運命の7人目 ②
「イレイノムガキマス。イレイノムガキマス。ソトニデテイルカタタチハ、タテモノヘヒナンシテクダサイ。クリカエシマス――」
「イレイノムだって⁉」
「いや、先ずお前ら何なんだよ⁉」
「アイくん、トモウシマス。ササッ、ハヤクヒナンヲ」
「名前を聞いてんじゃなくて……まぁいいやどうでも!」
通りを走り回る、小さなロボット達。
人々はその警告に従って建物の中へと駆け込み、扉が1つ、また1つと閉ざされていく。
外の様子は見えない、イレイノムがどんな姿が分からない。
でも、胸の奥が不安で締めつけられる。
フィギュアを握る力が勝手に強くなり、顔が俯く。
そんな私を、パパとママは肩にそっと手を置いて励ましてくれた。
「ルナ、大丈夫」
「クロム君達がやっつけてくれるさ」
「うん…………」
クロちゃん、どうか無事でいて。
「来る…………!」
「「「「「「「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo」」」」」」」
Bエリアの端、羊イレイノムの群れが声にならないおどろおどろしい合唱を奏でながら、意思を持った津波のごとく押し寄せて来る。
結界は張った。
後は、戦い抜くだけだ!
「オォォォォォォォォォォォッ!!」
雄叫びを上げ、歯を食い縛り、両手に構えた槍の穂先から大玉黒塊弾を放つ。
先頭にいる十数匹のイレイノムが黒い閃光を共に爆散させ、開戦の火蓋を切った。
「ッ!」
群れが俺との接触を避ける為か、直進から突如、分裂を始める。
結界を左右で囲うように。
――完全に分裂し切る前に群れの大部分を叩ッ斬る!!
片方の槍を逆手で持ち直し、双方の穂を巨大な黒刃へと変え、敵陣に突っ込んで両槍を打ち振るい、イレイノムを多数両断する。
両断したイレイノムは軒並み爆散し、戦場に黒い塵を撒き散らす。
まだだ!
更に、その勢いを止めずに身体を渦の如く回し続け、斬撃の嵐となって後続の羊イレイノムを、幾多も弛まず刈り取った。
だが――。
「クッ…………!」
終わりなく次々迫るイレイノムの行進に、やがて回転の勢いを殺されてしまう。
奴らの行進に呑まれてしまう前に、俺は刃を元の穂へ戻し、地面へ理気力を放って爆発を起こす。
隣接していたイレイノムを撃破すると共に、反動で身体を上昇させた。
「…………ッ!?」
上空から見下ろした光景に、絶句する。
恐らく百は倒したはずなのに、全く群れに損害を与えられていない。
「畜生……!」
両槍を連結して双刃刀へと形を変え、前端から理気力の光線を、薙ぎ払うように群れへ振るい放つ。
黒く煌めく光線は、触れたイレイノムを悉く抹消させ、俺の視界に白い地面を映す。
だが、それも直ぐに次の羊が覆い隠してしまう。
イレイノムによる結界の囲い込みは、完遂されつつあった。
既に結界への突撃をしているイレイノムもいる。
結界がイレイノムを弾き、ドローンがビームで迎撃しているが、このままでは破られる――。
早い所倒してくれよ、アラタ!
「ウオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
穂を、前より更に強靭で膨れ上がった刃へ変質させる。
落下の勢いをそのままに振り被り、着地と同時に叩き伏した後、渾身の力で双刃刀をぶん回して周囲の羊イレイノムを一掃する。
群れの勢いは、未だ止まらない――。
スラスターを噴かし、跳躍。
スラスターによる限界飛行時間まで、空中を移動。
遠距離武装を使い、着地地点のイレイノムを撃滅し、着地して再び跳躍。
それを繰り返し、群れを最初に確認出来たあの山の上方へと向かう。
きっとそこに、羊を生み出す元凶がいるはずだ。
「…………!」
着地し、次の跳躍に移ろうとした瞬間――。
羊イレイノムの速度が突如増し、アイゼンへ突進を仕掛けてきた。
それも迫る波の如く、膨大な数で。
一部の羊は味方を足蹴にし、アイゼンの腰まで高く跳び上がっていた。
アイゼンに乗っていれば小さいものだが、こうも押し寄せられると体勢を崩されてしまう。
アイゼンの左腕部ガトリング砲を敵へ向け、発砲。
襲い掛かるイレイノムを、こちらと集団にある程度の距離が出来るまで全て蜂の巣にして、出来た段階で跳躍して次の突進を避ける。
――勢いが増していた。
元凶が俺の存在に気づき、羊どもに近寄らせないよう、命令でもしたか。
「フッ…………」
敵に迫れている、良い証拠だ。
このまま押し通って、叩き潰してやるよ――!
レールガン、内蔵ミサイル、同時発射。
敵の勢いが増したなら、こっちも火力を増やすまで。
レールガンの衝撃とミサイルの爆風で、降り立つ地面にいるイレイノムを吹き飛ばし、降下する。
「ッ!!」
もう何度目か分からぬ着地だったが、景色に少しばかりの変化があった。
奥の奥、遥か斜め上の頂上付近に、無数の実を枝に付けた白い樹木がいた。
その実から羊イレイノムが割れ出でて、地面へ落ち、群れに参加している。
「アレか…………!!」
あの木こそ元凶。
伐採してしまえば、羊イレイノムがこれ以上増えることはない!
「行けッ!」
デバイスを操作。
ドローンを10機生成し、一斉にあの木へと向かわせた。
羊イレイノムが木を守る為に飛び掛かって来るが。
ドローン達は翼から発振されるレーザー、そして砲門からビームによって形作られた刃で。
立ち塞がるイレイノムを、止まることなく切り裂き、穿ち、突き進む。
こうして木へと辿り着いたドローン達は、実に狙いをつけてビームを照射。
新たな羊イレイノムが実から誕生をする前に、実を焼いて喰い止めた。
「「「「「「「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo」」」」」」」
親の危機に、子供である群れは前進を止め、後退を始めた。
しかし、空中にいるドローンをどうにか出来る手段など、奴らにはない。
それに――。
行進を止めたということは、アイゼンへの妨害がなくなったということだ!
スラスターを存分に噴かし、ランディングギアによる最高速度に。
前を走る羊イレイノムを全て撥ね飛ばし、木へと迫る。
両腰部のブレードを抜き取り、連結。
レーザーを発振させ、伐る準備を完了させた。
ランディングギアを収納。
地面を滑りながら木へと辿り着き、逆袈裟一閃。
斜めから真っ二つにし、地面に根づいた切り株を、左足を高く上げて踏み潰す。
そして羊どもを払いながら、倒れ落ちた実をドローン達と共にビーム砲で焼き尽くした。
「よし…………!」
これでもうイレイノムは増えない、後は倒すまくるだけだ。
ラム肉にもならない羊狩りなんざ、さっさと片づけてや――。
「アラタ、左方向から高エネルギーが接近しています。ゼロサムです!」
「何ッ!?」
アクトリアからのメッセージに驚いたのも束の間――。
白い光線が、過大な圧と音を起こしながら、道を作るように上空を走った。
この軌道――。
集落の方へ向かっている!
跳躍し、羊イレイノムの居場所を俯瞰。
強力な一撃で最大限撃破出来る箇所に、狙いを定める。
胸のコアに触れ――。
引き出した膨大な理気力を、双刃刀の前後の刃に込めた。
前端から光線を地面へと撃ち込み、一帯に漆黒の理気力を広げる。
広がった理気力はやがて、渦巻く激流となり――。
黒に足を踏み入れているイレイノムや、黒の周囲にいるイレイノムを、一匹残らず中心へと引きずり込んだ。
お互いの身体を潰し合いながら、一点に密集する数多の羊イレイノム。
「オォォォォォォォォォッ!!」
後端の刃を前へと回し、ありったけの力を込め、双刃刀を穴の中心目掛けて投げ飛ばす。
纏った理気力を推進力に変え、双刃刀は音速を超えて爆進し、地面に衝突。
理気力は双刃刀の元へ収縮され――。
引き寄せた全てのイレイノムを呑み込み消滅させる、黒閃の爆裂を引き起こした。
イレイノムの残骸か、炸裂した理気力の残滓か。
無数の黒い飛沫が、空中にいる俺を軽く飛び越す程に高く上った。
着陸する。
「ハァッ……ハァッ…………ハァッ……!!」
額から滴り落ちる汗を、袖で拭う。
これだけやっても羊はまだ数多くいるが、総数は間違いなく減っている。
アラタが既に大元を倒してくれたのか。
もしそうなら終わりが見えた、残った奴らを倒せばいいんだから。
まだまだ、馬鹿みたいな数が結界を取り囲んでいて、参ってしまうが。
「まだまだ……!もう一踏ん張り――ッ⁉」
突如――。
俺の上空を、迸る白い流れが駆けた。
「ゼロサム…………⁉」
何の前触れもなく現れたゼロサムは、一直線に集落へ飛来。
俺の結界が、炎状の壁になってせり上がり、ゼロサムの侵入を塞ぎ、打ち当たった。
拡散する衝撃が俺の身体を圧し、羊イレイノムを吹き飛ばす。
結界は余波で内部に白化を漏らすこともなく、完璧にゼロサムを防いだが、崩壊。
Bエリアを守る第一の壁が、なくなってしまった。
上級がやって来る。
「直ぐに……結界を張り直さないと…………!!」
結界というのは1人で二重や三重に張れないと、行く道中でアラタから聞いた。
試してみて、確かにその通りだった。
俺にもう1度出来る余力が持って張ろうとしても、何故か理気力がコアに戻って空振りに終わってしまう。
出来るか出来ないかではなく、決まりこととしてやってはいけないのだと、コアが否定するように。
何故かを聞いても、皆返答に困った顔をしながらはぐらかしていた。
双刃刀に理気力を纏わせる。
既にアラタの結界へ侵攻している羊もいるが、仕方ない。
振り上げ、地面に刃を思い切り突き刺す。
だが――。
「――何ッ⁉」
「解けた…………!」
ラスタとの共命理がこのタイミングで解除される。
槍に纏っていた理気力も結界を張れるだけの力はなく、理気力が一瞬地面から噴き上がるだけに終わってしまう。
ずっと全力で戦い続けたからって、何もこんな時に――!
だが元に戻っても、ドグマ・バーストで結界は張れる。
俺を胸のコアに手を――。
「Ooooooooooooooooo!!」
「ッ!」
帽子を被り、髭を蓄えた小柄な老人姿のイレイノムがどこからともなく横から現れ出で、持っていた斧を振り上げ、飛び掛かって来た。
咄嗟に身体を仰け反らせ、斬首を狙った一撃を躱すが、不安定な体勢に倒れてしまう。
老人イレイノムは、再び斧を振り上げて俺に斬り掛かろうとするが、ラスタが前に出てイレイノムを押さえてくれた。
「クロム。早く結界を……!」
「分かってる!」
胸のコアから理気力を抽出。
槍に込めて地面へ突き刺し、結界を張った。
しかし、その時にはもう――。
「ッ⁉」
最終防衛ラインが、放たれたゼロサムの第2射によって破壊されていた。
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
アラタの結界にまで侵攻していたイレイノム達が、一斉にBエリア内部へ突入を始める。
羊だった形を液体へと転化し、別の何かに蠢いて変わりながら――。
「行くぞ、ラス――ッ⁉」
「……どうしました?」
「何でもない、行くぞ!!」
動くのを拒んだ足を無理矢理にでも前へと動かし、俺とラスタは侵攻するイレイノムを追い掛ける。




