滅びの使者 再現 ①
「終わりだ……御影フメイ」
止めを刺すべく……ルナは一歩、また一歩と身体をフメイに近づける。
「ま、まだ、だ……!儂は、まだ……ッ、終わらん…………!!」
減らず口を。
しかし、いくら喚こうと……貴様の意志が折れ掛かっていることは、分かっている。
現に——。
奴が保持していたコアが1つ、奴から離れて地面に落ちている。
どうやら奴自身は、落ちたことにすら気づいていないようだが……。
アンサラーの意志と結ばれているコアが離れるというのは、敗北を自ら認めているようなものだ。
これで、奴はファーストフォームに成り下がった。
未だ維持している共命理も、解除されるのは時間の問題。
……もっとも、その前に殺してしまうが——。
「御免」
「ッ……!」
ルナとフメイの間を、不意に緋い影が脇から割り込んできた。
ルナは条件反射で、通り過ぎようとするその影を即座に斬り裂くが——。
剣に、手応えは感じられなかった。
「ッ⁉」
影は、実体のない幻影。
その下に潜んで並走していたもう1つの緋い影が、地面のコアを取り上げ、横切った。
「貴様……!!」
「また相まみえたな。あんさらぁ」
あの時の忍者……!
コアを奪う為に、ずっと隠れて戦いを見張っていたのか。
まさか——!
「貴様はノヴァの仲間だったな。貴様らはずっと……コアを掠め取ることが目的だったのか!?」
「のゔぁ殿の名誉の為に言っておくが、これは主殿から拙者一人に与えられた任務。誤解なされるな……では、さらば」
「待て……ッ⁉」
追い掛けようと足を踏み出した途端、私の意識がルナの肉体から離れた。
共命理の解除が、こんな時に…………!!
「ルナ……!」
「セリオス……ッ、アァァッ!アアアァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「ルナッ!!」
ルナが悲鳴を上げ出し、地面に崩れ落ちてのたうち回り始めた。
私が引き受けていた苦痛が、一挙になってルナに襲い掛かったのだ。
「ウゥゥゥ、痛い……!アァァァァッ!!」
「ルナ!しっかりしてください!ルナッ!!」
「ウゥゥゥゥゥゥ……!!ウォォォォォォォォォォッ!!」
「ッ!!」
フメイが、起き上がる……!
「ハァ……ハァ…………ッ、コアが……!?小娘ェェェッ!儂のコアをどうしたァッ!!」
「…………!」
忍者は、とっくにこの場所から消えてしまっている。
奪われる瞬間を倒れて見ていないフメイは、我々が奪ったと誤解しているのか。
どうする!?
痛みを自覚したばかりのルナは今、戦える状態ではない!
私1人で、立ち向かうしか……!!
「返せェッ!それは大耀元主様に捧げるものォ!貴様が持つ資格などないィィィィッ!!」
「クッ……!」
「大耀元主様こそが、唯一絶対の存在ィ!それ以外など、あってはならんのだァァァァァァァッ!!」
悶え苦しむルナに、フメイが半狂乱となりながら迫り来る。
私はルナの前に立ち塞がり、盾を構えた。
……弱り切っているとはいえ、奴は未だ共命理で強化されている。
それでも、私がルナを守り抜く!
そう覚悟し、フメイとの対決に臨むが——。
「ッ!」
我々とフメイの間に、再び横槍が入る。
今度は忍者ではない。
フメイに目掛けて絶え間ない弾丸と光線、火球を放つ……アラタとノヴァだった。
「ヌゥゥゥゥ……!」
フメイは背中から触手を生やし、上空から襲い掛かる飛び道具を防ぎながら後方へと退く。
「優木ルナッ!セリオスッ!!」
「大丈夫かッ⁉」
空から飛来してやって来た2人が、私達の元へ駆けつける。
「私は平気だ!ただ、ルナが!!」
「待ってろ、すぐに回復ドローンで……!」
アラタは戦闘用ではないドローンをすぐに生成し、ルナの治療に充てさせた。
ドローンは、ルナの周囲を光を照射しながら旋回し始める。
「全身の筋断裂……自律神経失調…………処置に時間が掛かるな。お前は彼女を安静にさせろ」
「分かった……!」
「奴の胸のコアが小さくなっているが、コアの1つが奴から離れたのか?」
「あぁ。そして……貴様の仲間の忍者が、それを拾って消えた」
「ッ⁉まさか緋影が……!」
この様子では、本当にコアの奪取が目的ではなかったようだな。
「マスターが、彼にそんな指示を出していたとは……」
「そんなことより、今は奴を倒すのが先だ。来るぞッ!!」
「おのれぇぇ……!邪魔をするなァァァァァッ!!」
「やれるんだな、ノヴァ!」
「負けて強化は消え、身体も傷が塞がったばかりでまだ脆いが……やれるさ!」
迅速に任務を完了させる為、全速力で以って集落外の山野を駆ける。
遁走して既に大分経つが……弐人のあんさらぁが拙者を追って来る気配はない。
未だ対決に集中しているか、将又諦めたか。
事態がどうあれ、足を緩めてはいられん。
此れは主殿の理想を果たす要石。
誰の追手も届かぬ速さにて死守し、御届けせねば——。
「っ!」
右遠方より、破裂の音が微かに鳴り出した後——。
踏み出していた右足が、強い衝撃によって曲がった。
安定を失った拙者の身体は倒れ、走行の勢いを止められず大仰に転がってしまう。
「全く。そんな石ころ1つに、随分追い掛けさせられた……」
「何奴……⁉」
「まぁ、楽に手に入れられそうだし……良しとするか」
暗闇が広がる獣道の先から——。
胸に、紅赤で色は違えど……拙者の手に持つ物と同じ石を身に付けた男が、倒れている拙者に氷の如き冷徹な双眸を向けて現れる。
其の手にはとらんしぃばぁと呼ばれる、遠話しが出来る道具が握られていた。
其れを握っているという事は、仲間と会話し……情報を示し合わせていたという事。
相手は、拙者の足を遠方から狙撃した者で間違い無い。
拙者から石を奪う為に……!
「さぁ、大人しくコアを渡して貰おうか」
男はとらんしぃばぁを放り、殺気を漂わせつつ悠然と拙者に歩み寄って来る。
「よもや拙者以外にも、隠れて石を欲する者がいようとは…………一生の不覚」
「雑兵が口を開くな」
「お主はあんさらぁか?しかし紅赤の石のあんさらぁなど、同胞の報せから聞いておらぬが」
「……そういうリアクションには聞き飽き——」
懐から芥砲を取り出して銃身と把手を握り込み、弾をあんさらぁへ目掛け発射する。
男の不意を突いた、つもりであったが——。
男には一切の油断なく見切られ、紅赤の理気力を纏った左手で払われてしまった。
拙者は後ろ腰の忍刀を抜き、すぐに立ち上がって追撃を掛けようとするが——。
「っ!」
撃たれた右足が、動かない。
右足は欠損しておらぬ。
拙者達は明確な負傷を負わぬ限り、問題無く動かす事が出来る。
何故、麻痺したように動かぬ……⁉
兎も角も、足が駄目ならば紙となって——。
「紙にはさせない」
「っ、ぐっ……!」
拙者が紙となることを把握していたのか、男が敏速に右手を打ち振るい……右手から放った理気力の飛沫を拙者に浴びせた。
紅赤の理気力が付着した拙者の全身は……紙に変わる事叶わず、人の形に留められてしまう。
この男と拙者達は、相対してなどいない筈。
一体何処で、拙者達の存在を熟知したのだ……!
「終わりだ」
「っ!」
紅赤の光が輝き出し、闇を照らした。
男の右手に、煌々たる光が宿っている。
そしてそれは形を変え……妖怪の如く巨獣の頭へと変貌し、身動きの取れぬ拙者の身体を——。
開いた獣の大顎は、周囲の緑や大地諸共……闇へと吞み下した。
無念。
申し訳ございませぬ、主殿。
役目を果たせぬ、不甲斐ない拙者を。
どうか、お許し下され……。
捨てていた通信機を拾い、グレイと連絡を取る。
「グレイ、コアは回収したぞ」
「オッケー。それじゃ、セカンドフォームになって集落に戻って来てね」
「……走り詰めだな」
「文句言わないの。絶好の機会なんだから」
「奴ら、まだ戦っているのか?」
「うん。まだ戦況に変化なし」
「分かった、すぐに向かう」
「いい?シュウリ。間違っても殺——」
「殺さなきゃいいんだろ?何度も言うな。切るぞ」
全く、疑り深い奴だ。
クロムと争った後から、何かにつけて釘を刺してくるんだからな。
完全に倒していいのはエルダーと、紙で作られたアンサラーの使いだけ。
アンサラー相手には、最大限でも制圧する程度に抑え、コアを奪え……と。
鬱陶しいこと、この上ない。
何故、忌々しい希望の申し子どもに、俺が情けを掛けなきゃならないんだ。
希望を終わらせると誓い、アンサラーになったというのに。
……まぁいい、今は従ってやるさ。
死ぬより辛い目に遭わせることも、出来るんだからな。
集まっている奴ら全員からコアを獲れば、俺は計6つのコアを手にし……セブンスワンに王手が掛かる。
俺が全てを手にし、全てを終わらせてやる。




