魔王だと思われます。
うふふあははと幸せそうに微笑みながらパーティーを楽しむ他の子供達を観察して早数分。
私の今の心境をお教えしましょうか?
吐きそうです。
前世と合わせて考えてみても、これ程までに憂鬱だった誕生日はあっただろうか。いや、ない。
三日前の私よ…君の挑む勇気は素晴らしかったぞ。
(まだ、腹黒王子の馬車が着いてないことが不幸中の幸いだな…。)
私の未来をデッド・オア・アライブじゃなくデッド・オア・デッドにしてしまう諸悪の根元。
その名はハルト・トレアスニカ第二王子。
少し癖っ毛の銀色の髪と灰色の瞳を持つ美男子さん。
頭脳明晰で容姿端麗、しかも王子ときた。
ここまで聞けば全女子がキャーキャー言うのも頷ける。
だがしかし。
私がこんなにも憂鬱な理由が王子の性格だ。
どんだけねじ曲がってんだよってツッコミたいくらい性格が悪くていらっしゃる。
前世で満面の笑みで毒舌を吐くハルト様を携帯の画面越しで見た瞬間、マジで震え上がった。
今までの他の腹黒と言われる方々が比じゃないくらいの毒の濃さだった。
しかも、そこにドSという怖い武器まで装備してるときた。
もはや王子じゃなくて魔王レベルである。
不思議なのが、ここまで毒舌で腹黒で魔王なのに容姿が優れている完璧人間だからか王子ファンな人が意外と多かった。
私の友達も王子の微笑みは天使の微笑みよ!とお酒を飲みながら熱く語っていた。
反対に私は主人公の可愛さを熱く語ったっけ。
前世の友達が王子の素晴らしいところを言っていたのを思い出していると、会場が急にざわつき出した。
とうとう来たか魔…王子め。
私を探している様子のお父様とお母様の場所に歩いていく。
さっきまで、なるべく目立ちたくなくて壁際にずっと立っていた私。
だって、凄いジロジロ色んな人から見られるんですよケーキ食べてるだけで。何だ!欲しいのか!と言ってやろうかと何度思ったことか。
見られすぎて、げっそりだった私は端に避難して体力の回復に努めていたけれど王子と初対面と考えるだけでまたげっそりしてきた。
胃薬…後で自分用に調合しよう…。
「お待たせ致しましたわ。お父様、お母様」
「おぉ、見付かって良かったよトワ。今、ハルト様がご到着なされたんだ」
「ふふっ、トワったら素敵な王子様に会うと思って緊張しているの?頬が赤いわよ可愛い!」
「うふふふ…」
いいえ、お母様。
どちらかと言うと、青いと思います顔色は。
頬が赤いのはチークですお母様。
ひきつった笑みのまま広間の中心に移動し、王子を迎える。
いざ、ご対面です。
カツン、と従者を引き連れた王子が広間に足を踏み入れた瞬間、さっきまでの騒がしさが一気に静まり優雅な楽器の音だけが響き渡っていた。
圧倒的な存在感に私は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
これがハルト・トレアスニカ様。
素晴らしい風格を持つお方だと妙に納得してしまった。
「ハルト様、この度は娘の誕生日パーティーにお越し頂きまして誠に嬉しく存じます。
是非、ハルト様本日はごゆっくりと楽しんで下さいませ」
「こちらこそ、お招き頂き至極光栄。
この国を支えているアトリエス家の皆様に会えて私も嬉しく思います」
お父様が軽く腰を折り、胸に手を当ててお辞儀をしながら挨拶をすると王子も微笑みを浮かべて挨拶を返した。
同い年とは思えない雰囲気を持つ王子を私はじっと見つめた。
そして、目が合った瞬間にゾクリと背筋が凍った。
怖っ!この人の笑顔、怖っ!!
「ハルト様、こちらが娘のトワでございます。
トワ、ご挨拶を」
「…トワ・アトリエスでございます。
今日は私の誕生日パーティーに来て頂きありがとうございます」
「貴女の素晴らしいお話も常々聞いております。貴女が調合する薬は我が国にとって、とても価値あるものだと。
聡明でいらっしゃる貴女はとても素敵な人だと私は思います」
スカートを持って、淑女らしいお辞儀をして、自分の中の一番の淑女らしい微笑みをして挨拶をした。
多分、完璧だと思った瞬間にあろうことか王子が私の手を取って手の甲にキスしてきた。
漫画と小説とゲームの世界でしか見たことのない動作が今現実に…!
周りのご令嬢達がキャーキャーワーワー言い出しているが、ただのBGMだそんなもの。
それくらい困惑しています私。
「お二人だけの方が気軽にお話も出来ますでしょう?
温室にハルト様をご案内して差し上げて、トワ」
「………分かりましたわ、お母様。
ハルト様、温室でゆっくりとお話致しませんか?」
「ええ、広間に入る前に美しい造りの温室が私も気になっていましたので是非お願いしたい」
多少の「……」は許して欲しい。
お母様ーーー!って叫びながら、今の私の頭の中では王子注意警報がガンガン鳴り響いてる。
何で、二人っきりにしちゃうの!
絶対にヤバいって!お母様!
気軽に話せないって!!
あぁぁぁぁあああと頭を抱えたい衝動を抑えて、王子を温室まで案内する。
周りのご令嬢達の鋭い目線が刺さる刺さる。
穴だらけじゃない?私。大丈夫?
「トワ様、どうぞ私の手にお掴まり下さい。空が大分、暗くなってます故、足元が危険でしょうから」
「お心遣い感謝致しますわ、ハルト様」
誰か。ヘルプミーです。
やっと出せた!王子!!
今日は後、もう一話更新したい!




