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Seventh Øne  作者: 駿
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寄す処 ⑦

「どこまでッ!人にぃッ!迷惑をッ!掛けるつもりだッ――このッ!クズがぁッ!!」

 男は叫びながら、崩れ落ちたミナトの頭を、何度も何度も打ち据えた。

 既に息絶え、動かぬミナトの身体が、乾いた音を立てて跳ねる。

「死ねッ!死ねぇッ!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

「止めてください……もう――」

 ミナトは、もう死んでいるんだ。

 その上で何度も執拗に死者を甚振り、死ねと何度も吐き捨てる。

 これじゃあどっちが加害者か、分からないじゃないか。

「ッ⁉」

「もう、止めてください…………」

 ラスタの伸ばした片手が、男の振り下ろす腕を押さえた。

「邪魔するなッ!! こいつは……ッ、こいつは俺の娘をッ!!」

「分かっています……それでも、もう充分です。ミナトさんは死んでいます」

「なら尚更だろうがァッ!! こんな奴、何度でも、何度でも潰してやらなきゃ……気が済まねぇんだよッ!!」

「そうしてしまえばあなたは、あなたの言うクズになってしまうのではありませんか?」

「ッ!」

「彼の過去も、罪も、罰も…………これで、全部終わったと……私はそう思います」

「………………クソォッ!!」

 コンクリ片は地面に転がり、ただの瓦礫に戻った。

 残されたのは、動かぬ少年と、地面に広がる黒い染みだけ――。

「………………o…………o――」

「――え?」

「……ooooOOOOOOOOO…………」

 この鳴き声は、イレイノムの発する音。

 どこから――。

「……あ、あぁぁぁぁぁぁ…………!」

「ッ⁉」

 ミナトが剣に引っ張られて、起き上がった。

 いや、剣が死んでいるミナトの身体を起こしたのか。

 ミナトの全身が、剣を握る手元から白化し始めた。

 皮膚が、顔が、髪が、目が。

 ミナトを形作っていたものが全て白に呑まれ、イレイノムそのものに変わっていく――。

「ッ⁉」

 ミナトが消えた――。

 例の高速移動!

「ッ、逃げ――!!」

 男に避難を呼び掛ける時間すら、なかった。

 顔の半分から上をすれ違いざまに斬り飛ばされ、断末魔も上げることなく倒れ、消失してしまった。

 ミナトの身体は消える彼に目も暮れなかった、ただ立ち止まって次の標的を探して辺りを見回している。

「ミナト……!」

 いや、もうミナトじゃない。

 ミナトの意志が完全に消え去り、抱いていたものも無に帰し、人間を消し去るだけの傀儡に成り下がってしまった。

「ッ!」

 ミナトだったそれは、ふらりと顔をこちらへ向けた。

「……クロム!」

 倒れたままじゃ、やられるだけだ。

 戦うべく、身体を起こして落ちた槍を拾う。

 左腕は未だ白化で動かせない。

 いや白化している状態だからこそ、こうして立ち向かうことが出来ている。

 この現象が治まってしまえば受けた傷の痛みが襲って、俺はもう戦えないだろう。

 生きていられるかどうかすら、これじゃあ――。

「………………」

 だから、このイレイノムは何としても倒さなくちゃいけない。

 俺は槍を片手で構える。

 倒せる方法は1つだけある――。

 それに俺の全てを賭ける。

「来いよ…………!ブッ倒してや――」

 イレイノムがまた消えた。

 移動先は俺の方向じゃない、ラスタでもない。

 どこへ――。

「ッ、不味いッ!!」

 俺達を狙わないのなら、残る標的は逃げたDエリアの人達しかいないじゃないか!


 ――遠くで、悲鳴が上がった。


「やめろぉぉぉぉぉぉッ!!」

 悲鳴の元へ走る。

「クゥッ…………!!」

 だが、俺の足取りは走るには程遠いものだった。

 白化した箇所が重い、足も思うように前へ出ない。

 悲鳴は続いている、俺がこうしてのろのろ動いている間に命がどんどん消えていっている。

 何をやっているんだ、俺は。

 早く、早く、早く――!!

「クロム。もう無理です、間に合いません…………!撤退を――」

「うるさいッ!!」

 逃げるだと。

 人を守る為にアンサラーになったと言ったはずだ、見殺しになんて出来るか。

 俺はもう、あの時とは違う。

 1人でも多くの人を――。

「ッ!」

 天高く刎ねた人の腕が、走る俺の横に落ちる――。

「ッ…………ウオォォォォォォォォォッ!!」



「ハァ……ハァ…………ハァ…………!」

 駆けつけた時にはもう、悲鳴は止んでいた。

「ハァッ、ハァッ、ハァ……ッ!!」

 俺の前に映るのは、イレイノムだけ。

 人影はない。

 血も、肉も、残されていない。

 辺り一面に、惨劇があったと物語る白い斬痕だけ。

 それが1人残さずイレイノムに消されたという、揺るがない現実となって、俺を襲う。

「…………ッ!!」

 視界が滲む。

 ――守れなかった。

 また、守れなかった。

「OOOOOOooooooooooo…………」

「………………」

 ドグマ・コアに手を触れ、理気力を穂に集中して纏わせ、逆手に持ち替えて振り上げる。

 白の刃が迫る――。

「ッ!!」

 到底反応出来ない高速の突きが、俺の腹部を貫いた。

 突きの勢いはそのまま俺の身体を押し出し、廃墟ビルの壁面に叩きつけた。

 コンクリートの外壁が砕け、背中から深くめり込む。

「………………………………」

 強い一撃だ。

 後から途轍もない苦痛が襲うだろう。

 けど――。


 俺はこんな攻撃を喰らっても、生きていられたんだ!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 槍を振り下ろし、理気力を一点集中させていた穂先で剣を打ち砕く。

 散らばった破片は黒く染まって霧散し、本体を失ったミナトの身体も溶けて地面に白い痕を残した。

「……………………」

 最初から、こうすれば良かった。

 この手段を初めから取っていれば、皆も消えず、ミナトもこんな姿にならずに済んだ。

 高速移動を見た時点で思いついていたことだったのに、それを選ばなかった。

 ――俺が、選ばなかった。

 自分の中に潜んでいた臆病が、見て見ぬ振りをさせた。

 無意識に、怖がって、躊躇って、そして――。

 ミナト君。

 ここにいた、俺が守りたかったたくさんの命。

 俺の貫きたかった守るという誓い。

 全部、全部……消えたんだ。

「ご無事ですか、クロム…………」

 ラスタがゆっくりと、俺の傍に歩み寄って来る。

 その歩みも、傷から流れる血と疲労に引きずられ、痛々しかった。

 白化が治って、出血が始まったんだ。

 じゃあ、もうじき俺も――。

「ッ、その傷…………!」

「生きていられるかな、俺…………」

「………………」

「そうか………………」

 口に出ずとも、表情で察しがつく。

 白化が解けきった時、俺はもう傷の激痛に耐え切れないかもしれない。

「クロム、生きてください」

 ラスタが、血に濡れた腕で俺の手をそっと握ってくれた。

「………………」

「このまま、終わりたくなんてありません…………」

 その声は、震えていた。

 けれど、確かな熱があった。

「――そうだな、生きないとな…………」

 俺はアンサラーなのだから。

 生きて、生き延びて――。

 絶え間ない苦痛、守れなかった後悔、自分の弱さという罪、全てを背負って自分の出来ることをどこまでもやり続ける。

 それが、罰っていうものかもしれないな――。

 ミナト君。


 白化がゆっくりと解けていく。

 同時に、灼けるような痛みが全身から一気に走った。




 クロムさんへ


 まず、謝らせてください。

 あの時。

 最初にあなたと会った時、俺は食料を寄越せって脅しましたね。

 武器を向けて、力ずくで言うことを聞かせようとした。

 申し訳ありませんでした。

 怖かったんです。

 飢えて、震えて、未来が見えなくて。

 そんな時、あなた達の乗る車を見て――。

 生きていることに余裕がある人に見えた。

 だから、奪ってでも生きなきゃって思ってしまった。

 どうせ俺は罪深い存在なのだから、1つや2つ重ねても今更変わらないと、開き直ってしまった。

 でも、あなたは俺にパンと水をくれました。

 暖かい言葉をくれました。

 仕事を任せてくれました。

 本当に、ありがとうございます。

 俺みたいな奴でも繋がりを持てて嬉しかったです。

 アンサラーの活動、これからも頑張ってください。

 強くて優しいクロムさんなら、もっともっと人の笑顔を守れると信じています。

 こんなどうしようもない俺がクロムさんに救われたのだから。

 あなたに出会えたことが生涯の自慢です。

 さようなら。


 霧島ミナト。

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