剣の精霊 ギン登場
『あーもう!!』
突然、小さな声が響く。
『触んないでよ!!このクソ女!!』
「は?」
私は固まった。
『アンタの気が入ってきちゃったじゃない!!
ガイルの気だけで良かったのにーーー!!』
『余計なことしないでよ!!』
高くて小さな女の子の声が響く。
次の瞬間
剣が淡く光り始めた。
「……え?」
私は思わず目を見開く。
光は少しずつ集まり
やがて蝶ほどの大きさの
小さな光の輪を作り出した。
「……ギン」
ガイルが静かに呼ぶ。
その声に私は思わず振り返った。
聞いたことがない声だった。
優しくて
どこか心配そうで
まるで大切な家族に話しかけるみたいな声。
「大丈夫か?」
そう言いながら
ガイルはそっと手のひらを差し出す。
光の輪はふわりと浮かび上がり
迷うことなく、その手のひらへ降り立った。
『ガイル~……』
ギンはガイルの手のひらへ座り込んだ。
『なんであんな男にアタイを売ったのよぉ……
おかげでボロボロよ……』
そう言いながら
甘えるように身体を預ける。
「悪かった」
ガイルは小さく謝った。
「呪いは大丈夫か?」
『ううん』
ギンは首を振る。
『ガイルは悪くないわ』
『それよりも………』
ギンがくるりと振り返る。
小さな指が ビシッと私を指した。
『そこのクソ女!!』
「に、二回目…」
『よくも……
よくもガイルに怒ったわね!!』
「は??」
思わず声が出た。
『あの男はね!客でも何でもないの!』
『アタイが守ってやんなかったら
とっくに死んでたぐらい
自分の力量不足を分かってなかったのよ!』
ギンはプンプン怒りながら続ける。
『振り回されて!
無駄に痛めつけられて!』
『虐待よ!虐待!!』
「虐待……」
『そんな男を
ガイルが客扱いする必要なんてないのよ!!』
一瞬………
ギンの勢いに押されそうになった。
でも
「……違うわ」
私は小さく首を振る。
「どんな相手でも
物を売って、お金をもらう」
「それが成立するなら
やっぱりその人はお客様よ」
そう言いながら
私はゆっくりギンへ近付いた。
そして手のひらを差し出す。
「だけど……」
私は少し視線を落とした。
「買われた物の気持ちは
今まで一度も考えたことがなかった」
ホームセンターに長く勤めていた。
私は売る側の人間だった。
時には商品を雑に扱ってしまったこともある。
売った後 その商品が
どう使われるのか
どう扱われるのか
そんなこと考えたことなんてなかった。
【付喪神】
そんな話も聞いたことはある。
でも私にとっては
空想の話で
迷信で
妖怪の昔話
そして都市伝説でしかなかった。
だけど
実際に目の前にいて
こうして怒って
傷付いて
泣いている。
そう思うと申し訳なさが込み上げてきた。
「……あなたの気持ちを考えなくて、ごめんね」
私はギンへ向かって頭を下げた。
「だけど…」
チラリとガイルを見る。
「やっぱり
お客様にあの態度は、良くなかったと思うわ」
ギンがむっと頬を膨らませる。
私は負けじと見つめ返した。
「そこだけは……譲らない」
「確かに……」
私は一度言葉を選ぶ。
「結果として、ガイルは優しかったと思うわ」
万能石も渡して
お金も返した。
だから最後には あの人を助けたのだと思う。
「だけど」
私は首を振った。
「あなたを売った時に
もう少しちゃんと話をして
もう少しちゃんと話を聞いていたら…」
「戦わずに済んだかもしれない
傷付かずに済んだかもしれない」
ギンは何も言わない。
私は小さく息を吐いた。
「もちろん」
「絶対そうなってたなんて、言えないけどね」
そう前置きしてから続ける。
「…でも
物を売るだけ
お金をもらうだけ」
私はゆっくりガイルを見る。
「それは接客じゃないわ」
『なあに!?』
ギンはぷりぷり怒りながら
私の手をぺちぺち叩く。
『アタイのガイルに、説教してるの!?
生意気だわ!!』
そして勢いよく振り返った。
『ねぇ、ガイル!』
『アンタも何か言ってやんなさいよ!!』
私は思わずガイルを見る。
ギンも見る。
きっと
ギンは味方してもらえると思っていたのだろう。
だけど………
「……もう黙れ」
静かな声だった。
ギンが目を瞬かせる。
ガイルはギンを真っ直ぐ見つめていた。
「後でもう少し、気を分けてやる
だから今は眠れ」
そして
少しだけ眉を寄せる。
「保たねーぞ」
『分かったわよぅ……』
ギンはしぶしぶ頷いた。
『優し~く♡
優し~く気を分けてよね♡』
そう言うと
ガイルの手のひらへ頬を擦り寄せる。
そして
バッ!!
勢いよくこちらを振り向いた。
「ん?」
ギロリ。
小さな目が私を睨んだ……
気がした。
『そこのクソ女!!』
小さな指がビシッと私を指す。
『アタイのガイルに
色目使うんじゃないわよ!!』
「い、色目ぇ!?」
『いつでもアンタを
見張ってるんだからね!!』
ギンは小さな舌を出した。
『べーーーっだ!!』




