再開
蟲車の速度は拮抗しているように見えて、あちらの方が断然速い。このまま走っていてもいずれは追いつかれてしまうだろう。それに国境についたとてそのまま逃げ切れる訳では無い。当然、道には関所と門がついているし、門を素直に通してくれるわけもない。森を抜けるしか無いが、車を降りていれば追いつかれるのだ。
「そう温くはいかないか。」
ラストレンさんが弓を弾く。しかし追手も馬鹿では無い。蟲車を一列にして後ろの仲間を守り、先頭の蟲の上に大きな盾をもった男が構えている。あれで弓が防がれてしまうのだ。追いつかれるのも時間の問題だし、向こうの矢が届く距離までだけならもっとすぐに来てしまう。
「速度でも戦闘でも数が多い方が有利だ。我々の土俵へ行こう。スルテ!」
「はい!」
いつの間にかスルテはしゃんとして、メールと御者を変わっている。ムチを一振りしたあとに、「全員姿勢を低く!」と指示を受ける。皆、慌てて車の足元に身をかがめる。右に強く振り回される力が全身を引っ張って来て、直後にドン!と蟲車が浮く。ガサガサと高速で僕らの頭上を枝葉が通り抜けていく。ラストレンさんの弓はいつの間にか無くなっている。少しだけ頭を出して後ろを見ると、全然追ってきている。当然だ。僕らの蟲車が通れたんだ。向こうも通れぬ義理は無い。それどころか随分近くまで追いつかれている。もし森がなければ矢はもう届いているだろう。というか車の後ろに一本刺さった。
「これ、何かに使えないですかね。」
メールが丈夫そうな縄を持っている。締めたぞ。これを使って先頭の蟲の足を絡ませてしまおう。玉突きの要領でいくつかの蟲車をだめにできる上に、この森のせいで止まった車をどかさなければ追いかけてこれないだろう。枝葉が無い隙きを見計らって後ろに投げよう。そう思って前を見るとパッと視界が開けた。森が途切れ、平原が広がっている。しまった!!!!またもや向こうの土俵だ!
「散開!!!!!」
すぐ後ろに迫っていた蟲車達が指示を受けて広がって行く。僕らの両隣を挟み込むように広がってきた。弓を構えられているが、まだ打ってこない。スルテが狙われている!!御者だからだ!
「打て!!」
とっさに僕はスルテの右側に飛び出した。右の肩と脛に矢じりが突き刺さる。左の方にも腕を伸ばしたが左側はラストレンさんが守ってくれた。素手で二本の矢を掴んで止めている。他は外れたみたいだ。
「第二射構え!!」
まだ打つつもりだ!形状的に矢に毒は塗っていない。痛むが矢は挿しっぱなしだ。隊長が抜剣して僕の前に立った。弾くつもりらしい。メールはしゃがんで頭を抱え、空を見て呆けている。何を見てるんだ?
「蟲だ…。人が乗ってる。」
何!?空の影が僕らを覆い、ゆっくりと高度を下げて来る。ぶぶぶぶと羽の音が煩く近づいてくる。追手も気がついたみたいで空を見上げて声を上げる。
「何者だ!!!」
蟲の腹に隠れてこちらからは乗っている人が見えない。見せつけるように旋回し、蟲の上の人物と目が合う。彼の顔は顎の部分に金属を貼り付けて痛々しく補強している。それでもその顎をめいいっぱいに開いて高笑いをした。
「あーっははっはははぁぁーー!!その目をもらいに来たぞ!リカルド!!!!」
ラウムウルム・バルマンドリアだ。
飛んでる蟲は蝿のような物です。




