繋がり ①
「終わったな、クロム」
同じく戦いを今し方終えたらしき、アラタとアクトリアがやって来る。
ラスタに借りていた肩から腕を下ろし、自力で立って2人と相対する。
アラタの顔に、脅威を打ち倒したことへの喜びはなかった。
どこか張り詰めた雰囲気を纏い、俺を睨んでいる。
「…………そっちも蹴散らしたのか?」
「当然だ」
「ありがとうな。俺達だけじゃあ、上手く行かなかったかもしれないし」
「…………あくまでもお前は、この道を進むんだな」
「え?」
「だとするなら…………」
「ッ!?」
「お前は、俺の敵だ」
気がつけば、俺の首筋にアラタが生成した刀の刃を当てられていた。
あまりに突然で、反応など出来なかった。
「クロム!」
「アラタ」
アクトリアが背後からアラタの腕を取って引き離し、ラスタが俺とアラタの間に入り、槍を構えた。
勝利の余韻が、一瞬の内に凍りついてしまう。
「アラタ。儀式が開始されるまで、アンサラー同士の対決は禁止されています」
「分かっている、今のはただの忠告だ…………どうせ、言ってないんだろ?ラスタ。俺達に待ち受けている未来のことを」
「……………………」
「おい、何なんだよ一体!?」
儀式?
アンサラー同士の対決?
未来?
全く話が見えない。
でも、俺に刃を向けたアラタの眼は――。
冷酷だった。
その気になれば、容赦なく俺の首を撥ね飛ばせてしまえるだろう。
この直感だけは確かなはずだ。
「…………まぁ、助けて貰った直後にするようなことじゃなかったな。悪い」
そう言ってアラタは持っていた刀を消し去る。
急に良識を見せて謝られても、困るんだけどな。
身体の緊張が解け、汗が背中を通る。
「いずれ分かることだ、ただ…………俺達は決して、仲間なんかじゃない。それだけは覚えておけ」
「……………………」
何でだよ。
俺の命を救ってくれたのに、イレイノムから皆を守る為に共闘したのに。
どうしてなんだ、アラタ。
結局、解せないまま俺達はEエリアに戻り、お互いに極限まで疲弊した身体を休ませる。
俺とラスタは車内で、アラタとアクトリアは生成した簡易住居で。
「はぁ……………………」
いくら横になっても、しんどさが消えない。
呼吸する度に肺が痛むし、全身が重くて今日はもう動けそうにない。
これは明日にも響くかもな。
共命理も万能という訳じゃないらしい、出し所はドグマ・バースト以上に考えないと。
あぁ。
今日の戦いを思い出して気分が高揚したり、アラタの真意を考え出したりで、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
アイツ、さっきは俺にあんなことしておきながら――。
皆に配っていた夕飯を俺達にもアクトリアを経由して渡してくれたんだから、分からないよな。
凄い有り難かったし、感謝してるけどさ。
「あの…………」
ラスタの声が、不意の車内の静寂を切り裂く。
「ん?」
「私を問い質したりは、しないんですか?」
「…………何を?」
「アラタが言っていたことです。未来のこと」
「……………………」
知ってないと、こんな口ぶりはしないよな。
でも――。
「う~ん。別にいいや」
「え?」
「ラスタの考えがあって隠してるんだろ?こんな疲れた時に変なこと聞かされても困るしな」
「…………よろしいのですか?」
「あぁ」
もう焦ったりなんかしない。
ラスタは俺と一緒に戦ってくれる、それだけ分かっていれば十分に安心出来る。
「ラスタの好きなタイミングで、教えてくれればいいからさ」
「…………はい」
だが――。
俺が眠りに落ちるまで、アラタの未来という言葉だけが、頭の奥でいつまでも残響を響かせていた。
簡易住居内のテーブルの上で、偵察用小型ドローンで密かに撮影していた、クロムと上級イレイノムの戦闘記録――。
であるはずの映像を、端末から凝視していた。
「何故だ…………」
クロムの姿が映っていない。
端から見れば、イレイノムが独りでに暴れ、消滅したようにしか見えない。
解像度を高めて、漸くぼんやりとした輪郭が見える程度だ。
透明人間になっている訳じゃない。
あの時奴の戦いを見ていたが、その時はしっかりと視認出来ていた。
奴の姿も、黒い理気力による攻撃も、この目ではっきり。
だが記録ではこうだ。
「どうなっている……………………」
奴は、何を理想の世界だと誓ったんだ。
「明日は行動を共にし、探ってみるのはいかがでしょう?直接聞き出すのは、ラスタに止められるでしょうから」
「………………」
隣に座っているアクトリアが、そう提言する。
行動を共に、か。
「明日はクロムがこれまで張っていた結界を、アラタの結界で上書きする。そういう計画でしたね」
「世定を果たせていない結界は、脆弱だからな」
「クロム達もおそらく、そうお考えになっているはずです」
「クロムと俺による二重の結界を張る、という名目で付いていくってことか?」
「はい」
「いや、しかし…………」
「何か問題でも?」
「…………………………」
「協同するには好都合ではありませんか」
「~~~~~~~~~~ッ!!」
翌日。
「いやぁ…………まさか、今日も一緒になるなんて思わなかったな」
「我々の目的は同じですから。共に参りましょう」
「うん、助かるよ。ありがとうな…………アラタ」
「……………………」
「アラタ、そんな奥にいて大丈夫か?荷物積んでて居心地悪いと思うけど?」
「いいから、前見て運転しろよ」
「お、おう…………」
「申し訳ありません。アラタは昨日冷たい態度を取ったにも関わらず、一緒に行動することになって、それを気まずく感じているだけなんです」
「言うなよ、態々……!!」
何もクロム達の車に乗ることないじゃないか。
「やっぱり降りる。車止めてくれ」
「いやいや、いいってそんな……!」
「折角ご厚意で乗せてくれたのですから、ちゃんと預かりませんと」
「……………………」
Cエリアに到着。
マサヒコさんに、結界をより強くする為にやって来たことを説明する。
「あれからイレイノムは、やって来ませんでしたか?」
「皆元気に暮らしておるよ。彼女もな」
「あっ、クロムさん!ラスタさんもっ!!」
「アサヒさん……!」
アサヒさんは俺達を見つけると、笑顔で手を振りながら近づいて来た。
これが、彼女の素の姿なのか。
「あれ、あちらの方々は?」
「俺と同じく、イレイノムを倒す力を持っている。アラタとアクトリアだ」
「へぇ、クロムさん達と同じ……よろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします」
「お、おう…………」
アラタは、アサヒさんの元気な挨拶に驚いていた。
「ここでの生活は、上手くやれてる?」
「はい。収穫した野菜を洗ったり、沢山の家事で……それなりに忙しいですけど。頑張ってます」
「あんまり、無理とかしないでね」
「大丈夫ですよ!皆さん、優しい人達ですから。体調とか気遣ってくれますし」
「そっか」
ここに連れて来て良かったと、しみじみ思う。
「おい、結界を張るんじゃなかったのか?」
「あぁっと、じゃあ話は後で」
「はい、お願いします!」
アラタに急き立てられ、アサヒさんとの会話を後にしてCエリアの出入り口にへと移動する。
「全く、知り合いと話をしに来た訳じゃないだろうに」
「悪い悪い」
「……彼女はお前の知り合いか?随分仲良しに見えたが」
「いや、ここに連れて来たってだけさ」
色々あるにはあるが。
まぁ、全部を話すこともないな。
「……にしても、いい所だな。ここは」
「お、分かる?」
「あぁ……住んでいる人達から、思い詰めたものを感じない。お前が結界を張ったからか」
「いや、元からさ。最初に訪れた時から皆、その日その時を一生懸命生きてた」
「強いんだな」
「うん」
アサヒさんも、強くなった。
シュウジの想いとCエリアでの日々が、彼女を変えたのだろう。
皆が変わらない毎日に努め、笑顔でいられる集落。
いつか全ての集落が、そうなってくれるといいな。
「さっ、この場所でいいだろう」
出入り口に着いた。
「俺は内側に張るから、クロムは外側で頼む」
「分かった」
別にどっちでもいい気はするが。
アラタの言う通り外側、前に張った場所よりも更に広げて結界を張ることにした。
コアに触れて理気力を引き出し、生成した槍に込めて穂先を地面へ突き刺す。
穂先から流れ出る炎状の理気力はより猛々しく広がり、Cエリアを囲う。
アラタもドーム型の結界を張り、二重結界は完了した。
結界内で警備ドローンも多数出現する。
「ちゃんと発動する……内側だからか…………?」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
「しかし……世定してから、ドグマ・バースト発動してもそれ程疲れなくなったな」
「世定を行ったことで、効率的な使い方が身についたからでしょう。今の状態なら1日につき、3回は使用出来ると思います。ねぇ、ラスタ?」
「え?は、はい……」
「後は、コイツらだな…………」
アラタは腕の端末を弄る。
すると、アイゼンを下半身程度に小さくしたような可愛らしいロボットが数十体発生し、共に生み出された防災グッズを持ってCエリアへと独りでに歩き出す。
「うわっ、何だぁ!?」
「ロボット⁉」
「可愛い……!」
突然知らない機械が沢山現れたことに、住民達は騒然となってしまう。
堪らず、マサヒコさんが俺達の所へやって来た。
「おいおい、何なんだありゃあ一体⁉」
「お手伝いロボットです。人間に危害は加えませんから、安心してください」
「アイくんデス。ナニトゾ、ヨロシクオネガイモウシアゲマス」
「あっ、これはご丁寧にどうも……」
1体のアイくんがマサヒコさんに挨拶を交わしている。
Eエリアでも作り出していたが、説明した後の方がいいと思うんだけどなぁ。
まぁ俺は作り出せないから、何も言えないけど。
「よし、次に行くぞ」
「あぁ」
結界を張る次の場所へと向かうべく、俺達は車に乗り込む。
全員が、見送りに来てくれた。
「もう行っちゃうんですね……」
「他にも結界を張らなきゃいけないからさ」
「お互い、生きていましょうね!」
「うん。最後の最後まで……精一杯!」
アサヒさんとドア越しで握手を交わし、俺達4人はCエリアを後にした。
「この辺りだったかな……」
まだBエリアの道中だが、車を止める。
「もう着いたのか?」
「それらしき場所は見えませんが……?」
「いや、結界を張っていた旅館があってさ。そこも張り替えたくて」
「あぁ……温泉の」
「温泉?」
「まぁ、どこだろうと構わないが……」
俺達は車を降りて、記憶を頼りに木々の中を歩く。
あの時は夜で見づらかったけど、多分こういう道筋であってるはず――。
「おぉ、クロム君!」
ビンゴ。
俺の記憶通り泉旅館に辿り着き、玄関の掃除をしていたコウゾウさんと再会する。
前と変わらず玄関先の暖簾は揺れていて、コウゾウさんも変わらず晴れやかな笑顔を浮かべていた。
コウゾウさんも無事で何よりだ。
「お仲間まで連れて、また温泉に入るかい?」
「いえ。今日は結界をまた張りたくて」
「結界?もう十分守ってくれとるけどな。昨日イレイノムが来たが、それに触れた瞬間倒れて消えたぞ」
「弱いイレイノムで良かったな……」
「より強力な結界に替えたくて、それで伺ったんです」
「おぉ、そうか。それは是非とも頼むよ!」
「はい!!アラタもいいか?」
「あぁ」
「いやぁ、ありがとうな。こうして結界を張ってくれるだけじゃなく…………」
「コウゾウサマ。コシツノソウジ、カンリョウイタシマシタ」
「エンカイジョウノソウジモ、カンリョウイタシマシタ」
「便利なお手伝いさんまで作ってくれてよ。ありがとうな、兄ちゃん!」
「いえ……充電とかは必要ないので、存分に使ってやってください」
「おぉ、そうかい。よし、じゃあお前達!一緒に温泉の清掃を手伝ってくれ!!」
「「ガッテンショウチ」」
「君達、もう行くんだろ?次来る時は、温泉に入っていってくれよ」
「はい、必ず」
「まぁ……行けたら、行きます」
手を振るコウゾウさんに見送られながら、俺達は旅館を出た。
車の方へ向かいながら俺は、遠くなりつつある旅館を見る。
泉旅館は昼の光を浴び、木々の間で静かに堂々と佇んでいた。
「温泉、入りたかったです…………」
「また来れるよ」
落ち着いた顔ながら分かりやすく肩を落とすラスタを励ましながら、車へ戻った。




