決意のその先。
第二王子のハルト・トレアスニカ。
義弟のヴァン・アトリエス。
公爵家のランジェ・デルトロ。
と、まぁこの様に私は順調に攻略対象者達と会っているわけなんですけども。
ははは。
ゲーム通り、登場人物達揃ってきちゃったぜい。
「あ~…後二人もいるよぅ~…」
日記帳とにらめっこして、頭を悩ませる。
今現在の状況を一回整理しておこうと開いたまでは良かった。
問題は後二人も攻略対象者がいるという現実。
魔法学園に入学するところが物語の開始合図だ。
その時が主人公と攻略対象者達、そして悪役令嬢という立場の私が揃うコンプリート状態。
残りの二人との出会いは学園。
もう平穏第一思考なので、会わないって手は無いですかね…。
(でも、解決出来てる問題も何個かはあるんだよねちゃんと。うん、良かった。)
それは私が会っている攻略対象者達の性格についてだ。
あの超腹黒ドS毒舌製造マシーンの王子様であるハルト様は初対面以来あまり毒舌を発しなくなった。
たまに真っ黒なオーラ駄々漏れな時もあるけれど、あのゲームの中の様な魔王レベルではないのである。
二人目が私の義弟君。
ヴァン君は当初、ヤンデレキャラとしてどうしたら良いか悩んでいた。
…が。今ではそんな悩みが真っ白に消え、剣と魔法の鍛練が好きな爽やかスポーツ少年へと成長している。
三人目は公爵家のランジェ様。
比較的温厚な彼は全くと言って良いくらいに怒らない人で、性格にも強いクセが無くとても接しやすいタイプの人格者。
それでもゲームの中でトワとは仲が最悪だった…筈。何か普通に仲良いです私達。
リオネちゃんの話でよく盛り上がってます。
こんな感じで彼らとは今のところ、かなり良好な関係を築けている。
だが、安心することなかれ。
気の緩みが命取り。
このままいけるように精進するであります。
次に金銭面の問題だけど…これが予想以上に潤っている。
この世界の薬の調合技術は前の世界よりも後退していて、即効性はあまり無かった。
だから私の調合した即効性がある薬が売れたのだろう。
このまま続けていけば、身一つでどっかに投げ出されても心配は無用だと思う。
お金はちゃんと貯金してありますからね。
「うーむ、そんで…やっぱり出てくる問題が裏組織なんだよなぁ」
侵入者事件があったあの日に付け足された新しいページ。
この組織は必然的に学園で問題となってくる。
ゲームでは主人公が解決へと導き、その困難を乗り越えて攻略対象者と結ばれるのが最終章の話だ。
そこは別にハッピーエンドとして私も携帯を握り締めて泣いた記憶として置いておく。
私が何故、こんなにも組織を気にしているのかというと…トワ・アトリエスがかなり組織と関わっちゃうキャラとしてゲームでなっていたからだ。
主人公を陥れたくて、組織と契約してしまう悪役令嬢はそれも相まって死亡ルートへと繋がってしまうのである。
私自身はそんな怖い組織とミジンコ程、関わるつもりは無いが何があるか分からないから用心している。
あれはゲームで、今は現実。
もしかしたら何らかの歪みがあってゲームと事実が変わることだって否定出来ない。
『トワ凄く難しい顔してるー』
『ねーこんな顔ー』
『くふふふっ、似てる似てるー』
「…ちょ、今かなりシリアス雰囲気だったのに急に変わっちゃったよ妖精さん」
『だって来ても全然気付かないー』
『トワいないとつまんなーい』
『遊ぼー』
グイグイとドレスの裾を引っ張られて窓際に連れられていく。
そこからは同じ様に妖精達と魔法のお披露目会をしているヴァン君と楽しそうにしているレイン達が見えた。
稽古の途中で遊び相手として見つかってしまった様だ。
「悩んでも駄目だよね。いざとなれば雷で反撃してやる気持ちでいなくちゃだよね」
『反撃ー』
『僕らも反撃ー』
『えいやー』
私の言葉で手や足を動かす妖精達。
本当に彼らは空気を和ますプロである。
机に戻り、開いたままだった日記帳を閉じて部屋の扉を開けた。
期限は魔法学園の入学年齢である十六歳。
ここからが勝負である。
「それじゃあ…行こっか!」
妖精達に笑い掛け、私は一歩を踏み出した。
「…なーんて、格好良いこと言ってた時代があったなぁ」
あの頃よりも少し古くなった日記帳を見つめ、呟く。
あれから八年。
私は無事に十六歳になり、魔法学園の入学許可書を手にしていた。
『主様、これで荷物は全部なの?』
「うん。荷造り手伝ってくれてありがとうねリリィ」
八年という時間は本当に凄い。
予想通りリリィは狼として人一人を乗せて走れるくらいの大きさに成長したし、ハヤテも部屋の窓を通れないくらいの大鳥へと成長した。
「トワ様、学園に行く準備が整いました」
「ふぐぅ…トワ様ぁお元気でぇ…!」
「サナ。泣くのが早いです」
『分かったわ。サ、サナ?大丈夫?』
号泣するサナに苦笑いをしていると、アリンまでもが少し目元を赤くしているのに気が付いた。
アリンに近付き、頬に手を添えるとそれまで無表情だった彼女はくしゃりと顔を歪めた。
「…必ず長期の休みには帰って来て下さい」
「えぇ、約束する。離れるのが本当に寂しいわ」
「トワ様ぁ!!」
「っ、トワ様…」
二人に抱き付くと強く抱き締め返された。
学園は成長の場として侍女の連れを禁止しているのだ。
だから、二人とは少しの別れ。
お父様とお母様、そしてヴァン君との別れの前に私は少しだけ泣いてしまった。




