酸
まずい。かなりまずい。僕の身体が言うことを聞くようになってきた。
さっき走った時からその兆しは合った。前進に力が籠もり始め、手の開閉をしても淀みなく動く。
つまり僕の不運が限界まで強くなっているということだ。
今ここに毒は無い。僕は今数名の兵士に固まって守られている。
一応持ってきていたブーメランで応戦はするが、今更一匹や二匹殺した所で焼け石に水なのだ。
一つ有ることとすれば僕が気絶することだが、僕が気絶した所でこの人達のお荷物になるだけなのだ。
街の外に向かってはいるが、まだまだ遠い。
「おい、見てみろ。」
兵士がお互いに促し合っている先を見てみると、周りとは一際目立つ大きさをした蟲がいた。
姿形は他の蟲達とそっくりだが、一つ違う点を上げるとすれば、羽がついているということだ。
それも二対もあり、細かにはためかせながらこちらを凝視している。
蟲車の蟲には羽が無いはずなのに。さらには體育も一回りほど大きい。
兵士たちが警戒して避けて通る合図を送り合っている。
僕は、その蟲から目を離す事が出来なかった。いや、
正確には絶対に話してはいけない気がした。黒く光るその瞳の奥から、ただならぬ敵意を感じ取っていた。
そしてそれは正解だった。
蟲は身体を後ろにそらして腹を持ち上げた。そして腹の先をこちらへと向けた。
何かをしてくる。その確信だけはあった。何をしてくるのかは一切解らなかったが、防御できないことも解っていた。
蟲の触覚がピクリと動いた。兵士達は右の抜け道に意識を向けている。
躊躇ってはいけない。奥してはいけない。部隊とは離れてしまうが、やむを得ない。
左脚の力を一気に抜き、転がるように左の民家の窓を目指した。
直後に蟲の腹の先から透明の液体が飛び出してさっきまで僕のいた場所を含め、道の中心を覆い尽くすように噴射された。
避けきれず大きな水滴が僕の右胸に落ちた。
そのままの勢いで窓をぶち破り、民家の床に転がる。煙を上げながらあっと言う間に服を溶かすその液体が皮膚に触れた。
「あああああああっっっーーーー!!!」
あまりの痛みに強く手でそれを拭ったのがさらにいけなかった。
「っっっっ!!!!」
さらなる激痛が両手を襲い、のたうち回った。
そこに有るものならば何でも良かった。民家のかまどにはシチューのようなものが架けてあった。
そこに両手を突っ込み、直後に自分の胸に掛ける。
「ぐっっっ!!!!」
三度目の痛みに顔をしかめるが、痛みは落ち着いた。
シチューが床に飛び散り、火傷した胸や両手がジンジンと痛む。
あの焼けるような痛みに比べれば、焼けた後の痛みなど大したことはない。
しかしすぐに身体を動かせるほど、僕は頑丈でもなかった。




