清澄な魔力。
かなり大雑把な勘で学園の中にある森の奥深くまで探しに来てしまった。
頭が混乱して無我夢中で走ってる人って一人になりたがるんじゃないかと考えて森へ来たが、違っただろうか。
「おーい…あの質問なんだけど、森の中に赤髪の男の子が一人来たりした?」
人がいないのを確認して、一本の木の根元付近に小声で話し掛けてみる。
こういう人探しとかの情報収集は常に色々な情報交換をしている妖精達に聞くのが一番なのだ。
今、私が話したことのある妖精は土と水と火の妖精達。
彼らに助けを求めるしかあるまい。
『赤髪ー?』
『男の子ー?』
『泣いてた子ー?』
呼び掛けると根元部分が光って、そこからひょっこり顔を覗かせた土の妖精達。
どうやら私の考えた通り、ミケ君は森の中へ来たようだ。
それに…泣いてたか。可愛い子を泣かせるとか私、最低だわ。
可愛い至上主義者として失格だわ。
落ち込みながらもミケ君が走っていった方向を聞くと、もっと奥深くへと向かったらしい。
『近道しよー』
『泣いてる男の子こっちー』
『案内してあげるー』
「ありがとう!皆!」
光る木の根元に私も足を踏み入れる。
その瞬間に体が光に包まれ、次に目を開けた時には体育座りをして泣いているミケ君より少し離れた距離に立っていた。
うん。ちょうど良い距離感である。
驚かさないようにゆっくり近付いてミケ君の名前を呼ぶと、バッと伏せていた顔を上げられた。
その顔にはくっきりと涙の後があった。
「な、な、何で…あんたが…」
「迎えに来たの。ごめんなさい、ミケ君…何か私が不快にさせてしまったのなら謝るわ」
「っ、何だよ、それ…。…あんたが、あんたがいけないんだ…」
また顔を埋めてしまったミケ君の隣に私も座る。
ミケ君がむしゃくしゃしていたのは朝の扉事件からじゃなく、私がハルト様の婚約者として決まった日からだとミケ君の話を聞いて分かった。
泣くのを我慢しながら少しずつ話すミケ君の背中をそっと撫でる。
「…今まで近付いてきた女はハルト様の身分と容姿しか見てない最悪なやつばかりだったんだ」
「…えぇ」
「ハルト様は僕の憧れなんだ…同い年なのに、あんなに格好良くて頭も良くて輝いてる人を僕は見たことがない。
そんな彼を守るのが僕の使命だと思っていた…けど、あの方はあんたに初めて会った日を境に、どんどん離れていってしまうようになった…」
ずっと傍で守ると誓ったのに、ハルト様は僕の知らない別人になっていったんだ…とミケ君は最後に小さな声でそう言った。
ミケ君は王宮専属の魔術師の一家で、代々王家の人間を守っているらしい。
彼のお祖父様は三大魔術師の一人でその力はとても偉大なものとされていたが、数年前に魔術でも治せない謎の病で倒れたのだと言う。
その同時期に生まれたのがミケ君。
お祖父様と同じ風属性の魔力を持って生まれたミケ君を周りの大人達は魔力吸収で生命を吸い取ったのだと言いミケ君を責めた。
本来、庇い守る筈の両親も息子を自分達から遠ざけた。
お祖父様の力はあまりにも影響をもたらし過ぎたのだ。
そして、恐れていた通りお祖父様は息を引き取りより一層ミケ君への当たりが強くなっていった。
けれど、そこであのハルト様が手を差し伸べてくれたんだとミケ君は初めて笑った。
「ハルト様が僕に確かな地位を下さったんだ!
あの方をお守りする専属の魔術師にまでなることが出来たんだ!!」
「……、」
「でも…あんたと出会ってハルト様が以前には絶対にしなかった本当の笑顔で笑ったんだ。
…僕がずっと出来なかったことを君はやった…はっ、嫉妬したんだよ僕は君に…」
「ミケ君…」
「八つ当たりだって分かってる!けど!!けど…僕を救って下さったあの方を誰でもない僕が笑わせたかった…結局、僕は何の役にも立ってない…」
酷いこと言ってごめん…と制服の袖で強く目元を擦るミケ君の腕を取る。
何も役に立ってないなんて嘘。
ハルト様にとってミケ君がどれだけ大切な存在か知らないだけだ。
「昔、ハルト様が私に言ったの。僕がまだ僕としていられるのは友人達のお陰なんだって」
「え…」
「貴方の名前もちゃんと言っていたわ。ミケ君の温かな魔力にいつも守られているから心強いんだって。
役に立ってない訳無いじゃない。今だって貴方をとても心配しているわ」
「っ、でも…!」
「離れてしまった訳では無いわ。それを成長と呼ぶのよ。
ちゃんとその成長に貴方も並んでいる。だってこんなに澄んだ魔力を持つ貴方が置いてかれるなんて絶対にあり得ないわ」
ミケ君の容姿の可愛さにも驚いたが、それよりも彼のとても綺麗な魔力に私は最も驚いた。
彼の風属性の魔力は全てを浄化しそうな程の透明度の高いものなのだ。
現に土の妖精達は心地良さそうにミケ君の魔力に触れていた。
「私と会ってハルト様が変わったのはほんの少しのきっかけよ。
その彼を何年も支えてきた貴方がいたから今の彼がいる。貴方は素晴らしい魔術師ね」
「…………………あんた、変わってる」
「ふふっ、良く言われるわ」
それに不思議だ、と困った様な、けれど照れた様な微笑みをミケ君は返してくれた。




