消えた約束。
「儲かるガキかと思って引き取ったのに、体が弱いんじゃ商品になりません…タロット、君は用済みです。邪魔ですよサロット」
「嫌だ!早く薬を飲まないと、このままじゃタロが死んじゃう!お願い!薬だけでも…お願いだよ!!」
「はぁ…聞き分けの悪いガキですねぇ」
「ぐっ!!」
すがり付くサロット君を蹴り跳ばした男は床に倒れたタロットを見下ろす。
その目は人間を見る目じゃない、物としてしか見ていなかった。
体の熱が全て奪い取られる様な冷たい視線。
闇オークション。
それがこの男が示すもの。
「タロに手を出さないで…!俺が、俺がタロの分まで稼ぐから!だから、約束して。必ず薬を用意して…!!」
「成る程?」
「駄目…サロ…、お願い…駄目だ…っ」
「良いお兄様を持ちましたねタロット。えぇ、良いでしょう…薬を用意させます」
部屋には何もない。
外を見る為の窓も、寝る為のベッドも、座る椅子も、机も。何もない部屋。
さっきまでの貧しくても元気で幸せそうだった彼らの体は更に痩せ、目の下には隈が。
この男にどれだけ酷い扱いをされているのかが聞かなくても分かる。
「行かないで…お願いだよ、サロット…。嫌な予感がするんだ…!っ、お願い…!!」
「大丈夫だよタロット。いつも通りステージで魔法を披露したらすぐに戻って来るから」
「でも…!!」
「信じて。俺は戻って来る…約束だタロット」
「…、っ…う"ん!」
腕に手錠をされたサロット君が部屋から出て行く。その時、後ろを歩いていた男が歪んだ笑顔を浮かべたのが見えた。
タロットにあの顔が見えてなくて良かった。
あの顔を見たら、頭の良い彼なら男の考えに気付き正気を保っていられなかっただろう。
サロット君は魔法を披露したら終わり、と言っていた。
違う…男は彼らの「いつも通り」を壊す気だ。
「サロット…早く帰って来て…」
タロットのその声は今にも消えてしまいそうだった。戻って来て、と何度も何度も言う。
けれど、彼の嫌な予感は当たり、サロット君が帰って来る事はなかった。
「サロは…何処…?何処なの…?」
「彼でしたら派手な貴族のババァに買われました。ほら、約束の薬ですよ」
「う、嘘だ…。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!サロが買われただと?!嘘を言うな!サロを返せよ!!」
「チッ…うるせぇ。稼ぐって言ったのは彼ですよ?稼ぎ方が少し変わっただけです」
「嘘だ…嘘だ…」
「薬飲んで早く稼いで下さい。あぁ…お兄様みたいに売られない様に頑張りましょう、ね?あははははははっ」
帰って来た男の言葉はタロットの最後の希望まで奪った。
彼が今まで頑張って耐えてきた魔力がその瞬間に爆発し、部屋に充満していく。
男はまだその異常な程の殺気に気付いてない。
「………る………やる」
「はい?」
「殺してやる!!!!!」
「?!」
部屋が闇に包まれ、男の体も闇にズブズブと呑まれていく。
助けを求める男の声に反応した人達も部屋に入って来るけれど、広がる闇を恐れ男を見捨てた。
男の体が全て闇に呑まれた時、タロットは男が消えた床を見詰め笑った。
「は、はは…あーあ。呆気ないなー…これじゃあ楽しくないよー」
「ひっ?!ば、化け物…!!」
「化け物ー?俺が化け物とか笑えるんだけど…
死ねよ」
そこからは一瞬だった。
男達が闇に消え、タロットだけが佇む。
「サロ、ごめん…俺が、俺だけがサロを覚えてるから…」
ごめんと謝り続けるタロット。
そして、視界が変わる。
私が知る姿まで成長したタロットがお母さんのお墓に花を置き、その表情はとても疲れていた。
「俺が全て消すから…母さんとサロを苦しめた世の中なんていらない。俺が全部終わらせる」
視界が闇に覆われる。
闇の中で倒れるタロットは既に体の半分が闇に染まっていた。
「お姉さんはだーれ?」
そして、そのタロットの頭を優しく撫でる小さな男の子。
気付いたら私はその子を抱き締めていた。
やっと、やっと触れられた。
「お姉さん…どーして泣いてるの?」
弛くて優しい話し方。
小さな彼をこの手で抱き締められた。
涙が次々に零れ、止める事は出来そうもない。




