想石
ガイルが怪訝そうに眉をひそめた。
「……なんだ」
「このお店って…」
私は店の中を見回した。
並ぶ剣や盾。
鎧
食器
掃除道具
「結局、どういうお店なの?」
「ギンを売ったって言ってたわよね?」
私はカウンターの剣を見る。
「でも物たちには意思がある……」
「例えば、このお客様のところには
行きたくないって言う子もいるでしょう?」
ガイルは少し考えるように頭を掻いた。
「あー……
そういや話が途中だったな」
そう言いながら近くの盾へ手を触れる。
続いて鎧にも。
……まるで挨拶するみたいに。
「この店はな
簡単に説明すんなら
物の愚痴を聞いて、癒やす店だ」
「………は?」
思わず変な声が出た。
ガイルは気にした様子もない。
「持ち主に手放された奴らは
荒れてることが多い
捨てられたと思って泣く奴
前の持ち主の愚痴ばっか言う奴
そして…自分が悪かったのか悩む奴」
「ま、人間と変わらねぇな」
私は思わず店内を見回した。
そこに並んでいるのは武器や食器
ただの物にしか見えない。
だけど…違った。
それぞれが色んな想いを
抱えているように思えた。
「だから話を聞く」
ガイルは静かに続ける
「気が済むまでな」
「気が済むまで?」
「ああ
満足した奴から次の持ち主へ渡していく」
「じゃあ……」
私は首を傾げた。
「お金は?」
「取らねぇ」
「え?」
「預かる時はな」
ガイルは当たり前のように言う。
そして近くの引き出しを開けた。
「見ろ」
手のひらに転がされたのは小さな石だった。
淡く光る、綺麗な石。
私は思わず見入る。
「これは……?」
「想石だ」
「そうせき?」
「ああ」
ガイルは頷いた。
「話を聞いてもらって
未練や愚痴を吐き出して
納得して前を向けるようになると
こういう石を残す」
私はそっと石を手に取った。
どこか温かく…
不思議な感触だった。
「満足した証みてぇなもんだ」
「感謝だったり、想いだったり…
何が形になってるのかは知らねぇがな」
「こいつには価値がある
だから…店は成り立つ」
「……そう」
私は小さく頷いた。
なんだか少し安心した。
だけど
「あ、そうなのよ」
私は顎に手を当てた。
「そこなのよ」
「……あ?」
「この子達」
私は店の中を指差した。
「たくさんいるでしょう?
一日にどのくらい巣立っていくのかなって」
ガイルが黙る。
私は続けた。
「あと、一番古い子はいつからいるの?」
「……………………」
長い沈黙が流れる
「……ちょっと
まさかと思うけど……」
ガイルは頭を掻く。
そしてボソリと答えた。
「……爺さんの代からだ」
「……爺…さん?
………はああああああ!?」
私は思わず頭を抱えた。
「お爺さんの代からって……
かなりの年数経ってるわよね!?」
ガイルが視線を逸らす。
嫌な予感しかしない。
私は店の中をぐるりと見回した。
壁に掛かった剣。
棚に並ぶ盾や鎧。
食器。
掃除道具。
そして…
何十年もここにいるかもしれない物達。
「ずっと?」
私は引きつった笑顔で確認した。
「ずうっと?」
ガイルが無言で目を逸らす。
「こんなほっこりマルケのまんま
待たされてるっての!?」
「……ほっこりマルケってなんだ」
「そのまんまの意味よ!!」
私は思わず机を叩いた。
「そんなに長い間
ここで待ってるっての!?」
その瞬間
店内の空気が一斉に揺れた。
ザワッ……
まるで店中の物達が
一斉に顔を上げたみたいに。
「うるせぇ!!」
ガイルが怒鳴る。
どうやら私ではなく
物達へ向けて言ったらしい。
私は腕を組んだ。
そして店の中をゆっくり見回す。
並んだ食器
積み上がった調理器具
壁に掛けられた武器や防具。
「……なるほど」
私は小さく呟いた。
「分かったわ」
コツ。
コツ。
その場を歩きながら
頭の中を整理していく。
「とりあえず……まず掃除ね
それから整理整頓
そして…陳列の見直し……」
ガイルがぽかんとした顔で見ている。
私は気にせず続けた。
「今あるのは武器だけじゃない」
「食器もある
調理器具もある……だったら」
私は足を止めた。
「どうすれば見てもらえる?
どうすれば手に取ってもらえる?」
店内へ視線を向ける。
「どうすれば……
あなた達が、早く巣立てるかしら?」
近くのお茶碗をコンコンと優しくつつく。
「ね?」
もちろん返事はない。
だけど、なんとなく。
『お願い!』
そう言われた気がした。
「ふふっ……」
思わず笑みがこぼれる。
「よしっ!」
私はパンッと両手を叩いた。
「頭で考えるより、まずは行動よね!」
そして店内へ向かって声を張る。
「あなた達!
悪いけど、今から掃除するから!」
ずらりと並ぶ物達を見回しながら笑う。
「しばらく我慢してね!」




