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花とケーキと笑顔。

義弟、ヴァン君にとってこの家が住みやすい場所にするぜ計画まず第一。


思い立ったが吉日、という言葉通りに私は庭園にて仁王立ちで土しかない広い一角を見つめていた。



「…やっぱり、ここがベストな場所だよな。開拓前で土も自然なままで尚良し」



ヴァン君は植物が好きだというゲーム設定があったのを思い出したのだ。

地下街は太陽の光が届かない暗くジメジメとした場所なので、滅多に花なんか咲かない。


咲いたとしても、太陽の光を浴びれない花はすぐに枯れてしまう。


地下街という暗い場所で生活してきたヴァン君はいつしか、たくさんの花と明るい場所に強い憧れを抱いているとゲーム中で話していた筈。



「さぁ!どんどん作業を進めていくからね!

土はそのままで大丈夫だから、種蒔きから始めるか。

ハヤテ!印を付けた場所に飛びながら花の種を蒔いていって!

リリィは私とゲート作り!レイン、貴方はハヤテが種を全て蒔き終えたら花を咲かせてね!良し!行くよー!」



私の掛け声とともに作業に移るハヤテ達。

何とも心強い味方達だ。


ヴァン君を喜ばせたいという理由で両親から許可を貰った庭園開発。

庭師が新しく薔薇園を造ろうと思っていた場所を昨日の夜、無理を言って譲って頂いた。感謝。


ここなら家にも温室にも近い場所で、太陽の光が降り注ぐ広い空間だから庭園としてはベストな場所ということで選んだ。


たくさんの花と明るい場所に憧れているヴァン君が喜びそうな空間だと思った。

温室も広々してて良いけれど、ヴァン君はガラスで囲まれたところよりこっちの方が好きそうだ。



「キュイキュイ!」

「お、もう終わったのハヤテ?早いねー!ありがとう!!

そしたら、レインの出番だ!レインよろしく!」

「まっかせてー!」



レインが目を閉じて、土に手を触れながら何かを唱えると一気に成長していく植物達。

妖精王は自由自在にそれぞれの自然の力を使えると言うけれど、本当にその力は凄い。


さっきまで土しか無かった場所が今では、たくさんの種類の花が咲き誇る美しい庭園へと化した。


赤、青、黄、緑、紫…小さい花から大きな花まで多種多様。


ちなみに、真ん中部分には花のゲートを作るつもりだ。

花の世界への入り口をイメージしている。



「こんな感じで大丈夫?トト」

「うん!バッチリ!最高だよレイン!!」

「ワンワンッ」

「勿論だよリリィ!どこの庭園にも負けない最高の庭園を作るつもりだよ!」



リリィは余程、庭園が気に入ったのかクルクルとご機嫌に走っていた。

やっぱり女の子として、こういう可愛い空間が好きなのかなと考える。


前も花の冠を作ってあげたら凄く喜んでくれて、ずっと頭に乗せていた姿が可愛いかった。



話が脱線したがリリィと私は早速、ゲート作りに取り掛かる。

白いペンキで塗ったゲートに草木を綺麗に編み込んで、花のつるも一緒に巻き付けていく。


最後の仕上げとして庭園内に時間停止魔法をかければ庭園造りは終了。

時間停止魔法で植物の成長をとめて、枯れるのを防ぐのだ。


春夏秋冬、全ての花が同時に咲くこの庭園には時間停止魔法が必要不可欠。

かなりの出来映えに自然と笑顔になった。



「ヴァン君がここを気に入ってくれると良いな。ね!皆!」

「花達も喜んでるよ!普段会えない季節の花達同士が会えて驚いてるんだって!」

「おぉ!レインは植物の言葉も分かるんだったね。花達にも喜んで貰えて良かった」



その時、優しい風と一緒に花達のさわさわと揺れる音が笑い声に聞こえる。

隣にいるレインも優しい眼差しで花達を見つめていた。


そうして、庭園造りを終えると私達はすぐに第二の計画を実行する為に移動した。



(砂糖はこのくらいで…メレンゲも作らないとだな。)



お察しの通り、第二の計画とはお菓子造り。

貴族の大人達に不味くて少ない食事しか食べさせて貰えなかったであろうヴァン君。


食事は楽しく食べ、自分を幸せにするものだと言うことをヴァン君に伝えたいのだ。

地下街と貴族の屋敷では生きる為だけに必死に食事をしていたヴァン君に食べる楽しさを知って欲しい。




「食事は料理長直々に美味しいものを作ってくれるだろうし、私はデザートを頑張ろっと」




混ぜてふわふわになった生クリームを指ですくって舐めてみる。

うんうん、我ながら良い出来だ。


やっぱり幸せになる食べ物と言えばお菓子でしょ!ということになって私は前世でも得意だったデザート作りを頑張った。



「キュイ!」

「分かった分かった!ちゃんとハヤテの分もあるから慌てないで!」

「ワンワンッ」

「あ、こら!リリィったら盗み食いは駄目だからね?!」

「うわぁ!これ凄く美味しいー!!」

「レインまで?!」



甘い匂いに我慢出来なかったのか、三人は作り途中のケーキの材料を盗み食いしてきた。

どうやら、三人もケーキに興味津々の様だった。


そして、騒がしいながらも無事にチョコレートケーキを完成させた。



(後は、ヴァン君が来るのを待つだけだね!)



今日作ったチョコレートケーキは夕食後に家族で食べることにし、ヴァン君が来る当日にはマカロンを作ることにした。


今回のケーキ作りは前世の時のお菓子作りの記憶がちゃんと残っているかの確認だったけど、大丈夫そうで安心安心。



こうやって誰かの為に作るデザート作りは本当に楽しい。

自分の作ったものを食べて、相手が笑顔になってくれる瞬間は嬉しくて仕方が無いものだ。


ヴァン君も私のデザートを食べて、少しでも喜んでくれたら良いな。



「あれだけ怖がってた攻略対象者なのに、今じゃこんなにウキウキしてるなんてね」

「こうりゃくたいしょうしゃ??」

「な、何でもないよ?あははは…」



誤魔化す為にケーキ作りに使っていた器具の片付けを開始する。


トト変なのーと言って笑うレインに苦笑いだけを返しておく。

まさか、あの呟きを聞き取るなんて思わなかったぜ。



(弟かぁ…そういえば、昔っから憧れてたっけな…。)



さっき言った通り、怖がっていた義弟という攻略対象者。

けれど、昔っから弟が欲しかったからか無意識に義弟が来るのが自分の中でかなり嬉しくなっていたみたいだ。


私は義弟になるヴァン君の顔を思い浮かべた。

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