永遠の守護。〜ミケ視点〜
「離れてしまった訳では無いわ。それを成長と呼ぶのよ。
ちゃんとその成長に貴方も並んでいる。だってこんなに澄んだ魔力を持つ貴方が置いてかれるなんて絶対にあり得ないわ」
「私と会ってハルト様が変わったのはほんの少しのきっかけよ。
その彼を何年も支えてきた貴方がいたから今の彼がいる。貴方は素晴らしい魔術師ね」
ハルト様の婚約者は正直言って変人だと思う。
「トワ・アトリエス」という名前はかなり前から知っていた。
傲慢で我が儘で自己中なご令嬢として有名だったのが、急に聡明で美しいご令嬢と言われるようになったのだ。
難しい薬の調合と誰もが驚く程の魔力量と技術。
それを持った彼女に王様が興味を持つのは必然だった。王様は面白いものが何よりも好きだから。
ハルト様も「トワ・アトリエス」を婚約者にと進められた時はとても嫌そうにしていた。
僕は王様から城での留守番を言い渡され、誕生日パーティーには行けなかった。
王様は僕がハルト様の婚約者を片っ端から追い払っているのをご存知だったようだ。
ハルト様があの女に何かされているんじゃないかと心配で落ち着けなかった。
けれど、僕のそんな心配は杞憂に終わってしまう。
「トワは何が好きだろう?」
「トワの薬は凄いんだ!」
「トワがケーキを作ってくれたんだ!」
あの日からハルト様は「トワ・アトリエス」の話ばかりをするようになった。
彼女の話をする時のハルト様の瞳は本当に楽しそうで、嬉しい気持ちと悔しい気持ちが混じり合うモヤモヤとした感情に僕は苛まれていた。
人が嫌いだと言っていたハルト様。
そんな彼が今では明るく、楽しそうに毎日を過ごしている。
僕はハルト様に救われたのに。
僕はハルト様に何も返すことが出来ていない。
どんどん憧れの人が遠ざかってしまうような気がした。
僕の中で「トワ・アトリエス」は警戒対象になった。
そして、とうとう学園で会ったのだ。
初っぱなから僕の顔に扉をぶつけてきた女。
それがあいつだった。
その時は「トワ・アトリエス」だと知らなかったが、聖堂に着いてから少しすると現れた女にハルト様が迷い無く手にキスをした瞬間に全てを悟った。
ハルト様が女にあんなにも優しい目を向ける場面を見たことが無い。
「諦めろ、ミケ。トワは今まで僕の周りにいた婚約者候補達と訳が違う。
彼女は僕が選んだ最も素晴らしい女性だ」
「で、ですが…ま、またハルト様の身分や容姿だけしか見てない女かもしれないじゃないですか…」
「トワは違う。…それ以上、トワを疑ってみろ。友人のお前でも容赦はしないぞ」
「っ、僕は…っ」
それを言われた瞬間、僕は頭の中が真っ白になった。
ハルト様に失望されてしまった。
自分は本当に役立たずな人間だ。
走って走って、誰もいない森の中で一人座り込む。
大嫌いな自分の風属性の魔力を極めて、やっとハルト様の専属魔導師になれたのに。
これでは何の意味も無いじゃないか。
昔から僕は何も変われていない。
周りから呪いの魔力だと言われ続けた「風」の魔力。お祖父様の命の灯火を取ったのはお前だと。
こんな力…ハルト様を守れなければ必要の無い力だった。
「貴方の名前もちゃんと言っていたわ。ミケ君の温かな魔力にいつも守られているから心強いんだって。
役に立ってない訳無いじゃない。今だって貴方をとても心配しているわ」
突然、目の前に現れた「トワ・アトリエス」の言葉を信じられる訳が無かった。
自分の過去を全て彼女に話していた僕自身も信じられなかった。
でも、いつの間にか気持ちは軽くなっていて…ずっと存在していたモヤモヤが消えていた。
「遅くなってしまったけど…ミケ君、改めてよろしくね。貴方と是非、友達になりたいわ」
「…あんたって本当に変」
差し出された手を取る僕も変だ。
聖堂で挨拶を終えた頃にはすっかり、彼女を警戒する気持ちなんて無くなっていた。
…ハルト様の婚約者として、認めてやらんこともない。
「友達」という響きに何だか心が温かくなった気がした。




