スルテ
風の音はどんどん大きくないいて来て、山小屋が揺れ始めた。気温もぐっと下がってきている。
「多分だけど、不運はもう来てますね。」
「私もそう思う。」
僕の奥歯がカチカチと音を鳴らし始めた。彼女は囲炉裏に火をつけ始める。
「私、スルテって言うの、あなたは?」
そういえば僕も自己紹介をしていなかった。まぁ出来たものでは無かったのだが。
「リカルドです。」
しばらく無言が続く。火はまだ起こせないようだ。火打ち石がかつかつと響く。
「しますよ。」
火打ち石を受け取って、打つ。僕は手際が良いのだ。すぐに火がついた。
「なんとかならないんですか?」
「さっきみたいにあなたを気絶させるって手はあるけど…多分この寒さで気絶したら死ぬわね。」
なんとかならないみたいだ。少し肩を落とした。
そんなわけで体力の限界が近づき、なりふり構って居られなくなって、僕とスルテは身を寄せ合って縮こまっているのだ。
そろそろ意識が朦朧としてきた。
「何か話ませんか?無理やり意識を保つためにも。」
凍える奥歯を噛み締めながら話す。視界が白ずんできた。
「…。」
答えは無い。ゾッとしてスルテの方を見る。目が閉じている。大変だ!
「おい!起きろ!死にたいのか!なぁ!」
激しく揺するが反応は無い。確かにものすごく寒いが、気絶するのが早すぎる気もする。
「おい!おい!おい!」
まったく反応が無い。だめだ。早くなんとかしないと手遅れになる。周りを見渡すが火はすでに隙間風に当たったのか消えてしまっている。
いそいで火打ち石をとりだしてまた点けようとするが、一項に点く気配は無い。
「駄目だ!点かない!点け!点け!点け!」
焦りで思考が荒ぶっていたが、ある事には気づいていた。僕の中の冷静な部分が最適な答えを知っている。
しかしそれは勇気のいる事だ。とても恐ろしい事だ。それに賭けだ。うまくいくかどうかは分からない。
「ふぅぅぅー。」
大きく息を吐いて覚悟を決める。火打ち石を手放して立ち上がる。彼女は僕を気絶させれば助かるかもしれないのに、僕が死ぬかもしれないからと拒否したのだ。
彼女が死ぬかもしれない時に僕がそれを助けない道理は無いのだ。
覚悟は決まった。僕は出来うる限り身を縮めて、轟々と響く吹雪の山へと身を投げ出したのだった。




