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Seventh Øne  作者: 駿
34/42

運命の7人目 ①

「おじさん、もうすぐ着きますよ」

「ッ、そうか!ようやく、2人に会える…………!」

 レンさんの声は上ずっていた。

 それは疲労からではなく、待ち望んだ瞬間が目前に迫った興奮のせいだろう。

 3年間熱望していた再会が、遂に果たされるのだから当然だ。

「もっと早く会えていれば良かった……」

「長いすれ違いでしたね……」

 不安はある。

 上級が現れて、まだ脆弱な俺の結界を破って住民達を襲う。

 その可能性が、辿り着くまで常に、俺の心の奥底で付き纏っている。

「…………」

 後部座席にいるアラタへ視線を送る。

 視線に気づいたアラタは、右腕のデバイスを確認。

「…………」

 し終わったアラタは、静かに首を縦へ振った。

「良かった…………」

「え、何か言った?」

「あっ、いえ……!何も!!」

 アラタには予めBエリアの位置を教え、探査用ドローンを車に先んじて向かわせていた。

 イレイノムの襲来がないか見る為に。

 結果、何ともなかった。

 もし今になって遠くから上級イレイノムがやって来ても、共命理をして全速力で向かえば迎え撃てる。

 送り届ける、結界を張るという目的は、無事に達成出来そうだ。

 車はゆっくりと、結界の張られたBエリアの入口に差し掛かった。




「着きましたよ」

「あ、あぁ…………!」

 思いがけず戸惑い気味な返事をクロム君に返しながら、マンション付近で止めた車を降りる。

 いざ来てみると、まごついてしまうな。

 2人は、どこにいるんだろう。

「クロム。俺達は先に結界を張りに行って来るからな」

「頼んだ」

「それじゃあ、俺達はこれで……」

「さようなら」

 アラタ君とアクトリアちゃんは私に頭を下げながら、クロム君達と別行動で集落の端へと移動する。

「助けてくれてありがとう!ありがとうッ!!」

 私の感謝に、アラタ君は手を軽く上げて応え、離れて行った。

「それじゃあ俺が案内しますね。」

「あぁ。よろしく頼む」

 クロム君に連れられ、私は家族のいる場所へと案内される。

 心臓が早鐘のように鳴っている。

 娘と、妻に会える。

 イレイノムに追われ、あると思っていた未来を奪われ、それでも生きていると信じながら――。

 心のどこかで、もう永遠に消えてしまったのではないかと、自分の絶念に怯えていた3年間が終わろうとしている。

「こっちです」

 クロム君達は振り返りもせず、ただ確かな足取りで進んでいく。

「ナツミ……ルナ…………」

 2人との最後の想い出が、脳裏に過る――。



「パパ、誕生日おめでとう!!」

「おめでとう!!」

「ありがとう!」

「ビデオ通話じゃなかったら、ケーキ一緒に食べられるんだけどね…………」

「まぁ同じ物を買ってきたから、味は分かち合えるよ」

「そうね……」

「パパって、いつその…………帰任?になるの?」

「う~ん。あと2、いや3年は掛かるだろうな」

「そっか、まだまだ先だね」

「…………」

「……ところでルナも、もう直ぐ誕生日だろ?20歳の」

「うん!私もう立派な大人のレディに仲間入りだからね!!」

「…………へぇ」

「何よ!その返事と顔ぉ~⁉」

「あっははははははは!ごめんごめん……いや本当に大きくなったな、ルナ」

「ほんとほんと」

「……うん」

「えっと9月7日は……休日だな。じゃあ、直接お祝いしに行こうかな」

「えっ、本当ッ!?」

「本当。パパは嘘つかない!」

「久し振りね!私も楽しみ」

「約束だからね!パパ!!」

「あぁ、絶対行く」



「この部屋です。多分、中にいると思いますよ」

「………………」

 マンションの一室への扉。

 2人が、いる――。

 ただの木の板切れ一枚。

 けれどそれを開けば、失ったと思っていた全てがある。

 喉が渇く。

 掌は汗で濡れ、伸ばした手は小刻みに震えていた。

 深呼吸を1つして意を決し、扉を開ける――。

「あっ、はい!どちらさ、ま…………」

「ルナ…………!」

「パパ……?」

 私の愛する娘が、目の前にいた――。

「誕生日おめでとう……ルナ…………」

「遅いよ……遅いよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 ルナの目から堰を切ったように涙が零れ、私の胸に飛び込んできた。

「私、もう23歳だよ!もぉぉぉぉぉ!!」

「ごめん……ッ、ごめんなぁ…………!!」

 腕の中で、娘の身体が嗚咽を漏らしながら震えていた。

 決して幻や夢なんかじゃない、現実の生きているルナがここにいる。

「アナタ⁉」

 ナツミが、信じられないものを見たように、目を見開いて部屋の奥からやって来る。

「ただいま……ナツミ」

「あぁ、アナタ…………!!」

 ナツミも駆け寄り、私とルナを包み込むように抱き締める。

 あぁ。

 感じられる、家族の温もり。

 やっと、1つに戻れた――!


「…………良かったな、ルナ」




「離れ離れだった家族の対面。立ち会わなくて、宜しかったのですか?」

「元々俺は赤の他人だ。興味はない」

「そう言いつつも、何度か集落の方を振り返っていますが?」

「……うるさい」

 さて、ここが結界の境目か。

 黒い薄膜1枚、上級が現れなかったのは幸運だったな。

「早い所済ますか……」

 胸のコアに触れ、理気力をデバイスに込める。

 そして画面に表示されている結界シルエットのアイコンをタップし、右腕を地面にかざす。

 ドームの結界は張られ、結界内部各所からドローンが生成され、辺りを監視するべく直ちに周回を開始する。

 集落の方から、住民達のどよめきが聞こえ出す。

 これでクロムの結界も張られれば、上級だろうと侵入は容易じゃなくなる。

 再会も果たしただろうし、クロムに結界を張るよう、呼び掛け――。

「ッ!?」

「どうされ――ッ!」

「これは……」

 デバイスから突如として、けたたましい通知音が鳴り響く。

 絶え間なく、次々と。

 デバイスと同期しているアクトリアも、異常を検知していた。

 何だ、これは。

 事前に向かわせていた偵察用ドローンのレーダーから、異常な数のイレイノムを発見していた。

 その数30、いや50、70――。

 一定の方角から、数え切れない程勢いづいて出現し続け、こちらに向かって来ている!

「アラタ、あれを……!」

「なッ……⁉」

 視線の先、集落の南西――。

 遠くの山肌が、上から下へと緑を喰らい尽くすように白へと染まっていく。

 大量のイレイノムが纏まって、山から降りて来ているというのか。

 馬鹿な!

 サイズからして下級だろうが、上級も近くにいない中、何故群れをなしているんだ。

 ドローンのモードをレーダーから撮影に切り替え、イレイノムの群れを画面に映し出す。

「ッ!」

 群れの正体――。

 それは、羊だった。

 何百という羊が、まるでひとつの意思で動くように、同じ歩幅で地を踏み鳴らして草木を消し去り――。

 白を拡散させながら迫り来る。




 再会を無事に果たした俺は、結界の境目に新たな結界を張るべく移動する。

 ルナも、見送りで同行してくれた。

「えっ、何これ?機械が飛んでる……」

 途中、アラタの結界がBエリアを包み、至る所からドローンが出現する。

「俺の……仲間がさ、ここの人達を守る為に飛ばしてくれたんだ」

 本当は違うけど、ルナにはこう言った方が面倒臭くない。

「えっ。もしかしてその人、クロちゃんみたいにイレイノムを倒せたりするの!?」

「あぁ……俺より強いかも」

「……じゃあ、もうクロちゃんが無理して戦うことないんじゃ――」

「いや、俺達にしか出来ないことがあると思うから……まだまだ頑張ってみる。な、ラスタ」

「はい」

「…………そう。ねぇクロちゃん」

「ん?」

「本当にありがとうね。パパを連れて来てくれて…………」

「あぁ」

「これは……感謝の気持ちだから!」

「え、ッ⁉」

 ルナは突然、俺に顔を近づけて――。

 俺の左頬に――。

 唇を優しく当てた。

「は……ええぇぇ⁉」

「へへ、やっちゃった…………!」

 ルナは顔を赤くしながら、照れ笑いを浮かべて離れる。

 だが俺の頬にはまだ、ルナの柔らかい唇の感触が強く残っていた。

「クロム…………?」

「……………………」

「じゃ、じゃあ私……もう戻るね!それじゃッ!!」

 ルナはそそくさと、逃げるようにしてこの場を後にした。

「クロム……クロム…………?」

「……………………」

 キス⁉

 ルナが、俺にキスした⁉

 感謝の気持ちって言ったって、そんなことする奴じゃなかったじゃん!!

「おい、クロム!!」

「あっアラタ……!どうしよう、俺キスされちゃったよ!!」

「え……?」

「何をボケてるんだ阿呆!あれを見ろ!!」

 アラタの怒鳴り声で、反射的に指で示された方向を見た。


「ッ⁉」

 遠くの山の斜面が、まるで雪崩でも起きたかのように白く染まっていく。

 いや、違う。あれは雪なんかじゃない。

 木々も岩も、光も影も全てを消し去っている。

「イレイノム⁉」

「それも群れだ!下級が、あれだけ集まってやがる……!」

 アラタがデバイスを操作して、俺に画面を見せた。

「何だよこれ……⁉」

 ドローンカメラからの映像には、あまりにも大規模な群れを成して山を降りる、羊姿のイレイノムが映っていた。

 下級は、上級なしでは単独行動じゃないのか。

 それに同じ姿をしたイレイノムなんて、見たことない。

「――どんだけいるんだよ!」

「際限なく増え続けていて分からない!お前は今すぐ結界を張って、奴らを倒せ!!」

「こいつら全部か…………!」

「俺は奴らを蹴散らしつつ山へ向かう。あの山に、きっと奴らの発生源があるだろうからな」

「やるしかないな……!」

 俺は結界を張りつつ、物量で押し入られないように防衛。

 アラタは群れを掻い潜りながら発生源の捜索と破壊。

 全身全霊を懸けて、臨むしかない。

 俺とアラタも、それは分かり切っていた。

「「行くぞッ!!」」

 互いにバディへ合図を送り、2人のエルダーは身体を理気力の粒子へと変える。

 粒子は旋風となって俺達を包み込み、全てを俺達アンサラーの身体へ送り込む。

 奥底から漲る力、理気力に影響されて姿形が変わる衣服。

 2人の力が、1つになっていく――。

「ウオォォォォォぉォォォォッ!!」

 昂りを咆哮を張り上げ、発散する。

 共命理。

 アンサラーとエルダー、互いの命と理想を共有して限界を超える、イレイノムへの対抗策。

 この力があれば、多勢に無勢を覆せる気になれる。

 全て、守り通せる気になれる!

「……………………」

「……………………」

 風は止み、共命理が完了した。

 アラタは最初からコアから理気力を引き出し、デバイスへつぎ込んで操作。

 上空から、上級イレイノムと激闘を繰り広げた巨大ロボット、アイゼンを召喚して乗り込んだ。

「俺のドローンも撃退に加勢する。集落を頼んだぞ、クロム!」

 拡声器越しで俺にそう伝えた後、アイゼンはスラスターを噴かして山へと、轟音を伴って跳んで行く。

「俺達も行くか…………!」

 イレイノムが向かって来る方角へと、駆け走る。

 ここにいる人達の為だけじゃない。

 ルナ、おじさん、おばさん。

 ずっと離れ離れだった家族が、漸く会えたんだぞ。

 家族が仲良く一緒にいることが1番の幸福なんだ!

 たった一時の喜びで、あってたまるか――!!

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