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Seventh Øne  作者: 駿
33/42

繋がり ③

 車内でクロムの友人の父、優木レンさんの話を聞く。

「3年前、イレイノムが現れた時、私は単身赴任で遠方にいたんだ……気づいた時には、もう家族と連絡が取れなくなっていてな」

 レンさんの声はわずかに震えていた。

「それから、ずっと探し続けてきた。けれど……結局、今日まで何も掴めなかった」

「…………」

 クロムは息を呑んでいた。

 この人が3年間をどう過ごしてきたのか想像して、胸を痛めているのか。

 確かに、襲撃の初期から集落の移り変わりは激しく、電波塔等の通信施設はイレイノムに消されて遠距離の連絡は取れなくなってしまった。

 一個人の行方を知るのは、容易じゃない。

 不安と恐怖に苛まれた日々だったはずだ。

「でも、諦める訳にはいかない。だからこうして、旅を続けているんだ。また、家族と過ごしたいからね」

「…………ここで貴方に会えて良かったと、改めて思いましたよ」

「え?」

「ご家族は、生きています」

「ッ、本当か⁉じゃあ君は、ナツミやルナの居場所も……!」

「はい。俺達、彼女達のいる集落に向かっている最中だったんです」

「――こんな幸運に恵まれるなんて…………!」

 レンさんは目を丸くし、言葉も続かず、ただ身体を打ち震わせていた。

 愛する人達が生きていると知り、会える状況になった。

 まさに、3年の苦労が報われた瞬間だろう。

 勿論、生きているというのは、上級に襲われていなければの話だが――。

 それを言うのは、野暮か。

「クロム君、頼む!2人に会わせてくれ、この通りだッ!!」

「ちょ、頭上げてくださいよ!?連れて行くに決まってるじゃないですか!!」

 何が何でも会いたいと土下座までして頼み込もうとするレンさんを、クロムが止める。

 言葉にならない嗚咽がレンさんの喉を震わせていた。

 歓喜、ここに極まれりだな。

「……………………」

 いいことのはずだ。

 知り合ったばかりだが、この人が希望を見つけて泣く程に嬉しがっている。

 それでどうして、俺の心が刺されたように痛むんだ。


 ――遠い笑顔が脳裏を掠めてくる。


 羨ましいと、思っているのか。

 我ながら何とも惨めな考えだ。




「そうか、ご両親とカリンちゃんは…………」

「――はい」

「ごめん。嫌な質問をして……」

「いえ、大丈夫ですよ」

「しかし本当に立派だな君は、そんな状況になってもイレイノムから人を守ってるんだから。尊敬しちゃうよ」

「何かしないとって、そう思っただけです」

「小さい頃から、本当に変わったね」

「小さい頃……子供の時のクロムは、どのような子供だったのですか?」

「ラスタ~?何聞いてんだ~?」

「そうだね……甘えん坊で可愛い子だったなぁ」

「おじさんも言わなくていいから!」

「ルナと一緒にお絵描きをした時だったかな。消防車書けた!って言って、お父さんやお母さん、私やナツミ……果ては、外にいる通りすがりの人にまで見せびらかしていたよ」

「可愛いらしいですね」

「ふっ……そんなに褒めて貰いたかったのか?」

「止め止め!この話止めッ!!」

「はははは!!」

 なんて会話を挟みつつ、私を連れて走るクロム君の車は、真夜中になって停止する。

 クロム君の作る手料理をありがたく頂き、アラタ君が不思議な力で作ったというマウスウォッシュで口も清潔にし、後は寝るだけ。

「凄く美味しかったよ!まさか君に、食事の世話までして貰うことになるとは……」

「お口に合ってなによりです。ラスタも美味しかったか?パエリア」

「はい。クロムはいつも、私に知らない味を教えてくれますね」

 ラスタちゃんは、柔らかく微笑んでそう答える。

「はは……そうだな。ラスタには、色々楽しんで欲しいからさ」

 クロム君は少し照れたように頭を掻きながら、そう呟いた。

 妙に真っ直ぐなやり取りで、こちらが少し気恥ずかしくなる。

「…………」

「何か、言ってて恥ずかしくなって来た…………」

「御馳走さん。それじゃあな」

「アラタはマイテントで眠るそうなので、私も失礼します。ご馳走様でした」

「あぁ、お粗末様でした…………それじゃあ俺も、もう寝るよ。お休み」

「お休みなさい。私は、少し外に行って来ます」

「あぁ、行ってらっしゃい…………」

 その言葉を最後に、クロム君は横になった。

 疲れを溜め込んでいたのか、瞼を瞑った後、あっさりと寝静まる。

 ――さて、私はどうするか。

 このまま寝てしまうのもいいが、彼女と話をしてみたいな。

 私も、車から降りて外へ出た。


「一緒に見ても……いいかな?」

「……構いませんが」

 外で夜空を見詰めていたラスタちゃんに声を掛け、話を始めた。

「いい景色だよね。星が沢山あって」

「はい。そう、感じます……」

 彼女が見惚れているのも分かるぐらい、星は満天に輝いていた。

 漆黒の天幕に、途切れなく瞬く光の粒。

 見飽きていたはずの光景が、今では信じられない程、鮮烈に胸へ迫ってくる。

 途方もない捜索に明け暮れて、眺める余裕なんてなかったから、こうして落ち着いて見ることも久しい。

 ――綺麗だったんだな。

「1つ気になっているんだけど……君は、彼とどういう関係なの?」

「どういう関係、と言われましても。バディとしか……」

「仕事仲間って意味の?」

「……そう、ですね」

「そっか。いや、ごめんね!詮索するつもりはなくて…………ただ、クロム君にそういう強い繋がりがあって、嬉しく思ったんだ」

 星を仰ぎながら、私は小さく息をつく。

「彼は娘の親友だが、私は小さい頃の彼を見ている。だから彼にも、親心みたいなものを抱いちゃっているんだよね。決して、代わりにはなれないけど……」

「親心、ですか」

「クロム君はまだ若いし、心に大きな傷もある。けれど君のような存在が寄り添ってくれれば、きっと…………」

「……………………」

「クロム君のこと、よろしく頼むよ」

「…………貴方の娘さんにも、そう言って頼まれました」

「そうなの⁉へぇ……やっぱり親子だから、同じことを思うのかな」

 何だか、私の心にも繋がりを感じられた。

 どんなに経ってもクロム君のこと、想ってるんだろうな。

「あっ!クロム君に聞きそびれてたんだけど……ナツミ、私の妻やルナはどんな様子だった?」

「そうですね……貴方の奥様は交流がなかったので分かりませんが、彼女は――」

 こうして、ルナの近況を教えて貰いながら。

 星空の下で私とラスタちゃんは、会話に興じた。

「そうか……相変わらずだな、ルナは」

「――ところで、話は変わるのですが」

「うん」

「親は……子供と、どう接しているのですか?」

「えっ?そうだな……例えばその子がいいことをした時は、よしよしって頭を撫でてやる、とか。ちゃんと褒める、とかかな?分かりやすいのだと」

「成程。ありがとうございます」

「?」




 心地いい。

 程よくひんやりする柔らかな感触が、頭の下に敷かれていて。

 何かしなやかなものが、俺の頭を繰り返し擦っている。

 そのあまりに癒される感覚が、逆に俺を目覚めさせた。

「よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし……………………」

「……へっ?」

「あっ、おはようございます。クロム」

 目を開けると頭上に、俺の頭を撫で続けるラスタの姿があった。

「えっ、何……これ?」

「よしよしよしよしよしよしよしよし………………」

 ラスタが真顔で俺を膝枕して、よしよしと何度も呪文のように繰り返し呟いて頭を撫で回してる。

 ――なんで?

「クロムは、本当にいい子ですね」

「はぁ⁉」

「……凄くいい子――いえ、違いますね。他に類を見ない程のいい子です。表現が追いつきません……うーん、何かもっと適切な言い方が…………」

「いや、怖ぇって!!」

 理解不能な状況に、堪らず飛び起きる。

「あっはははははははははははは!!」

 この状況を傍から眺めていたおじさんが、腹を押さえて大笑いしていた。

「おじさん、ラスタになんか言いふらしたんですか⁉」

「あ、っは……!ふふ、ふふふ…………ふはははははははははッ!!」

 駄目だ。

 完全にツボに入っていて会話出来ない。

「レンが言っていました。貴方に親心に似たものを抱いている」

「え?」

「それで思ったんです。もしかしたら私も、貴方に対してその親心めいた感情を抱いているのではないかと」

「……はぁ」

「それで、こうして実践をしてみたのですが……」

「どうだったの?」

「何か違うなと、やってみて思いました」

「あっ、そう……」

 車のドアが開く。

 呆れた目つきで俺達を見詰めるアラタと、アクトリアが入って来た。

「朝っぱらから何やってんだ、お前ら」

「甘えん坊というのは、今も変わらないのですね」

「違う!誤解だッ!!」

「あっはははははははははははははははは!!」

 俺はどうにかこの場を収めて、Bエリアへと再出発を開始する。

 ――朝から、もう疲労感で一杯だ。



 けれど、俺は気づかなかった。

 このドタバタとしたやり取りが、どれ程幸福で微笑ましい一時であったか。

 Bエリアでの騒乱。

 そして、世界の命運を懸ける壮大な戦いが幕を開くことなど――。

 分かるはずもなかったのだから――。

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