接客ってやつが分からねぇ
『べーーーっだ!!』
小さな声が店内に響く。
だけど、その勢いとは裏腹に
ギンの身体は少しずつ薄くなっていた。
「あ……」
私は思わず声を漏らす。
ガイルは何も言わない。
ただ、心配そうな目でギンを見つめていた。
そして、また剣が淡く光る。
そして次の瞬間
ギンの姿は消え
静かな剣だけが残った。
「やれやれ……」
ガイルは小さく息を吐く。
「やっと戻ったか」
そう言いながら
まるで眠っている子供を扱うみたいに
剣をそっとカウンターの端へ置いた。
その顔は
どこか安心したようにも見える。
「ガイル……」
私は、声を掛ける。
ガイルは少し黙った。
そして…
「……お前の言ってることは」
店の中へ視線を向ける。
「間違っちゃいねぇ」
私は驚いて目を瞬かせた。
「……いねぇが」
ガイルは頭を掻く。
そして店の中をぐるりと見回した。
並ぶ武器、道具。
そして
長い年月を過ごしてきた店。
「爺さんの代から受け継いだ店だ」
静かな声だった。
「だが……接客ってやつぁ」
そこで少し苦笑する。
「爺さんは、自分で掴めって言いやがってな
結局、一度も教えてくれなかった」
「だから…」
ガイルは肩を竦める。
「俺には分からねぇんだ」
そう言ったガイルの顔は
どこか悔しそうで
今にも泣き出しそうな
小さな少年のように見えた。
私はゆっくりガイルへ近付く。
そして気付けば…
手の甲で
そっとその頬に触れていた。
「……接客なんて経験よ」
ガイルが少しだけ目を見開く。
「正解なんてないの、でも」
私は小さく微笑んだ。
「機械みたいな接客だけは
しちゃいけないわ」
「………………」
ガイルは黙ったまま
目を見開いていた。
私は思わず苦笑する。
「…だから」
手を引っ込めると
少しだけ首を傾げた。
「私を雇ってみない?」
「……あ?」
ガイルが間の抜けた声を出す。
私は構わず続けた。
「あなたは私を見て、接客に慣れる
私は働く場所と、生活する場所が手に入る」
「悪い話じゃないと思うけど?」
ガイルはまだ固まっている。
私は小さく笑った。
「給料はいらないわ
…その代わり」
店の中を見回す。
「〘衣・食・住〙
そこだけ保証してもらえないかしら?」
「……お前、気味悪くねーのか」
「え?」
ガイルは少し視線を逸らした。
そして店の中を見回す。
壁に掛けられた剣。
棚に並ぶ道具。
「だから…物が喋るんだぞ
気味悪くねーのか」
問い掛けているはずなのに
その横顔はどこか怯えているようにも見えた。
…答えを聞くのが怖いみたいに。
「……ああ!」
私はようやく意味を理解した。
「うーん……?」
少し考える。
そして首を傾げた。
「ないわね」
ガイルが少しだけ目を見開いた。
その反応がなんだか可愛くて
私は思わず微笑んだ。
「私はね」
目の前にあった小さなティーカップを手に取る。
「物と話したことは今までなかったけど
その代わり、たくさんのお客様と接してきたの」
「本当に色んな人がいたわ
怒鳴る人や静かな人
いつもニコニコしてる人
小さな子供、赤ちゃん
理不尽なクレームを言う人もいたし
さっきみたいに文句を言う人もいたわね」
そこで一度言葉を切る。
そしてガイルを見る。
「そ、れ、に
ガイルみたいな人もいたわ
無愛想で、ぶっきらぼうで
眉間にしわ寄せて、青筋立てて…
何考えてるのか、さーっぱり分からない人」
「おい」
ガイルが不満そうに眉をひそめる。
「だけどね」
私はティーカップを指先でそっと撫でた。
「どんなお客様も
こちらがきちんと話を聞く姿勢
そして、力になりますよって
姿勢さえ崩さなければ…」
少し懐かしそうに微笑む。
「みんな最後には、笑顔で帰られたわ」
私はカウンターの上の剣へ視線を向けた。
「ギンと話して思ったの
物だって同じだったんだなって」
ティーカップをそっと棚へ戻す。
「もしかしたら
今まで私が扱ってきた商品たちも
ずっと何かを伝えてくれていたのかもしれない
でも私は
聞こうとしなかった
物の気持ちを知ろうとする姿勢が
足りなかったんだと思う」
私は小さく息を吐く。
「だからね」
ガイルへ視線を向けた。
「気味悪いなんて思わないわ」
そして、ゆっくり首を横に振る。
「もし、私がそう思ったなら
それこそ物たちに失礼だもの」
「そうか……」
ガイルは小さく呟いた。
そして口元を押さえると
少しだけ視線を逸らした。
私は首を傾げる。
「でもね
分からないことが、二つあるの」




