黒い光
堂内は整然としつつも、皆一つの物に意識を向ていることがはっきり解るほど空気が緊張している。ある者は信仰心を、ある者は警戒をある者は好奇心を向けている。それは堂内奥に設置された台座だ。普段は説法や演説に使われているであろうその台座から、黒い光が差している。光はふよふよと海底のように天井に模様を描く。伝承のいち場面を表す絵画たちが、水底に沈んだようだった。この黒い光の事はよく知っている。いや、正確に言えば黒い光は知らない。これによく似た白くまばゆい光を見たことがあるのだ。それは教皇領の教会だ。
余りに神秘的なそれに、魅入られてしまった事を覚えている。そして今回もそうだ。フラフラと吸い寄せられるように光の元へ歩いてゆく。
「まて。スルテ。」
ラストレンさんが何かを呟いているが、単語が頭に入ってこない。気持ちがいい。フラフラ、フラフラ、人の座る堂内を縫っていく。あと少し、あと少し、あと少し………。
パッと光が消えてしまう。
「あっ………。」
「どうした。」
後ろから肩を掴まれる。ラストレンさんだ。
「光が…光が消えてしまって…。」
「光?」
「その、台座の上から…出ていた…。」
言い終わる前に何かを思ったのか私を押しのけてずんずんラストレンさんが進んでいく。周りの人たちの注目を一気に集める。
何人もの人たちが立ち上がってラストレンさんを止めようと寄ってくる。手を引かれている私にも、注目されている。
とうとう台座の眼の前まで連れて行かれ、険しい顔をした人たちに囲まれてしまった。
「光は消えたのか?」
「えっ、いいえ、まだ少しだけ残っています。」
「何をしている。」
リーダーらしき人が話しかけてくる。ラストレンさんは何も答えない。それどころか無視している。
「おい。答えろ。」
「スルテの思う幸せってなんだ?」
突然の質問だ。少し考えてから、
「夢を叶えられたなら、私は幸せだと思います。」
「いい答えだな。」
周りの人たちの剣幕が一層高まっていくのが解る。
「何を、しているか、聞いている。」
「スルテ、その光というのは恐らく魔法の効力を表している。」
「ええっ!じゃあリカルド君は!」
「そうだ。健康であればあるほど効果が高くなるという事は…。」
「光が消えたとき、少年は死んだことになる。」




