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Seventh Øne  作者: 駿
36/46

運命の7人目 ③

「結界が破壊された……⁉」

「既に何体か、内部に侵攻しています」

「ッ!アイツの仕業か…………!!」

 遠方の空。

 2対の翅を背中に生やし、宙に漂う華奢な女性シルエットのイレイノムが、伸ばした手からゼロサムの残光を漏らしていた。

 人型、おまけに等身大の上級は初めて見た。

「アクトリア、アイゼンで向かってくれ!俺はここで上級を喰い止める!!」

「了解しました」

 コクピットのハッチが、自動的に開く。

 飛び降りてアイゼンから離れると、アイゼンは俺の操縦なしにBエリアへと跳んで向かった。

 内部AIとなったアクトリアに操縦を変えた。

 俺から離れたアイゼンは、出力と弾倉の自動回復力が落ちてしまうが、急を要するこの事態を考えればそんなのは細事だ。

 アクトリアを増援に向かわせ、俺は上級イレイノムを相手取る。

 デバイスからフライトユニットを選択し、戦闘機を模した機械を足元に生成。

 所定の位置へ両足を乗せると固定器が自動的に足を固定し、底のホバークラフトが作動。

 機体――オーバーは浮き上がり、後方スラスターの噴射によって急加速で飛翔した。

「ッ……!!」

 髪が逆立ち、向かい風に身体は冷え、全身に圧が掛かっているのを感じる。

 この高機動さにまだ慣れていないが、空中戦を行うには使いこなすしかない。

「……………………」

 集落を見据えていたイレイノムが、迫る俺の存在に気づく。

 ドローンは下級の駆除に回していて使えない。

 機体前部に搭載されている2門の機関砲、そして生成した6連装ミサイルランチャーを発射する。

 デカブツと違い、大型兵装は躱され易いだろうが、このミサイルは追尾式。

 さぁ、どうする――。

「ッ!」

 着弾する寸前、奴の周囲の空間が歪み出す。

 弾丸はその歪みに受け流され、ミサイルはイレイノムの手前で全て爆破。

 直撃出来ず、爆風もイレイノムに届いていなかった。

「風か!」

 大気を操って風の防壁を展開し、身を守ったのか。

「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」

「――ッ⁉ウッ、クゥッ……!!」

 あの姿から出るとは思えない、イレイノムのけたたましい咆哮と共に、強風が吹き荒れる。

 オーバーが揺れて――。

 上手く、バランスが取れない!

 機体は不安定さを感知し、自動的に持ち直すが――。

 この風が吹く限り、また煽りで機体が傾いて立てなくなる。

 厄介なイレイノムだ。

 風で自らに近寄らせず、その上、大気を防壁にして飛び道具も防ぐんだからな。

 イレイノムが、俺に接近し始めた。

 それと同時に左手を引き、ゼロサムのエネルギー充填を開始する。

 至近距離で確実に当てる腹積もりか。

 奴が近づくことで、奴を起点に発生している風がより強力になり、ますます不安定になる。

「チィッ……!」

 機体を反転させ、全速力でイレイノムとの距離を取る。

 風は俺を退ける為のもの、離れる分には機体への影響は少ない。

 しかしイレイノムが追走し、離れられずじわじわと距離が詰まっていく。

 コイツが最高速で遅れを取るなど――。

「ッ⁉」

 違う。

 いつの間にか、風向きが変わっている。

 奴め、風で機体ごと自分に引き寄せようとしているのか!

 上下左右。

 どこへ逃れようとしても戻されてしまう!

 風でこちらの動きを止め、悠々と迫って来るイレイノム。

 左手にはもう、いつ放たれても可笑しくない程の眩い光が照り輝いている。

 このままではゼロサムの餌食――。


 ならば!


 機体を前のめりに傾かせ、繋ぎ止めていた固定器を解除。

 俺はオーバーを足蹴にしながら地面へと落ち、ブーストを止めたオーバーは易々とイレイノムの元へ。

 自爆しろ…………。

 そう脳内で指令を送り、オーバーは忠実に自爆シークエンスを実行。

 敵の眼前で、機体のサイズを軽く超える広大な爆発を上げ、敵を焼くのみでなく黒煙で視界を覆った。

 今の内だ――!

 落下しながら、俺はデバイスを操作。

 右腕に装着するパワードアーム。

 そして、本来はアイゼンのオプション装備であるライフル砲を、俺のみで扱える程度にまで縮小して生成する。

 蒼銀の光と共に現れ、装着されるアームと、傍で共に落下するライフル砲。

 俺の等身に何倍も勝る程ロングな銃を、左手で手繰り寄せ、グリップを左脇で握り締めて固定。

 アームを装着して怪力となった右腕で銃身を持ち、やや真上の方角で砲口を定めた。

 イレイノムは既に煙から抜け出し、風を使って充満していた煙を掻き消していた。

 だが、近くに俺はいない。

 イレイノムが辺りを探り、落ちている俺に気づいた時にはもう――。

 ライフル砲の発射準備は完了していた。

「落ちろ!」

 耳鳴りを生じさせる轟音。

 共命理をしていなければ、間違いなく左肩が千切れ飛んでいたと思える程の、甚大な反動を伴って――。

 1発の徹甲弾が、ライフルより放たれる。

 回転が加わった弾はぶれることなく、狙い通りイレイノムへと一直線に突き進み――。

 着弾。

 イレイノムの左肩を抉り取り、片腕を消失させた。

「仕留め損ねた…………!」

 身体の中心を狙って放ったのだが、風の防御が間に合って少しばかり軌道を変えられたか。

 ライフルを放り捨てオーバーを足元へ再生成し、直ちに乗り込みホバーを作動。

 生じる空気が、砂塵を舞い上がらせる。

 地表スレスレだったが、どうにか落下を喰い止め、スラスターを噴かして上昇。

 イレイノムの追撃へ向かう。

 苦労して一撃を叩き込めたが、問題はこっからだ。

 恐らく、同じ手は2度と通じない。

 それに――。

「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」

 相手も、本気で俺を消し去りに掛かって来る。

 防衛の加勢には、まだ行けそうにない――。




「結界が破られた…………!」

 カーテンの隙間から頭を出し、双眼鏡で入って来たのを確認する。

「えッ⁉」

「破られたって、イレイノムが来てるってこと⁉」

 物凄い数のイレイノムが、押し寄せて来ている。

 クロム君達は一生懸命守ってくれているだろうが、これでは――。

「は……早く、ここから逃げないと!」

「いや、出ても狙われるのがオチだ」

「じゃあどうするのよ!」

「…………俺も、ここを守る!」

「えっ……パパが⁉」

「これでも3年、イレイノムから逃げ延びて来たんだ。あしらう方法は心得ている」

 バッグからスマホとトイドローンを取り出す。

 ソーラー充電器で残量は確保されている、動作は――。

 うん、どちらも問題なく動かせる。

 イレイノムが現れた時は、これで気を引かせながら逃げていた。

 大多数のイレイノムを相手に使ったことはないし、伝送距離は約80メートルだから、降りて使わないといけない。

 住民達の中では、真っ先に狙われるだろう。

 だが――。

 少しでもクロム君達の役に立つ為にも、やるしかない!

「無茶よ!お願いだから止めて!!」

「そうだよ!折角会えたのに、パパに何かあったら…………!!」

「私だって、ルナやナツミに何かあったら耐えられない。だからやるんだよ」

 もう二度と離れない為に、命を懸けて――。

「じゃあ、行って来る……ルナ。ママを頼んだぞ」

「パパ…………」

「必ず、帰って来る!」

「アナタッ!!」

 ドアを開き、家族と離れて下へと降りる。

 大丈夫だルナ、ナツミ。

 約束は、今度こそ守ってみせるから。




「ッ……何だって羊の姿が変わったんだ⁉」

「下級イレイノムは一定の範囲内に上級が来ると、それに類する存在に変化し、上級の配下となります!」

「更に面倒くさくなりやがって……!」

 カボチャ状の頭1つで宙に浮かび、集落へ攻めるイレイノムを追い越しながら、槍の横薙ぎで消し去り――。

 背中の翼を羽ばたかせて上空を飛行する、下半身が蛇の女性型イレイノムを――。

 ラスタと共に黒塊弾で撃ち落とし、止めに背中を槍で突き刺して討ち取る。

 こうして、イレイノムを倒し続けながら、皆がいるマンションへと向かっているが――。

 イレイノムの侵攻は止まらない。

 結界を張ったことで新たな侵入は防ぎ、ドローンやアイくんまでもが侵入したイレイノムを迎撃してくれている。

 しかし、こっちよりもイレイノムの数は優勢。

 おまけにそれらが全て、単純な羊から妖精を想起させる姿に変貌を遂げ、厄介さが増大した。

 抑え切れず、攻め込まれつつある。

「何やってんだよ、俺は…………!!」

 幸福を一時で終わらせないと、戦う前に誓っておきながら、何だこの体たらくは。

 もっと速く走れよ、息を切らすな、槍を強く振れ、黒塊弾をちゃんと当てろ。

 このままじゃあ――!

「もう一度、共命理は出来ないのか⁉」

「共命理をするだけの理気力が、私にありません。溜まるには……あと20分は必要です」

「そうか…………!」

 2人で黒塊弾を発射し、俺達の前を走る小人姿のイレイノム達の足を止め、撃破――。

「ッ⁉」

 1体の小人イレイノムが左腕を体格の何倍にも肥大化させて、裏拳で黒塊弾を弾いた。

 続けて胴体、右腕、左足、右足、最後に頭部を肥大化。

 あまりに莫大な筋骨で、身を固めた巨人へと変容する。

「Oooooooooooooooooooooooooッ!!」

 俺達の前に立ち塞がる、劇的なまでに大化けしたイレイノム。

「クッ……!」

 デカブツをまともに相手する時間も力もない。

 さっさと切り抜けて進む!

 振り下ろされるイレイノムによる拳の鉄槌を、俺達は左右に別れて躱し、横を通り過ぎる。

 イレイノムは見ず、今出せる全力の走りで振り切――。

「クロム!」

「ッ!」

 光が落ち、影が急速に広がっていく。

 俺は、瞬時に真横へ跳んだ。

 爆発めいた衝撃音が耳に響きながら、揺れ動く地面に身体を擦る。

 振り返って、あのイレイノムの足が眼前に映る――。

「Oooooooooooooo…………」

 逃がさないとでも言うつもりか、こっちは構う余裕などないのに!

「ッ……!」

 イレイノムは足を上げ、再び俺を踏み潰しに掛かる。

 その刹那――。

 後方から飛来する2つの強い衝撃がイレイノムの背中に直撃し、イレイノムを転倒させた。

「あれはアラタの……!」

「アイゼン⁉」

 あの攻撃がやって来た後ろを見ると、アイゼンが足底の車輪を駆動させながら、こちらへと急行してくれた。

「ご無事ですか、2人共?」

 拡声器から俺達の安否を伺っているのは、アクトリアの声だった。

「アクトリアが、操縦してるのか?」

「アラタの命令で加勢に参りました」

「ならアラタは今……1人で上級を喰い止めているのですか?」

「共命理はしている状態ですので、御安心を」

「来てくれて助かった!このイレイノムの相手を頼む!!」

「お任せください」

 巨人イレイノムをアクトリアに任せ、俺達は先を急ぐ。

「……………………」

 急ぎながら、アクトリアの戦いぶりを見る。

 アクトリアの操るアイゼンは内蔵のミサイルを発射し、動き出そうと動くイレイノムを牽制する。

 生じた黒煙で視界も封じた後、イレイノムの周りを車輪で旋回しながら、ガトリングで連射。

 堅実な立ち回りで、イレイノムを追い詰めていた。

「アラタ以外が乗ると、パワーが落ちるようですね」

「とにかく急ごう!!」




「あぁぁぁぁぁ……アナタ!アナタァァァァァァ…………!」

 パパは、死地へ飛び出していった。

 跪いて泣くママを、私は背中を擦って慰める。

「ッ……!」

 また、来た。

 胸の奥を襲う痛み。

 置いて行かれて、何も出来ない自分の無力さの痛感が――。

 私の歯を食い縛らせて、現れる。

 クロちゃんもパパも、皆を守る為に一生懸命戦っている。

 私はじっと、ここで待っているだけ。

 今すぐ私も行きたい、行ってクロちゃんの助けになりたい。

 でも、クロちゃんと同じ力はないし、パパみたいにイレイノムを撒く手段を持っている訳でもない。

 何より――。


「お前が元気に生きてくれてるだけで、俺は救われるんだよ」


 この言葉に、私の恐怖心が甘えてしまっている。

 クロちゃんは私の存在に救われている、だから危ない目に遭わないようにしなければならないと――。

 私の行動を、止めていた。

「……………………」

 力が欲しい。

 イレイノムを倒せる力。

 大切な人を守れる力、苦しみを分かち合える力。

 甘えを振り切ることの出来る力が!


「ッ⁉」

 そう、強く思った瞬間――。

 私の切望に同調したかのように、窓のガラスが砕け散った。

 部屋中に激しい音を響かせ、大小の破片が散乱する。

 振り返り、目を見開くママと私。

 ――人がいる。

 人が、窓ガラスを割って、この部屋に入って来たんだ。

「…………無礼な参上をお許しください。我がバディ」

「えっ……?」

 バディと、呑み込めない言葉を口にしたその男は、三点着地の体勢から立ち上がり、その瞳を真っ直ぐに私へ向ける。

 黒い薄着を纏い、黒髪で端整な顔つきの、高身長な青年だった。

「お初にお目にかかります、優木ルナ。我が名はセリオス、貴女に力を授け……アンサラーの頂きへと導く、エルダーです」

「ッ⁉」

 軟らかな笑顔を浮かべ、彼は自己紹介をした。

 私の名を呼び、私に力を与え、アンサラーへ導くエルダーだと。

「何なの貴方!急に人ん家の窓ガラス割って出て来て!!」

「……申し訳ありませんが母君。私は今、彼女に話し掛けている。水を差すのはご遠慮願いたい」

「ッ、何なのこの人……!」

「私に、力をくれるの…………?」

「ルナ⁉」

「はい。貴女にはその資格と、義務がある……己が理想の世界を体現し、救世主となる義務が」

「理想の、世界……?」

 そんな大それたもの、私は――。

「貴女はイレイノムが蔓延る現実、その災禍に苦しむ人々を直視し、魂の深奥で願ったはずです…………守りたいと」

「ッ!」

 あの時の、私の心を。

「貴女は不条理な災いによって自分以外の誰かが苦痛に苛まれ、絶望し、死ぬことを許さない、自らの手で喰い止めたいと強い願いを持っている。違いますか?」

「…………」

 彼は、私の心を読んでいる。

 まるで、イレイノムが現れた日からずっと、私の心を覗いていたかと思えるぐらい正確に。

「それこそが貴方の描く世界。己の力で人々が守られるという、気高く尊い理想を、貴女は抱いている」

 セリオスが私に近づき、私の眼の前で片膝を付いた。

 そして、クロちゃんが胸元にはめ込んでいた、あの黒いドグマ・コアをどこからか取り出し――。

 献上するように両手で、コアを私に差し出した。

「さぁ。このコアを手に――」

「ルナ!そんな変な人の話を聞いちゃ駄目!!」

「水を差すなと言った」

「ひぃ……ッ!」

「これが、あれば…………」

 イレイノムを倒すことが出来る。

 けどそれは、イレイノムと戦うことを意味する。

 クロちゃんと同じように、数少ないアンサラーとして真正面から向き合って痛い思いをすることになる。

 命を落とす、危険だって。

「――ッ!」

 それでも、私は――!

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