貴方を知りたい。
やっと…やっと出会えた。
私の記憶を呼び覚ます人に。
(全部、全部…思い出した。私の大切な記憶。)
「ハルト」と自然に口から出た名前。
その瞬間に頭の中に今まで忘れていた記憶の全てが一気に戻ってきた。
「リュード…ごめんなさい…」
「…、」
ハルト様を気絶させたリュードは私の手を引いて、無言で森の中を進んで行く。
取り戻した私の記憶は今までだけの事だけじゃない。リュードの事も思い出した。
それはこの世界がゲームだった事も、そして私が前世の記憶を持って転生した事も思い出したという事。
(リュード…だったんだ。)
ずっと分からなかった裏組織を指揮する者の正体。
記憶を消すという忘却魔法はこの世界では禁忌とされ、それは一つ魔力の属性の者しか出来ない。
全てを浄化する力を持つ光属性だけが忘却魔法を扱える。
裏組織のボス、リュードはこの世界を闇で染め上げようとしている。
それを阻止するのが主人公で…リュードを倒せたらハッピーエンド、失敗したら主人公は死ぬというバッドエンド。
でも、そのどちらにも私が…トワが記憶を無くしてリュードと暮らすなんて場面は無かった。
(裏組織のボスなんて怖い存在としか認識していなかったのに…。)
リュードと一緒に過ごしている時間は本当に楽しかった。
それに、彼は凄く優しくて…今更、裏組織に関わるからって嫌いになんてなれる訳が無い。
「全て思い出したのか」
「うん。貴方の事も、貴方が何をしようとしているのかも全て」
「そうか。では…また記憶を白に塗り替えなくちゃだな」
「………どうして?」
リュードが私の頭に手をかざす寸前に彼の頬に触れると微かに彼の黒い瞳が揺らいだ。
彼が目的の為にたくさんの魔力を必要とし、だから何人もの魔力保持者達の力を集めて闇魔法の源にしようとした。
けれど、闇魔法の源にはもっと強い魔力が必要。
そこで規則外の魔力量を持つ私が適任だった。
ゲームでも源としてトワが生け贄にされている場面があった。
私はリュードにとって闇魔法に役立つ為だけの存在なのに。
もう学園にも、そして国にも闇魔法の影響が出ていて目的は達成されようとしてるのに。
必要無くなった私をどうして彼はまだ生かし、優しくしてくれるのか。
「変だよね。記憶を消されても、姿を変えられても、他の人から私の事を忘れさせられても、私は貴方を嫌いにはなれない」
「…普通は俺を憎むだろう」
「自分でも何でと思う。けどね…記憶を無くしていた間の貴方の優しさは嘘じゃなかったと思うの」
記憶が無くて不安になっていた私を抱き締めてくれた腕は温かくて安心した。
彼と話すのんびりとした時間も温かかった。
あの彼の表情や言葉が全部、嘘だとは思えない。
私の勝手な思い込みかもしれない。
それでも私は彼を信じてみたい。
彼は冷たい人なんかじゃない。温かい人だ。
「ノアール…いや、トワ。君と少し話がしたい」
「話?」
「あぁ。トワという人物と一度ゆっくり離してみたかったんだ…良いか?」
柔らかな優しい微笑みの中に少しの不安を浮かべるリュード。
断る理由なんて無い。
私も彼自身と話がしてみたかった。
「えぇ、勿論よ」
久しぶりの令嬢としての話し方は少し変な感じがした。




