滅びの使者 再現 ②
ノヴァが接近戦を仕掛けながら、俺は上空から遠距離の攻撃を放ち続け……確実にフメイを追い詰めていく。
「オォォォォォッ!!」
ノヴァは炎を纏わせた剣を振るい、フメイの操る残り少ない触手を片っ端から斬り落としながら奴に迫り……奴の胴に焼きつく一太刀を入れ、地面に倒れ込ませた。
「ッ!」
今だ!
「この、雑魚共がァァ…………!」
フメイは尚も、しぶとく執念で立ち上がってくる。
俺は、そんな奴の死角から急降下で接近し——。
「ッ⁉グハァッ……!!」
インパルスシューターを纏った右足を、背中に叩き込み……事前にチャージしていたエネルギーを放出する。
フメイの身体は、足底から発生した激烈な爆撃に圧されて宙を舞いながら吹き飛び、石の擁壁に打ちつけられた。
崩壊する壁と共に、地面に倒れるフメイ。
内部の理気力に阻まれ、内側から爆発を生じさせることは出来なかったが——。
「クッ…………!」
効果は十分。
奴の身体からエルダーが離れ、フメイの共命理を解除することに成功した。
これで奴の脅威は完全に取り除いた。
後はエルダー共々、逃がさず葬り去るのみだ。
「お願いだ……!僕を殺してくれッ!!殺して……フメイを倒してくれ…………!!」
容赦はしない。
多くの人生を狂わせた奴の罪を今、ここで俺が晴らす!
「止めを刺してやる……!」
俺は2本の剣を抜刀。
スラスターを全開にし、奴らに向かって突撃を掛けた。
その直後——。
「アラタ!!」
「危ないッ!!」
セリオスとノヴァが、ただならぬ声で俺に危機を告げた。
「ッ!?」
止めを刺さなければという焦りと、警戒をセンサーに任せていた俺は、謎の攻撃の襲来に気がつかなかった。
横を向いた時には既に、鮮烈なマゼンタ色の光線が俺の眼前にまで到達し——。
視界を烈光が埋め尽くすや否や、俺の全身に衝撃が走り……吹き飛ばされた。
「ウゥッ……!グッ…………!!」
身体が、地面を慌ただしく転げ回る。
アイゼン弐式は今の光線で全壊し……俺の身体からバラバラに離れてしまったことで、打ち身の痛みが直接生身に伝わった。
「クッ……誰だッ⁉」
センサーは正常に機能していた。
アンサラーの攻撃が来たなら、その理気力を感知して、間違いなく俺に知らせてくれた筈!
何故、反応がなかったんだ……!!
「フッ……希望を謳うクソッタレ共が、集まってやがる」
「ッ!」
「全員、ここで潰してやるよ」
「ど~も~!こんばんは~~~!!」
細身で長身……中性的な顔をした男が、華やかな衣装とオペラマスクをつけた陽気な少女と共に現れた。
男の胸についているのは、ドグマ・コアか?
なら奴らは、アンサラーとそのエルダーということになるが…………。
グラスティウスで集合を掛けられた時、奴らはいなかったぞ。
「アクトリア、奴らは何だ?」
俺は腕の端末から、アクトリアに問い掛ける。
「……分かりません」
「何!?」
セブンスワンを進行する役であるエルダーが、存在を知らないだと……⁉
「セブンスワンに参加しているアンサラーとエルダーは、あの場にいた7組で全員です。8組目が現れるなど、異例です」
完全に正体不明か。
セリオスもその驚いた表情から察するに、アクトリアと同様……奴らの存在を知らないようだ。
「非理者の生き残り?いえ、エルドルーラーが見逃すことなど——」
「今は奴の正体なんてどうでもいい」
気にすべきは、奴が俺達の戦いに横槍を入れたということだ。
ここにいる全員を潰すという口ぶりからして、相容れない敵というのは間違いない。
だったら、討ち倒すまでだ。
「大丈夫か?宗方アラタ」
「あぁ」
俺の身を案じたノヴァが俺に駆け寄り、2人並んで奴らと対峙する。
「気をつけろ、あの男のコア……」
「分かってる」
男がつけている赤紫のコアは、ルナや先程までのフメイと同じ大きさだ。
目も、薔薇色に輝いている。
2つもどこから用意したのか知らないが、奴はセカンドフォームになっている。
あのエルダーと共命理をされないよう、速攻で仕掛けるか……⁉
「フン……」
男は警戒心を露わにしている俺達を見て、鼻を鳴らす。
「お前達からでもいいが……先ずはアンタだ。ジジイ」
「ッ!」
男は身体を、フメイに向けて歩き出す。
弱っている奴から順当に狩るつもりか。
「止めるぞ、ノヴァ!」
「……あぁ!」
こんな得体の知れない奴に、むざむざコアを手に入れられる訳にはいかない。
ノヴァも、一瞬の逡巡の後……共に阻止に動く。
敵であるフメイを守る形になるのは癪だが、致し方ない。
許せ……ルウ、クロム、ルナ。
ノヴァが先陣を切って男に迫り、俺は後方でドローンを生成し、敵の包囲に掛かる。
だが——。
「グレイ」
「さ、せ、な、い、ぞっと!」
「ッ!」
空を飛行する数機のドローンが、悉く墜落する。
グレイと呼ばれる少女の左手から、投げつけるように放たれた理気力の散弾が機体を撃ち抜き、機能停止に追いやられてしまった。
そしてノヴァの前に立ち塞がり、ノヴァが突き出した剣を白刃取りで受け止め——。
「何……⁉」
両手から放出した理気力で刀身を染め上げ、霧散させて抹消。
透かさず、理気力を形成して生み出した短剣でノヴァに斬り掛かった。
後退で回避しようとするノヴァだが、予想外の出来事に動揺したことで遅れが生じ……右腕に傷をつけられてしまう。
「宗方アラタ!」
何か俺の耳に入れたいことがあったのか、フメイはグレイを警戒しながら、斬られた右腕を左手で支えて俺の元へ戻る。
「どうした?」
「……右腕が動かない」
「ッ!」
ノヴァの右腕を見る。
確かに、彼の斬られた二の腕から下は力が全く入っておらず、宙ぶらりんの状態だった。
「片腕が封じられるのは……これで2度目だな」
「2度目?」
「理気力そのものを武器にする戦い方……理想で出来た俺の身体を封じてしまうという奇妙な能力。神尾クロムとよく似ている」
「……確かにな」
アイツの力は、他の超常的な力を無効化だった。
センサーの反応がなかったことも、それならば説明がつくが……。
奴は、とてもクロムのような平和主義者には見えない。
奴はフメイとそのエルダーを執拗に虐げ始めている。
奴の他者に対して働く動き、見詰める眼に……一切の情がない。
このまま奴を野放しにし、奴がサードフォームになってしまえば、その冷酷は俺達に向けられる。
何としても、喰い止めなくては!
「シュウリがあの爺さんからコアを奪うまでぇ、ちょ~っと待ってて欲しいなぁ」
「誰が待つか……!」
「押し通らせて貰う!!」
アンサラーとエルダーの錫杖から放たれる光線を、左足から生成した理気力の壁で消し去る。
そして壁に蹴りを入れ、地を走る質量弾として撃ち出した。
狙いは、エルダー。
「ッ!?グァァッ!!」
エルダーは躱すことすら出来ず衝突し、質量弾の勢いに押し出され……何軒もの家や塀に挟み潰されながら後退していった。
この程度の攻撃すら避けられないとはな。
初めての実戦だというのに、何とも拍子抜けだ。
まぁ、奴らは連戦を重ねてるのだから、疲弊していてしょうがないか。
「おのれぇぇぇ…………!!不届き者めがァァァァァッ!!」
「……なんだ、元気じゃないか」
自分のエルダーを傷つけられたことが逆鱗に触れたか、アンサラーがやかましく激昂しながら立ち上がり、俺に迫った。
「そんなに自分のエルダーが大事か?」
「あの方は貴様らの従僕とは訳が違うッ!従僕の身体を依り代にこの地へ舞い降りた、神聖なる存在なのだァッ!!」
「…………イカれてるな」
アンタの下らない理想が、エルダーの姿に反映されただけだろうに。
「大耀元主様は仰せられたのだ!私を万物の理にせよ、さすれば究極の救世をもたらすと!!だから儂は、この儀に参じたのだッ!!」
聞きたくもない自分語りを叫びながら、アンサラーは錫杖を俺に当てようと振るい続ける。
「うるさい」
「グフッ…………!」
耳障りに喚き、しつこく攻撃を続ける奴に苛立ち、奴の胸を蹴って弾き飛ばした。
子供が徒らに投げるソフトブロックのように軽々と飛び、地面を転がるアンサラーだが……敵意を失うことなく再び立ち上がり、攻撃しに掛かって来る。
「わ、儂は……勝つ!全てに、勝利し!!正しき理で、世界をぉ……儂の手で導くのだァァァァァッ!!」
その様にいい加減うんざりした俺は、突き出された錫杖は躱し——。
伸び切った右腕を、刃状の理気力を纏った手刀で斬り裂いた。
「ッ!?アァッ……!ウアァァァァァァァァァッ!!」
あれ程荒々しく動いていた腕は力なく地面に落ち、アンサラーは鮮血を撒き散らす腕を抑えて這いつくばった。
しまった、これは死んでしまう攻撃かもしれないな。
まぁ、いいか。
今はこのジジイを、叩き潰したくて仕方ない。
グレイには、正当防衛で仕方なくやったことだと言い訳すればいい。
俺はアンサラーの頭を掴み、上半身を上げさせた。
「何が世界を導くだ。この傲慢野郎が」
「ウゥ…………ウゥゥゥゥ………………!」
「アンタのような思い上がりが作る世界に、平和なんてある訳ないだろ」
「ゥブッ……!」
掴んだ頭を引き寄せ、奴の顔面に膝蹴りを叩き込む。
奴の腕だけでなく、鼻からも血が流れ出す。
「正しき理……そんなものは虚構だ。自分の価値観を他者に広め、悦に浸る為だけに作られる嘘っぱちなんだよ」
「アガッ……ガッ…………!」
「人はそんな正しさを信じてしまうから、曖昧で無駄な夢や希望を持ち……苦しむんだ。今のお前よりもずっとな」
頭を高々と持ち上げ、力の限り勢いづけて地面に叩きつける。
「だから俺が終わらせてやるのさ。神話も伝説も正義も、全て」
「よ……世迷、言……だ…………!」
「ならアンタの信じる神を殺して、証明してやるよ」
「ッ……待て…………!」
「神の死だ。よく見ていろ」
殺すより先に、このジジイの精神を徹底的に打ち砕く。
俺はアンサラーから離れ、質量弾で遠くに追いやったエルダーの傍へ駆けつける。
「よぉ、神様」
「ッ⁉ゥグッ……!」
衝突によって倒壊した家屋の下敷きになり、起き上がれずにいたエルダーの首を掴んで強引に引き上げる。
そして近場にあった奴を祀る場所であろう神社へと、家々の屋根を伝って移動。
拝殿の扉へエルダーを投げ飛ばし、激突させた。
このお高く留まってる神社ごと、エルダーを葬り去ってやる。
俺は参道の真ん中に立ち、右手で胸のコアに触れて力を解放し……理気力をこの手に宿らせる。
「……!」
引き出した力に、我ながら驚く。
これが……セカンドフォームで発揮される本領か、凄まじいな。
俺は、理気力の弾を飛ばすのと同じように指を鉄砲の形に構え、宿した全理気力を指先から境内地に向け……放出した。
地面と衝突した弾丸状の理気力は、決壊。
内部で凝縮されていた膨大な理気力が炸裂し、境内を赤柴の液体が氾濫する。
この液状となった理気力で押し流す……それもいいが、もっと豪快な方でやるか。
俺は広がった理気力に念じ、俺の真ん前の一点に集めさせた。
理気力は渦を巻いて凝縮してせり上がり、俺のイメージ通りの形へ変わっていく。
巨大な竜の頭へと。
「悪として討ち倒される竜が、神を殺す……粋な計らいだろ?」
「……奴を扇動し続ければ、上手くいくと思っていたが…………ここまでか」
「消え失せろ」
竜の大顎が開き……口内で淡い紅色の光が輝きを放ち、周囲一帯に圧が掛かり始める。
時間の経つ程、光と圧力は強まり……。
そして——。
「や、やめろォォォォォォッ!!」
赫耀の奔流が、竜の口より放射された。
石畳や白砂利を焼灼して突き進み、エルダーと拝殿……及び後方の本殿を吞み込み、灰燼に帰した。
残るもの充満している煙だけだ。
「熱……」
前髪が、少し焼けたな。
「あ……あぁぁ…………!!」
どうやら俺を必死に追い掛けていたらしいアンサラーが、エルダーと神社が跡形もなく消えた事実に呆然し、後方でへたり込んでいた。
俺の思い通り、相当なショックを受けているな。
いい様だ。
「希望を信じた為に、絶望の極地へ立たされた者の気持ちが…………少しは理解出来たか?」
「………………」
声も出ないか。
「じゃあな」
俺は項垂れたままの奴の額を撃ち抜くべく、指鉄砲の指先を当てた。




