風呂
「助けて!誰か!いるんでしょう!助けて!」
門番が交代の時間になり、厩舎へもどるために中庭を通ると、蟲車が一つだけ残っていのを見つけた。不思議に思い近づいてみると、教会の蟲車だった。そういえばラストレン様が歩いて帰って行くのを見た。きっと蟲車で来たことを忘れたのだろう。
ぼんやり考える頭に、突然かすれたような、しかしはっきりとした高い声が入ってきた。
何事かと蟲車に入ると、みすぼらしい上に泥だらけの子供が、縄でぐるぐる巻になって入っていた。昼間に目があった少年だ。
「冷たい。まずいな。」
少年を抱きかかえる。かなり身体が冷えきっている。今はもう春になって昼間は温かいが、日が暮れるとかなり冷え込む。酔っ払いなどが油断して、夜の間に凍死するのはこの時期が一番多いのだ。
「意識は有るな。君、ラストレン様に捕まったんだろう?きっとまたよくわからない一般人を捕まえたに違いないんだ。災難だったな。」
「はい…。多分…。ありがとうございます。」
目が半分閉じている。意識が朦朧としているようだ。なんとかして温めなければならない。厩舎には風呂がある。ちょっとぐらい部外者が使っても良いだろう。
見たところ少年はかなり衰弱しているし、体中に傷がある。左腕なんかはとくに酷く、黄色くなっている。
厩舎へはすぐについた。すぐさま風呂につれていく。風呂は大勢が同時に入る事を想定した大浴場だ。この子は縄で巻かれていたから、何かの罪人かとも思ったが、まぁ子供だからとすぐに解いてしまった。
意識がもう無いようだから、僕が服も全て脱がせる。一応僕も服は脱いだ。その間置いていた少年をまた抱きかかえて風呂に入る。
この厩舎はとても良いもので、何時でも湯が湧いている。僕をここに長く就かせているのもこの湯だ。さきに何人か入っているやつがいる。
「あ…。」
少年の目がうっすらと開く。まだ朦朧としているが、とりあえず湯に浸かりにいく。
「ちょいと失礼。」
ザブンと大胆に湯が溢れる。すこしだけもったいない気はするが、これが王屋敷の醍醐味だ。
少年の身体はかなり小さいが、それでもなんだか大きめの赤子の産湯の気分だった。あまりに弱々しかったからだろうか。
「それどこでひろってきたんだよ。」
隣のやつがはなしかけてくる。
「ラストレン様の蟲車から。」
「ラストレン様はまたやったのか!まだ子供じゃないか!」
「あぁだから困ってるんだ。子供はとりあえず教会に預ければいいと思ったが、教会にはラストレン様がくるだろ?」
「なるほどなぁ。困ったなぁ。」
ラストレン様が暴君で有ることは周知の事実だ。この子をどうしたら良いだろうか。
「そうだ!教会は教会でも別のところに預ければいいんだ!」
よく分からない。まさかフィスィストの事を行っているのではあるまいか。
「明日、教会からジルガンティアに学生のいっぱい乗った船が出るだろ。それにのせればいいんだ。」
なるほどジルガンティアにいけば子供は教会で学べるし、ラストレン様に合うこともない。しかし船が出るなんて初耳だ。
「どうやって船に乗せるんだ。」
「ラストレン様の名前を使えばいい。自分が蒔いた種だ。少しぐらい使っても罰はあたらんだろう。」
「決まりだ。」
話していて見ていなかったが、少年の顔色は生気を取り戻し、今では寝息を立てている。
僕らは湯から上がって、明日の詳しい話をすることにした。




