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Seventh Øne  作者: 駿
14/42

予期せぬ抑留 ②

「う、んん…………」

「起きたのですね、クロム」

 目を覚ますと、向かいのシートにラスタが座っていた。

 すっかり夜になって暗くなった車内でも、僅かな月光が窓から差し込んで、彼女の姿を映し出す。

 身体に力が宿っている、まだ万全じゃないが十分に動ける。

 俺は身体を起こした。

「足の方は大丈夫か、ラスタ」

「はい。この通り――」

「ッ!?ちょちょっ、態々見せなくてもいいって!!」

「そうですか」

 全く、危なっかしい奴。

 そういえば、眠る前に何かあったような――。

 夕飯だ、ラスタが作るって言っていた。

「そういえば、夕飯はもう作ったのか?」

「え、えぇ…………作りはしました」

「おぉ。凄いな!」

 なんだ、無事に作れたんだな。

 どうなることかと思ったが、良かった。

「上手く作れたか?」

「あの、それが…………えぇと、料理を作ったと言えば作ったということになるのですが……………………」

「?」

 何か、珍しく歯切れが悪いな。

 視線が俺から外れて、あちこち泳いでるし。

「……………………」

「えっ、ちょっと…………!?」

「……………………」

「おい、何だよ急に!?」

 ラスタが突然、俺の袖を引っ張り、何も言わず車の外へと俺を連れ出した。

 そしてぐいぐいと、調理の痕跡が見える、置いたランタンに照らされたテーブルの前へ。

「開けてみてください」

「わ、分かった…………!」

 ラスタはあらぬ方に目をやりながら、俺に鍋蓋の御開帳を勧めてきた。

「!」

 もしかして、サプライズのつもりか。

 成る程な。

 初めて作った料理なのだから、驚いてみせろってことか。

 良し、乗ってやろうじゃないか。

「さぁて。ラスタの初料理、一体どれ程のものか…………見せて貰おうじゃないの」

「……………………」

「どれど――」

 鍋蓋を取り、中身を見た。

「…………れ?」

 これは、一体。

 鍋の中には、潰した野菜の数々がこれでもいう程に、詰め込まれていた。

 確認出来るのは、ジャガイモとニンジンとさつまいも、玉ねぎと、ゴボウか。

 ハッシュドポテトの内に入るのかな、これ。

 鍋の内面には、悪戦苦闘したと見れる焦げが全体的に付いていた。

「……………………」

 用意されているスプーンで鍋から料理を1匙程掬い、口に含んで咀嚼する。

「ウッ……!!」

 尋常ではない塩っ気!

 ラスタ、どんだけ塩を入れたんだ。

 その上ゴボウのえぐみが加わっている。

 そりゃそうだ。

 ラスタはアク抜きなんて知らないし、調味料をどれだけ入れればいいのかも知らないんだから。

「……………………」

 咀嚼を続ける。

 野菜は柔らかくなったのと硬いままなのが混ざり合っていた。

 それに、このジャリジャリとした食感。

 もしかして水洗い、してないのか。

 あっ、ジャガイモの皮もある。

 …………これは、色々と不味いぞ。

「なぁ、ラスタ…………」

「……………………」

「ラスタ。こっち向いてくれないか?」

「……!」

「こら、逃げようとするんじゃないッ!」

 逃亡しようとするラスタを、腕を掴んで喰い止める。

 それでも、ラスタは俺に顔を合わそうとしなかった。

「すみません。料理について欠片も理解していなかったのにも関わらず、出過ぎた真似をしてしまって…………」

「……………………」

「これからは戦闘のみに専念し――」

「ラスタ」

「ッ……あの、何を…………?」

 俺は、ラスタの頭を撫でた。

 ぐしゃぐしゃと、髪型が崩れる程に。

 無性に、そうしたくなってしまったから。

「ありがとう、ラスタ」

「え?」

「料理を作ってくれてさ」

「しかし、あれでは…………」

「大丈夫!まだなんとかなる…………多分。それよりも俺は、疲れていた俺を気遣って、調理を代わってくれたお前の心が嬉しいんだ」

「……………………」

 ラスタの目が、やっと俺の方を向いてくれた。

「料理は、これから好きに覚えればいいんだしさ。楽しくやっていこう、な?」

 そう言って俺はラスタと共に、テーブルへと戻って鍋と再び対峙する。

 どうにかして、これを食える物に改良しないと。

 取り敢えず水を入れて茹でるか。

「…………私がここにいるのは、あくまで使命のためです。楽しくやるなど、許されることではありません」

「…………そうか」

「ですが、ありがとうございます。あなたの感謝の言葉に、感謝します」

「感謝に感謝…………か。じゃあ俺は、ラスタの感謝の感謝に感謝しようかな?」

「なら私は、感謝の感謝の感謝に感謝します」

「だったら感謝の感謝の感謝の感謝に感……って、ははは!終わりが見えねぇって!!」

「ふふ…………そうですね」

 ラスタが、食事の時とはまた違う、感情が漏れ出たような笑顔を浮かべた。

 普段クールだけど、やっぱりラスタは笑顔がよく似合う。

「……………………」

 そりゃあ、俺達はイレイノムと戦うために出来た関係だけど。

 お前には――。

 戦いだけじゃない色んな経験をして、この世界を楽しんで欲しいんだ。

 それを隣で見れたら、俺も楽しいって思えるから。

「さぁ、手伝ってくれよ。ラスタ!」

「はい」

 俺はラスタに手伝って貰いながら、どうにか食べられる物に仕上げ、2人で完食する。

 食中毒の恐れなどの細かい諸々の問題は、胃でカバーだ。

 アンサラーになって、俺の胃も強くなっているはず。

 っていうか、そうであってくれマジで。



 無事、大量の野菜を完食した俺達は、明日に備えるべく車へ戻り、シートで横になる。

「……………………」

 しかし、さっきまで寝ていたせいかイマイチ寝つけない。

 今日ほぼ1日、足止めを喰らってしまった分、明日で取り返したいのにな。

「……………………はぁ」

 駄目だ眠れない。

 一旦、外の空気を吸いに行こう。

 シートから起き上がり、車の外へと出た。

「起きていたのですか?」

「眠れなくてさ」

 車の直ぐ近くで、ラスタが見張りをしてくれていた。

 アンサラーの眠りを守るのもエルダーの務めだと言って、最初の時からずっと眠ることなく、ラスタはやり続けている。

 俺は車に背中を預けながら、外の空気を吸い、外の冷たい風を肌で感じた。

「大丈夫か、疲れてないか?」

「はい。問題ありません」

「……………………」

 ラスタが寝た所なんて、俺は一度も見ていない。

 必要ないと本人は言っているし、疲れた様子も実際ない。

 でも、一晩中の見張りをさせていることには、やはり多少の罪悪感が湧く。

 せめてラスタに、見張りの最中でもリラックス出来るようなことを教えてやれたら、いいんだけど――。

「ッ!」

 そうだ。

「なぁ、ラスタ」

「何でしょうか?」

「綺麗だな、空」

「空…………」

 俺は上空を指差し、ラスタに星空を眺めさせた。

 煌びやかに光る無数の星々、ラスタの目にさぞ絶景として映るだろう――。

「……………………」

 あれ。

 あんま、ピンと来てなさそう。

 もしかして、何かを見て美しいとか綺麗だとか感じたことがないのか。

「そう、ですね。綺麗…………だと思います……………………」

 気まで遣わせちゃってるよ。

「いや、悪い。星を見て気が紛れたらいいなぁって思って、無理に共感しなくてもいいから」

「…………そうでしたか。しかし、不思議な気持ちにはなりました」

「不思議な気持ち?」

「はい。言うなれば…………不定形な何かが、胸の中を満たしていくような」

「充足感、って奴?」

「恐らくは、その感情かと」

「ふ~ん…………」

 星を見て充足感を覚えるって、珍しい感想だな。

 まぁ何にせよ、彼女の気分転換にはなったようで良かった。

「じゃあ俺、寝に戻るから。お休み」

 そう言って車内へ戻ろうとした時――。

「ッ!」

 視界の上端で、何かが高速で移動した。


 空で走った、まさか。


 俺は再び空を見上げる。

「クロム?」

「ははっ、凄ぇ…………!」

 見えた物体は既に消失していたが、次は直ぐに来た。

 秒速数十kmの宇宙のチリが、空気との摩擦で一瞬の光輝を魅せる、流星。

 それが先程に続いて2つ、間違いない。

「見てみ、ラスタ!流星群だ!!」

「流星群?」

「そう!あっ、来た!!」

「…………星が、動いた?」

 流石のラスタも、流れ星には少しばかりの驚きを見せていた。

「何座の流星群かは分からないが、まさか流れ星を見られるなんて…………!ラスタ、願い事ごとを言ってみたらどうだ?」

「星に、ですか…………?」

「あぁ。流れ星が出ている間に願い事を3回言うと、叶うんだ」

「願いが、叶う?それは一体どういうことですか?」

「あっ、いや…………誰が言い始めたか知らないけど、昔からそう伝わっている迷信があるんだよ」

「成程。何かしら稀有な現象に、特別な意味合いを付ける。人類の持つ性質ですね」

「達観してるな」

「クロムは、何か願いたいことがありますか?」

「そりゃあるけどさ…………」

 沢山ありすぎて何を叶えて貰えればいいか、分かんないな。

「唱えてみるのはいかがでしょう?」

「絶対言い切れないし。お星様も、欲張りな願いは叶えてくれないって」

 本当は、虚しくなるだけだから、言いたくないんだ。

 どんなに願ったって現実が変わらないのは、よく分かっているから。

「…………」

 自分では馬鹿馬鹿しく思ってる迷信を、人に勧めるなんて、嫌な奴だな俺。

 さて、珍しいものも見られたし、そろそろ本当に寝ないとな。

 眠気もやって来たことだし。

「それじゃあ、お休み」

「はい。お休みなさい」

 俺は車に戻り、もう一度シートで横になった。




「……………………」

 私は、星を見ている。

 夜空に映る無数の星と、一瞬の軌跡を描く流星を。

 無根拠の迷信が語り継がれる程、人類が見続けた空を、私も見ていた。

「人と同じ行動を、私は取っている…………」

 人を助け、人と言葉を交わし、食物を摂取し、興味本位で星を見上げる。

 人でない私が、気づかぬ間に人類と同様の生命活動を送っていた。

 愚かなことであるのは理解している、同化したとて本懐を遂げるのに何の意味などなく、むしろ悪影響すらあり得る。

 しかし――。


「私との間に、絆はありますか?」

「えっ、そりゃあるだろ」


「……………………」

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