狙撃
国境を越えるまでは3日と半日ほどかかるらしい。勿論天候によって左右されるが、本日は快晴で道もぬかるんでいない。そして、その旅路もあと一日で終わりだ。昨晩もその前も、王族貴族共が襲いかかって来ることはなかった。今日の夜に国境を超えればひとまずは襲撃の警戒をしなくて良くなる。夜の見張り番を交代でするので、僕はきちんと眠れていないのだ。ぜひともサルベジアにまでは追ってきてもらいたくない。
蟲車が轍の上を通ると揺れは少なくなって快適だ。御者はメールとスルテとラストレンさんが交代でしている。僕も興味があって教えてもらおうかと思ったが、急いでいる都合そんな余裕は無いらしい。いつの間にかスルテが蟲に名前をつけた。サクフルと呼んでいる。水をよく飲むので、スルテの故郷の方言で「空樽」という意味だそうだ。ラストレンさんはサクフルの飲む水に何か細工をしていた。詳細は教えてくれなかったが、「足が早くなる」と言っていた。
僕は車に布を架けただけの簡易的な天幕からのそのそと這い出した。朝日が登ってすぐに布の隙間から僕の目に光が直撃したのだ。眩しくて寝ていられなかった。早朝の見張りはラストレンさんだった。
「来たぞ。全員を起こせ。」
はっとして天幕の布を引っ剥がした。ラストレンさんが御者台に乗り込む。皆のそのそと起き始めた。隊長はわりかしすぐに起きたが、スルテとメールはまだ寝ぼけている。ラストレンさんがはぁっ!と一息上げて手綱をふる。サクフルは元から起きていたのか即座に走り始めた。僕は後ろを振り返って遠くを見つめる。確かにいくつかの蟲車がこちらに向かっている。数を数えてみる。一、二、三、、、。
「何台だ。」
隊長も目を凝らしているが見えならしい。
「重なって少ししか見えない分は自信ないけど、十二台かな。」
ずいぶんと大所帯だ。追いつくのに時間がかかっったのにも頷ける。それにしても多い。過剰なほどに。たった一人連れ戻すだけならもっと少なくてもいいはずだ。「多い。」と思わずつぶやく。
「そりゃ謙遜か?連中は一人で蟲を殺す所を目の当たりにしてるんだ。当然だとおもうぞ。」
「た、たしかに。」
今ならあのくらいの蟲は何匹こようが殺せる自身があるけど、人となると無理に決まっている。第一あの人数に囲まれて複雑な連携などされようものなら手も足も出ないだろう。あ、いやそんな事はなかった。現にここにいる隊長の隊の近接部隊を壊滅させたのだった。やっぱりなんとかなりそうだ。しかしあれは運が悪かった(良かったとも言える)からだし、、
「いや、それだけじゃないな。多分私がいる事も理由だろう。」
いつの間にかラストレンさんが隣に来ていた。御者はメールと交代したらしい。スルテはまだ調子が上がらない様だ。ラストレンさんはどこから取り出したのか巨大な弓と矢を持っている。ラストレンさん自身がかなり大きい方だが、その身長よりもまだ半分ほど大きい。
「ラストレンさんって有名人なんですか?」
ラストレンさんは荷台の上に立ち上がって、矢をつがえた。そのままだと弓の底が床を擦るので、上体を少しそらしている。フッと小さな息を吐きながら手を離した。
「『実質教会の王』とか『白姫』とか呼ばれてるよな。」
隊長は知っていたらしい。矢は放物線を描きながら鋭く飛んでいく。普通この距離で矢は当たらないが、ラストレンさんのやることなら疑う余地はない。まるで一人弩弓だ。
「私はそんな風に呼ぶ事を誰にも許可していない。」
少し不服そうだ。矢は蟲車の車軸に見事当たり、そのまま軸を破壊してしまった。いくつかの蟲車を巻き込みながら転倒する。恐ろしい精度だ。
「なるほどあの数を連れてくるわけだ。」




