銀灰の力戦 ③
ラスタが笑顔になれるくらい美味しいものを、作ってやらないと。
具に色んな物を入れれば、多様な味を楽しめられるおにぎりを、作ることに決める。
米と水を入れたポリ袋を3つ、水を半分程入れた鍋に入れてカセットコンロを点火。
沸騰させ、ある程度加熱したら、今度は火を止めてしばらく蒸らす。
「こっからだ…………」
衛生面に配慮して、両手に袋を被せる。
出来上がったご飯を鍋から取り出し、スプーンで中のご飯、そして中に入れる具を手にのせて形を整える。
シンプルな塩を始め、保存食であるツナや鮭、梅干し、塩昆布、贅沢に牛丼まで、様々な具を入れたおにぎりを作り上げる。
「あの、私も作って…………いいですか?」
「え?」
ラスタが、不安げな顔を浮かべながら協力を申し出てくれた。
前回の大失敗が気にしているのだろうが――。
「あぁ、一緒にやろう」
俺がいるし、滅多なことは起こらないだろう。
何より、今の俺はラスタと共に何かをする時間を欲していた。
ラスタは俺の隣へ立ち、俺と同じように袋を手に被せ、そこに米と具を乗せておにぎりを形作る。
「……………………」
真剣におにぎりを作るその仕草は、とても新鮮で――。
愛おしく思った。
「どうですか?」
俺の作る様を見ていたからか、ラスタのおにぎりは初めて作ったにも関わらず、完璧な三角形だった。
「凄いな!天性の才能持ってるんじゃないか!?」
「まぁ、エルダーですから」
天性の才能。
その言葉で調子付いたラスタは、次々おにぎりを作っていく。
様々な形があると伝えれば、その通りに完成させ――。
果てには――。
「ま、まだ盛るのか!?」
「最高のおにぎりをご覧に入れましょう」
そう言って超特大のおにぎりを作る始末。
「沢山の米の中に沢山の具材を閉じ込めた、これこそ最高のおにぎりです」
「……………………」
バラバラな具をごちゃごちゃに詰め込んだ爆弾おにぎり。
凄い、カオスな味になってそうだ。
「頂きます!」
「頂きます」
皿に並んだ多種多様なおにぎり。
俺達は1つ1つ手に取って口に運んだ。
「うん…………美味しい!」
中身はツナ。
マヨネーズが入ってなくとも、相性は抜群だ。
「ッ!」
「ラスタは、それ何だった?」
「牛丼、です…………」
「おぉ!当たりじゃん!!」
「凄く、美味しいです…………!!」
「だろうなぁ」
ラスタは目を輝かせながら、噛み締めるように頬張る。
「さて、次は…………」
「クロム」
「ん?」
「…………意固地になって、ごめんなさい」
「…………俺こそごめん。焦ったばかりに、きつく当たっちゃって」
言葉のあと、しばらく風の音だけが耳に残る。
それは、互いの胸に引っ掛かっていた鬱屈を、風が運んでいくようだった。
「アクトリアに聞いたんですよね。世定の方法」
「あぁ。コア、に自分にとっての理想の世界を誓願することだって聞いたけど……合ってるよな?」
「…………はい、間違いありません。おにぎりを食べ終わったら、早速世定を行うのですか?」
「しても、いいのか?」
「アンサラーの志向に合わせるべきだと、思い直したんです」
「そうか…………でも悪いけど、まだ考えつかないんだ。暫く、考えるのに時間を使うよ」
「…………分かりました、待ちます。貴方の答えが出るまで」
「ありがとう。さぁ、冷めない内に食べよう」
「はい」
ラスタが握った俵形のおにぎりを手に取る。
そのまま一口、口に運ぶと――。
「…………フッ」
噛み締める度に、ふんわりとした白米の甘さと、具材の旨みがじんわりと広がる。
ほっとする味だ。
「……美味しいよ、ラスタ」
「ありがとうございます。クロムのも、美味しいです」
彼女はどこか照れたように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
多分、俺も同じ顔をしている――。
おにぎりを食べ終えた俺たちは、道具を片付けた後、車内でゆったりと過ごしていた。
Eエリアに戻る際、先の戦闘で起きた俺の不調について、アクトリアは――。
「力の酷使が原因ではないでしょうか?」
と、言っていた。
瀕死の重傷を負ったあの戦いの後、自動的に治癒の力が発動した。
だが、その状態から戦闘用の力へとスムーズに切り替えることができず、結果として力の不安定を引き起こしたらしい。
「今日は一日、何もせずに安静に過ごすことをお勧めします」
そう助言され、俺は素直に従った。
何もしないというのはどうにも歯痒いが、この状態で無理に動いても、出しゃばって終わるだけだろう。
だから今は身体を休めながら、思考に時間を使おう。
理想の世界に、ついて。
「………………………………」
これは誰の意見も聞かず、俺のみで考えないと意味がない。
俺にとって、本当に良い世界とは何か。
勿論、誰も死ぬことがない、というのは心からの願いだ。
だけど人が決して死なない世界、というのは何か違う気がする。
死がないことと、生きていることは、同じじゃない。
それを否定してしまったら、きっと今を生きてる人達の姿も、否定してしまう。
じゃあ、何なんだ。
俺が求めているものは――。
「お兄ちゃん!」
「クロム!」
「クロム…………!」
「……………………」
違う。
これは、世界とは関係ない俺個人の願望だ。
だけど。
もしも、もう1度会えるのなら。
それだけで、どれ程嬉しいだろうか――。
「ふぁぁぁ……………………」
欠伸が出る。
あの爆弾おにぎりを食べて腹一杯になったからか、眠気が来る。
「お休みになりますか?」
ラスタが小さく問いかける。
彼女の声は、今の空気に溶けていくように優しく感じた。
「あぁ、ちょっとだけ寝るよ」
シートに深く背を預け、目を瞑る。
「夕方ぐらいまで、眠っちゃおうかな…………」
「起きたら、夕飯を作りましょう。また一緒に」
「そうだな…………」
意識が、深い暗闇へ落ちていく――。




