食器を守る熊さん
「ガイルー!このお皿さん達
一旦二階で待機してもらってー!」
私は一階から声を張り上げた。
「待機って言ってもな!
もう置く場所ねーぞ!」
二階からガイルの声が返ってくる。
その直後…
「……うおっ!?」
ガラガラガラッ!!
ドシャーン!!
凄まじい音が二階に響いた。
「えっ!?」
私は慌てて階段を駆け上がる。
部屋を覗き込むと
そこには…
お茶碗の箱を抱えたまま
見事にすっ転んでいるガイルの姿があった。
「ちょ…ちょっと大丈夫!?」
「あ…ああ…俺は……」
そう言いかけるガイルをよそに
私は箱の中を覗き込む。
「食器さん達!」
「割れてない!?
欠けてない!?」
慌てて一つずつ確認する。
どのお茶碗も無事だった。
「よかったぁ……」
心の底から安堵して息を吐く。
その時
ふとガイルへ視線を向けた。
転んだ拍子だろう
腕には小さな擦り傷が出来ている。
それなのに
抱えていたお茶碗達には傷一つない。
私は思わず口元を緩めた。
「クスッ……」
ガイルに聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「さすがガイルね」
「あ?」
ガイルが怪訝そうな顔を向ける。
「なんか言ったか?」
「いいえ、別に?」
私はそう言いながら
お茶碗を一つ手に取った。
「ただ、こんな大きな熊さんが
いきなりすっ転んだら
びっくりしちゃうよねー」
そう言って、お茶碗をそっと撫でる。
「それに……」
今度はガイルの腕へ手を伸ばした。
スカートの裾で
擦り傷についた埃を優しく拭う。
「擦り傷まで作って
守ってくれる熊さんがいてよかったね?」
お茶碗達へ話しかけるように言う。
ガイルは一瞬だけ目を見開いた。
だが、それもほんの一瞬
すぐにいつもの無愛想な顔へ戻る。
「……熊ってのは俺のことか」
「あら?」
私は首を傾げる。
「おおぐまさんの方がよかった?」
「チッ……好きにしろ」
そう言って顔を背けた
「さて、と」
私は膝を叩いて立ち上がる。
「食器達はあらかた二階に移動できたから
後は調理器具達……だけど」
その時だった。
「……お前、スカート短くねぇか」
不意にガイルが言った。
「……は?」
思わず固まる。
ガイルは座ったまま
頬杖をつき、こちらを見ている。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。
そして
「はあああああ!?」
私は慌ててスカートの裾を引っ張った。
「どこ見てんのよ!サイッテー!!」
「なっ!? おま……違ぇ!」
「何が違うのよ、この変態!!」
「だから違ぇって!」
ガイルは頭を掻きむしった。
「そんな足見て喜ぶ趣味ねぇよ!」
「なんですってぇ!?」
「だぁーっ!そうじゃねぇ!」
ガイルが苛立たしげに叫ぶ。
「作業してると見えるだろうが!」
「へ?」
「だから服だよ、服!」
ガイルは盛大にため息を吐いた。
「買いに行くか?って言ってんだ!!」
「買いに行く……?」
私はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「服を?」
「他に何買うんだよ」
呆れたように肩を竦めるガイル。
私は、ぽかんと口を開けた。
この世界に来た時に着ていた服は
川に流されたせいだろうか。
あちこちが破れ
とても着られる状態ではなくなっていた。
ガイルのシャツを借りたまま
過ごすわけにもいかない。
だから今着ているこのワンピースを
ガイルが貸してくれたのだ。
とはいえ……
言われてみれば
服が一着だけというのも不便だ。
(……ていうか
このワンピース誰のなのかしら)
桜色で可愛い。
けれど………
(ちょっと胸元が余るのよね……)
「おい……行くのか行かねーのか」
「い、行く! いや、行きたいけど……
私、その……」
言葉が続かない。
(この世界のお金……というか……
私、何にも持ってないのよね……)
川へ飛び込んだ時、鞄は確かに持っていた。
けれど…
おそらく流されてしまったのだろう。
大事なものは…捨てられた
だから、無くても困らない
そう思っていたけれど……
(お金のこと…失念してたなぁ…)
下を向いたまま、なんと言おうか迷っていると
「……従業員に支給するのは当然だろ」
ぽつりとガイルが言った。
「え?」
顔を上げる。
ガイルは面倒臭そうに頭を掻いた。
「服だよ」
「あ……」
「店の手伝いしてんだからな」
そう言って立ち上がると
ガイルは私の頭をぽんっと軽く叩いた。




