悲しみの過去。
アロネットちゃんの闇の中は歩いてる感覚があったけれど、タロットの場合は深くて暗い海の底みたいだった。
体がどんどん沈んでいく。
(さっきの子どもの声は何処から…?)
はっきりと聞こえた声。
その子ども達を探そうとした時、暗闇が突然無くなり私は知らない町に立っていた。
人が行き交い、賑わう町の中に突然現れた私に驚くかと思いきや私を気にせずに素通りして行く人達。
前から歩いて来る人に体が当たりそうになるとその人は私の体をすり抜けて行った。
「まさか…見えてない?」
自分の手を見ると透けている…幽霊になった様な気分だ。
町は私が知らない場所で、人々が話す言葉も私が暮らしている国には無い訛りがあった。
活気付いている町を見渡していると、タロ!という一人の子どもの声がやけに頭に響く。
それは闇の中で聞いた声だった。
「待ってよータロー!俺もう疲れたー…」
「サロったら本当に体力無いな!ほら!母さんが待ってるから帰るぞ!!」
「母さんは逃げないから歩いて帰ろーよー」
「家まで競争な!」
私の横を走り抜けて行った子ども達の後を私も走って追い掛ける。
二人の子どものうち一人はタロットだった。
(此処は彼の記憶の中なんだ…。)
彼らを追い掛け、辿り着いたのは一軒の古びた小さな家。さっきの賑やかな町中とは違い、その家があったのは人が少なく薄暗い場所だった。
勝手に入っちゃってごめんなさい!と心の中で謝る。普通なら不法侵入で訴えられる。
タロットとサロ?という男の子達は家に着くと、台所で水と何かの薬を用意していた。
そして、振り向いた二人の顔を見て驚く。
その顔はまさに瓜二つだった。
「タロ、これも母さんに持ってこー」
「うん!じゃあ、サロはそれ頼むな!!」
しかも、私が知るタロットは深緑色の髪の筈なのに何故か桜色の髪をした子の事を深緑色の髪をした子は「タロ」と呼んでる。
深緑色の髪がサロという子で、桜色の髪がタロットなのか…髪色が違わなければ見分けが全く付かない。
それに、今のタロットの弛い話し方はまるでサロみたいだ。サロを真似ている様な…。
「母さん、ただいまー」
「ただいま!!」
二人が奥の部屋に入って行き、私も開いた扉から中へ入るとそこには痩せこけて健康とは言い難い女性がベッドに座って造花作りをしていた。
この人が…タロット達のお母さん。
彼らは持っていた水と薬、そして一つの林檎を手渡していた。
「はい!母さん!これ今日の分の薬な!!」
「しかも林檎もー今日はラッキーだったよー」
「まぁまぁ…いつもありがとうサロット、タロット。とても美味しそうな林檎ね」
幸せそうに笑い合う三人を見ているとザザ…と映像にノイズが入り、周りの景色が変わった。
そして、次に私の前に広がったのは静かな雨が降る墓地に泣き続けるタロット達の姿だった。
彼らの見詰める墓にはたくさんの造花が並べられている。
その造花はさっきまでタロット達のお母さんが作っていたものだと分かり、その墓が彼女のものだという事も分かってしまった。
「可哀想に…まだ幼いのにねぇ。ご主人も数年前に流行り病で亡くなってるのに、奥さんまで亡くなるなんて」
「過労と栄養失調ですって。あの子達はどうするのかしら?誰かが預かるとか?」
「あの子達の家がこの前売り払われたって聞いたわ。大変ねぇ」
「うちは無理よぉ…今だってギリギリなのに、他人の子なんて世話出来ないわぁ」
「私もよ。あ、そういえば!隣の奥さんがー…」
後ろにいた通りすがりの婦人達。
彼女達の中で彼らについては軽い世間話程度で、数秒話したら片付いてしまう内容なのだ。
雨の音と彼らの泣く声だけがある中、また私の後ろから誰かがタロット達に近付いて行った。
その男は着ている服から察するに貴族出身で、帽子を深く被り顔は分からなかったけれど笑う口元を見た瞬間に吐き気がした。
(この人は駄目…関わったらいけない!!)
男よりも先にタロットとサロット君に触れようとする。けれど、私の手は彼らに触れない。
運命はどんどん最悪へと進んでいく。
「君達、光と闇の魔力を持っているのでしょう?」
「おじさん…誰…」
「何で知ってるの…」
「君達が魔力を使って母親の薬を買う金を稼いでいたのは知っています。実に素晴らしい。是非、私の家に来ませんか?」
欲しい物何でもあげよう…君達はとても困っている筈だろう?と男は言う。
この男について行っては駄目。彼は危険だ。
けれど、此処はタロットの記憶の中で私が干渉する事は出来ない。
目の前の彼らを助けられない事が悔しい。
「私が最高の場所へ連れて行ってあげましょう…楽園にね」
お母さんも家も無くした彼らに男の手を取る以外の選択肢を選ぶ事は出来なかった。
ザザ…とまたあの音が鳴り、景色が変わる。
次に見たのは暗く狭い部屋で衰弱して倒れるタロットとあの男と話すサロット君だった。




