共命理を⁉」

「既に扱えると言うのですか……!」

 俺とラスタは困惑し、互いを見合う。

 よく考えれば、世定を済ませた登場したことすら早過ぎるのに、共命理まで。

「勿論。何故なら私は、彼女の決意に全幅の信頼を置いている。疾うにな」

「きょう、めいり……何それ?」

「アンサラーを凄まじく強くする手段ですよ。必要なのは私を信頼して頂くこと、それだけです」

「信頼……まぁ、貴方が力を渡してくれたんだし……一緒に戦ってくれるって信じてるけど?」

「宜しい。ではここにいる者達よ……真のアンサラーたるルナの英姿を、とくと見るがいいッ!!」

 セリオスの声が空気を震わせ、視線が一斉に彼へと向かう。

 金色の理気力が彼の全身から迸り、瞬く間に理気力の風へと変わっていった。

「未来の救世主たる我らが共命理を果たし、輝かしき威光を示す瞬間をな!!」

「えっ、何、何なの⁉」

 セリオスは戸惑うルナを問答無用で包み込み、渦を巻く。

「うぅぅぅ……!ウワァァァァァァァァァァァッ!!」

「ルナッ!!」

 渦中へ入ろうとするおじさんの腕を、掴んで止める。

 風圧が吹き荒び、理気力の輝きが一帯を燦爛と照らす。

 ルナは今、セリオスの存在そのものを自らの身体に纏い、急激な強化を果たそうとしている。

 他者が入り込める場所じゃない。

 出来るのは、ただ結果が待つことだけだ。

 果たしてルナが、どうなるのか。

 俺自がよく分かっていながらも無根拠な不安を抱き、見守った。

「ッ!」

 共命理が終わった。

 暴風も、熱も、全てが嘘のように消え――。

「はぁ……はぁ…………!」

 共命理がもたらす力の負荷で倒れ掛けていた、ルナの姿が露わになる。

 セリオスの鎧を自分に合う形で装備し、まさしく騎士の出で立ちで――。

「…………」

 益々、ルナが戦士になったのだと思い知らされる。

「ルナ、大丈夫なのか…………⁉」

「うん……慣れて来た。凄いね、これ……!自分の中に、強い力があるって分かる!今にも溢れ出しそうなくらい…………!!」

 俺が共命理の際に感じる力の昂りを、ルナも感じ取っている。

 アンサラーになって間もないにも関わらず、ルナは同じ境地に立ったんだ。

「今なら、何でも出来そう…………!アクトリアさん、そのアラタさんって今どこにいるの?」

「あちらの方角です」

 アイゼンが指差した先を、ルナは見据える。

 そして――。

 背中から猛禽類らしき両翼を生やし、羽ばたく。

 羽を舞い散らせながら飛翔するその姿は、天使に見えた。

「じゃあパパ、ママにはよろしく伝えておいて!行って来ます!!」

 そう言ってルナはアラタの元へと、矢の如く高速度で飛行した。

「ラスタ、共命理は出来るか…………?」

「ッ⁉」

「えっ?」

「少しの時間でもいい、俺に戦える力を貸してくれ!!」

 みっともない頼み込みなのは百も承知だが、今は四の五の言っていられない。

「無茶を言うな!後はアラタ君とルナに任せて君は――!」

「おじさん、俺に言ったじゃないですか。ルナと支え合えって……」

「ッ!私は何も、度を越してまで戦えと言った訳じゃない!!何故無理をしようとする!?」

「……プライドって奴ですよ」

「プライド……⁉」

「俺は、アンサラーなんです。アンサラーとしてイレイノムと戦い、今生きている人を守る……それが今の、俺の生き甲斐なんです!だから……俺は最後の最後まで、全力を全うしたい!!」

「クロム君…………!」


「持って、35秒です。それでも戦いに向かいますか?」


「君まで⁉」

「勿論!」

「私はクロムのバディです。彼が心の底から戦いを望むのなら、私の手で叶えてみせます」

「ありがとう、ラスタ……!」

「私にもあるのでしょうね。貴方の言う、プライドというものが」

「では、私がアラタの元までお送りしましょう。後は、集落内のいるドローンが対処してくれるでしょう」

「頼む!」

 アイゼンが膝を崩し、コクピットのハッチを解放してくれた。

「……止めても、無駄か」

「すいません……」

「君の気持ちが分からない訳じゃない。ただ……本当に、無事でいてくれよ」

「まぁ…………死んだら、誰も守れませんからね」

「違う。ルナや私、関わった人達が悲しむからだ……!だから絶対に死ぬな」

「…………はい」

 俺とラスタはコクピットに乗り込んだ。

「ッ!」

 これが、アイゼンの内部。

 円形のモニターが視界を囲み、無数の計器が淡く光を放っている。

 そして目の前にある操縦桿。

 あらゆる要素がSFチックで、戦うに赴くというのに心が弾んでしまう。

 まだこんな幼稚な心を持ってたなんて、我ながら驚きだ。

 しかし――。

「狭いな……」

 どこかに別の座席はないのか。

「本来はアラタの1人用ですからね。申し訳ありませんが、席は共有でお願いします」

「えっ」

「分かりました。どうしますかクロム?スペースを考えると、どちらかが一方の膝に乗る形となりますが」

「…………俺が下でいい?」

「はい」

 俺はこれから戦いに行くんだ、俺はこれから戦いに行くんだ、俺はこれから――。


「シートベルトは付けましたね?では、移動を開始します。揺れに注意してください」

 ハッチが閉じ、アイゼンがスラスターを噴かして跳躍する。

「うおッ⁉」

 椅子を通じて走る、背中への突き上げる衝撃。

 そして着地のラスタと椅子による挟撃を、繰り返し喰らいながら――。

 アラタと、ルナがいる戦いの場へと俺達は向かう。

 共命理を維持出来る時間はラスタ曰く、35秒。

 その間、どれだけ役に立てるか分からないが――。

 俺はやれることをやるだけだ!!

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