驚きは楽しさとキラキラ。
この世界には私が前世にいた頃の世界にある植物とない植物が存在する。
私が薬の調合に使うのはこっちの世界の植物の割合が断然多い。
成分を調べてみたら、前世の世界の植物よりも治癒力を向上させる成分が多く、医療用植物として重宝している。
そして、医療用植物としての使い道とは別に、もう一つ素敵な使い道がある。
「美味い…これ何て言う名前の菓子なんだ?」
「ふふっ、頑張って作った甲斐があったわ。これはマカロンと言うのよ」
「へぇ。菓子なんて初めて食べた」
それが、料理用としての使い道だ。
特にお菓子の材料として、混ぜ合わせるのがオススメ。
焼き菓子にしたりすると糖分を分泌して、凄く美味しくなるのだ。
ヴァン君も気に入ってくれたのか、もう三個もマカロンを食べている。
五個作ってきたのだけれど…足りるだろうか?
籠の中に入っていた色とりどりのマカロンが物凄い勢いで無くなっていく。
どうやら、かなり甘い物がお気に召した様だ。
(今度は何が良いかな?タルト…なんてどうかな?)
見事、ヴァン君は全部のマカロンを食べ終わりお腹を擦っていた。
まさか全部食べれるとは…甘党としてヴァン君と同盟が組めるかもしれない。
感心していると遠くから侍女のサナとアリン、そしてハヤテとリリィが来るのが見えた。
あれ?レインはどこ行ったんだろう?
「お話中、失礼致します。奥様とクオン様がお帰りになられました」
「お二人とも、とてもヴァン様に会うのを楽しみにしてましたよ!」
「予定より、かなり早いわね。ありがとう二人とも。ヴァン?私のお母様とお兄様をご紹介したいのだけれど良いかしら?」
「あぁ、分かった………ってうわぁぁ?!」
ずっと静かだったハヤテとリリィは、ヴァン君の顔とお腹に突進。
あまりにも急なことで私は、目を見開いた状態で固まるしかなかった。
ハヤテはくちばしでぶすぶすと容赦無くヴァン君の頭を刺し、リリィは凄く真剣に匂いを嗅いでいた。そして唸り始めるという謎行動。
「ハヤテもリリィもどうしましたの?!ヴァンが驚いてますわよ?!」
「ヴゥ~…ワンッ!」
「キュイ!キュイ!」
「籠?籠がどうしましたの?」
ハヤテを抱き上げ、リリィの頭を撫でながら問い掛けてみると渋々だがヴァン君への攻撃をやめてくれた。良かった…すまぬ、ヴァン君よ。
二人の攻撃にやられグッタリとしているヴァン君の隣にある籠をリリィはバシバシと叩いていた。
「二人はトトが作ったマカロンを全部食べちゃったその人に怒ってるんだよ」
「マ、マカロン?あれはヴァン用に作ったお菓子で二人には別に作ったはずなのだけど…」
「むぅ~…僕だって嫌だもん。トトが作ったお菓子を誰かにあげるの…嫌だもん…」
「まぁまぁ…!なんて可愛いんですの皆!!」
ひょっこり現れたレインの説明を聞いて、迷わず三人をまとめて抱き締める。
こんな可愛いことを言われて平気な人はいないだろう。
もう何なんだ君達。全員天使ですか。
「おい…何なんだ今の。犬と…鳥か?」
「突然、ごめんなさいねヴァン。お腹に突進したのがリリィ、頭に乗っていたのがハヤテ。
そして、この子がレインロゼですわ」
「凄ぇ元気だな…お前んとこの…」
「ふふっ、元気すぎて困っちゃうくらいなのよ」
「っ?!」
優しくヴァン君の頬に触れて、お詫びの印に魔力を少し送る。
ヴァン君は「魔送」が初めてだったのか、自分の体に流れ込んでくる私の魔力に驚いた様だった。
自らの魔力を人にあげるのは体力や疲労回復の役目がある。私の回復薬と同じだ。
大抵の人は自分の魔力を大事にするので薬に頼るけれど、私の場合は魔力がかなりあるので、少しくらい魔力をあげても全然問題無い。
ヴァン君は初めての場所で緊張していたのもあったのか疲れている様だったので、私の魔力を渡したというわけだ。
「体が温かくなってきた…しかも、気のせいか体が軽くなったし…」
「お疲れの様子でしたので、私の魔力をヴァンに少し渡したのですわ。準備も整いましたし、お母様達のいる部屋に行きましょう!」
「お、おう…」
少し顔を赤くしたヴァン君の手を引いて歩き出した。
不思議に思ったけれど、ヴァン君に会うのを楽しみにしていたお母様を待たせるのは可哀想なので急がなくちゃだ。
歩きながらサナとアリンの紹介をすると、さっきまで普通に話していたヴァン君はまた無言になってしまった。
やっぱり、まだ人と話すのは苦手の様だ。
(でも、これから時間はたっぷりあるし!目指せヤンデレ阻止!!)
たくさんの人とのふれあいの中で、ヴァン君の人に対する恐怖心が少しずつでも薄くなっていけば良いなと思う。
取り敢えず、まずは私のお母様の愛を教えてあげましょうヴァン君よ。
びっくりするくらい可愛いがられるはずだから。
「お母様に会ったらまた驚きますわよ?楽しみにしてて下さいませ!」
「…トワには驚くことばっかりあるな」
「驚きって毎日が楽しくってキラキラしますの。新しい驚きは素敵なことですわ」
「キラキラ…か」
ヴァン君は何かを思い出した様に小さく微笑んだ。




