オネェバンさん
(私は、何を見せられてるのかしら……)
看板とガイルはしばらく
もちゃもちゃと
離れてはくっつき
くっついては引き剥がされる
……を繰り返していた。
すると突然
看板がピタリと動きを止める。
〘あら……〙
〘ギンちゃん、ちょっとヤバそうね〙
「……あ?」
〘何してんのよ!
さっさと行ってあげなさい!〙
「だから!!そう言ってんだろ!!」
ガイルは少し息を切らしながら
看板を上へ放り投げた。
〘きゃっ♡〙
ふわりと空中で一回転する。
〘まったく乱暴ねぇ〙
〘乙女には、優しくするもんなのよ♡〙
そして
〘特に…… 生身の乙女にはね♡〙
そう言いながら
ちらりと私を見る。
(……なんか今)
表情なんて無いはずなのに。
(絶対ニヤニヤしたわよね……)
「ほっとけ!!」
ガイルの怒鳴り声が飛ぶ。
〘うふふ♡〙
〘じゃあね、リールちゃん♡〙
〘またお話ししましょ♡〙
光る身体がゆっくりと崩れ
文字へ戻ろうとした。
「あ……待って!」
思わず声を掛ける。
〘ん~?♡〙
「あの……」
私は少し迷ってから尋ねた。
「あなたのお名前は?」
〘あら♡ そうよねぇ♡
自己紹介がまだだったわ♡〙
〘アタシの名前は…〙
「そいつぁバンだ」
看板が名乗ろうとした瞬間だった。
ガイルがぶっきらぼうに言う。
「覚えなくていいぞ」
そう言い残すと
さっさと店の中へ戻っていった。
「バン……さん?」
恐る恐るそう呼ぶと
〘やだぁ♡〙
バンは身体をくねらせた。
〘堅苦しく
さん付けなんしないでぇ♡〙
〘バンって呼んでちょうだい♡〙
「え、でも……」
私は思わず言葉を濁した。
(年上よね……)
たぶん
かなり
ものすごく
(……でも、それは言わない方が良さそう)
〘ま♡ あなたの好きに呼んだらいいわ♡〙
〘じゃあ、またね~ん♡〙
バンはヒラヒラと手を振る。
最後に投げキッスを飛ばすと
そのまま光がほどけるように消えた。
そして…
看板の文字へ戻っていく。
(は~……)
私は小さく息を吐いた。
(賑やかだったな……)
少し疲れながら店の中へ戻る。
すると
ガイルがカウンターの前に立っていた。
一振りの剣へ向かって手をかざしている。
「……あ!」
私は思い出した。
「もしかしてギンって
その剣のこと?」
「ああ」
ガイルは短く頷く。
「コイツだ」
そう言いながら、剣の柄を軽く叩いた。
「ちょっと訳ありでな」
だが次の瞬間
ガイルの眉が寄る。
「……まじーな」
低い声が漏れた。
「呪いに負けそうだ」
そして慌てたように剣へ身を乗り出す。
「オイッ!ギン!」
「しっかりしろ!!」
ガイルの真剣な表情を見ていると
なんだか放っておけなくなった。
私はそっとガイルの隣へ立つ。
そして
カウンターの上に置かれた剣へ
静かに手を伸ばした。
「……大丈夫?」
もちろん返事なんてない。
それでも
私は剣の柄を優しく撫でる。
(呪いがどんなものか分からないけど……)
目を閉じる。
(お願い)
(負けないで)
祈るような気持ちで もう一度撫でた。
すると……
指先に
かすかな温もりのようなものを感じた。




