早朝侵入
「スルテ、起きろ。」
「……はい。」
軽く目を擦ってから伸びをする。ゆっくり目の焦点合わさって行き、ラストレンさんの顔がくっきりする。暗い部屋の中でこちらを向いたまま支度をしている。いつもより清貧な服だ。
「これに着替えるんだ。」
またいつの間にか服を持っている。広げてみれば、一目でとても質が良いことがわかる。嫌な予感がしてきた。
「礼儀作法は一通りわかっているな。」
「こっそり盗ってくるのではないのですか?!」
あろうことかラストレンさんは堂々正面から変装して協会本部に入るつもりなのだ。しかも宿を取った時の設定をそのままに使うつもりだ。
「仕方がないだろう。警備がどう回ってるかなんて調べようが無いのだからな。変装していれば、もし見つかっても誤魔化せる。幸い私は何度も本部に来ているからな。器がありそうな場所の検討は付く。スルテは堂々としていれば良い。」
私が着替え終わったのを見計らって、ラストレンさんは部屋を出る。宿代は既に払っている。無銭宿泊にはならない。
早朝の空気は何処も同じだ。冷たくて、肺を洗うように通り抜けていく。今日の空気は一層冷たい。
「要件は。」
衛兵を担っているらしきその僧は、明らかな警戒をにじませて聞いてきている。手筈通り私は黙って堂々としていると、ラストレンさんが何事かを僧の耳元で囁いた。スッと僧は横に避けてくれ、先を促される。
「どうぞ。」
怪しまれやしないかドキドキしながら通る。私は無事協会に入る事ができ、ラストレンさんもとなった時だ。
「まて。そこの従者、念の為顔を見せろ。」
呼び止められてしまった。ラストレンさんは間違いなくちょっとした有名人だ。それを自覚しているからこそ、顔を布で隠しているのだ。
「……。」
そっと、両手で布の端と端を摘み、持ち上げる。そこには今まで見たことも無い様な清廉潔白な雰囲気を醸し出す顔があった。よくよく見てみれば、何時ものラストレンさんの顔と何ら代わりはない。ところが仕草や雰囲気だけで、何時ものあの力強さの塊のような顔を抑え込んでいるのだ。さらに追い打ちをかけるように、朝日が後光のように射し始めた。それを目の当たりにした僧は畏まってしまって、「し、失礼しました。」と言って目をそらした。
「時間を掛けすぎた。急ぐぞ。」
入口でのやり取りが終わり、廊下をぐんぐん進んでいく。歩幅は小さく、けれども素早く。
「私なら、人目が最も集まる巡礼室に置く。」
ラストレンさんが静かに戸を開ける。広い巡礼室には、所狭しと僧達が床に座っている。しかし、真面目に祈りを捧げる者は数少なく、何事かを話し合う人や、辺りを警戒しているひとがほとんどだ。
「アタリだな。」




