いただきます!
私が声を掛けた、その瞬間…
ザワッ…!
店内の空気が揺れた
まるで風が吹いたみたいに。
けれど
さっきまでとは違う。
不満でも
怒りでもない。
どこか弾むような
期待するような
そんな空気。
私は思わず笑った。
「ふふっ」
やる気満々ね、助かるわ」
「さて……
じゃあ、まずは…と」
グゥゥゥゥ……
「…………」
「…………」
店内に妙に大きな音が響いた。
(しまった……)
私はそっとお腹を押さえる。
騒ぎですっかり忘れていた。
昨夜はミルクを飲んだだけ
朝食だってまだ食べていない。
顔が熱くなる。
(最悪……)
気まずさに視線を逸らした。
すると
「……飯にすっか」
ガイルが咳払いを一つして言った。
まるで今の音を
聞かなかったことにするみたいに。
「そ、そうね……」
私は小さく頷く。
「腹減ったしな」
「……うん」
(絶対聞こえてたわよね)
ガイルは何も言わない。
ただ
少しだけ口元が緩んでいる気がした。
二人で二階へ上がる。
「座って待ってろ」
そう言って
ガイルはキッチンへ向かった。
「あ、私も手伝う」
私は当然のように隣へ立つ。
「ん」
ガイルから卵を渡された。
私はボウルを手に持つ。
(…………ヨシ)
ガシャ!
バリン!
ポシャ!
「ふぅ……こんなもんかな♫」
「あー……」
ガイルが頭を掻いた。
「なるほどな…
いい、いい、分かった」
「お前は、とりあえず座っとけ」
そう言うと
私をスマートに椅子まで誘導し
ストンッと座らせる。
「……え?」
私は首を傾げた。
「なんでよ?」
頬を膨らませていると
「……ぶ……」
「く……ふ……は……」
ガイルがこちらへ
顔を向けないように肩を震わせている。
「な、なに笑ってんのよ!!」
「ハッ……!」
「ハハ……!」
「お前……くっ……くく……」
腹を押さえながら、なおもこちらを見ない。
(な、何がおかしいのよぉ……)
さらに膨れっ面で睨んでいると
ガイルが笑いながら ちらりとこちらを見た。
(え……)
一瞬
本当に一瞬だった。
別人かと思うほどの笑顔。
心の底から楽しそうな顔。
(この人……笑顔が素……)
そこまで考え
私はぶんぶんと首を振る。
(何考えてんのよ私!)
だが、目の前ではまだ
ガイルが腹を押さえて震えている。
「……笑いすぎなのよ!!」
私は立ち上がった。
「もう!」
「私がやる!」
そう言いながら 卵へ手を伸ばす。
だが、その瞬間。
「ハハッ!」
「あー、悪かった悪かった」
ガイルは笑いなが
私の手から卵を取り上げた。
「お前は大人しく待っとけ」
「ちょっと!」
「分かった分かった」
ガイルは苦笑しながら肩をすくめる。
「飯は俺に任せろ」
そして親指で店の方を指した。
「お前は店を頼む」
「むぅ……」
私は不満そうに頬を膨らませる。
だがガイルは気にした様子もなく
卵を片手で軽く叩いた。
パカッ。
綺麗に殻だけが割れ
中身だけがボウルへ落ちる。
思わず見入ってしまう。
「じゃねーと……」
ガイルはニヤリと笑った。
「卵が無くなっちまうからな」
「誰のせいよ!!」
「お前だろ」
即答だった。
しばらくして
朝食が出来上がった。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
「美味しそう……」
卵焼き
ウィンナー
それに人参や緑の野菜が添えられている。
彩りが綺麗だ。
けれど
目を引いたのは料理だけじゃなかった。
白く丸い皿
その縁には、うっすらとカラフルな
波模様が描かれている。
派手ではない。
だけど
料理の色合いと不思議なくらい調和していて
それだけで、更に美味しそうに見えた。
「いただきます」
私は皿を見つめる。
そして少し迷ってから笑った。
「お皿さん、よろしくね」
その言葉に
ガイルが少しだけ目を細めた。
そして
ゆっくりと皿の縁を撫でる。
まるで挨拶するみたいに。
「悪いな」
静かな声で言った。
「使うぞ」
私は思わずガイルを見る。
ガイルは何でもないことのように席へ着いた。
けれど…
その仕草は、なんだかとても優しく見えた。




