『リールの気持ち』〜芽生え〜
「嘘でしょ……
一睡も出来なかった……」
昨夜、ふらふらしながら
ボクさんから降ろしてもらって
そのまま部屋へ戻った
ベッドに潜り込んだ……はずなのに
私は、一睡も出来なかった
目を閉じれば浮かんでくる
ガイルの顔
そして………
唇に触れた、あの感触
「…………っ」
寝返りを打っても
布団に潜り込んでも
枕に顔を埋めても
何度「寝よう」と思っても
消えてくれなかった
「…………」
両手で頬を押さえる
……熱い
「ガイルが……私を……?」
昨日、あの人は言った
『お前が好きだ』
「…………~~~っ」
思い出しただけで、また顔が熱くなる
「いつから……?
……なんで?
……私の、どこを……?」
分からない
今までなら、何とも思わなかった
頭を撫でられても
頬を掴まれても
手を差し伸べられても
…私にとっては
兄貴にされてる感覚だった
でも…ガイルにとっては
あの一つ一つに
意味があったのだとしたら……
「…………っ」
そう思った瞬間、また布団へ顔を埋める
「~~~~~~っ!!」
嫌なわけじゃない
むしろ……
…………嬉しい
そう思ってしまう自分がいる
だけど………
今まで、誰かにそんなふうに
想われたことなんてない
自分が誰かを
そういう意味で好きになったこともない
嬉しいのに
どうしていいのか分からない
どう考えればいいのかも、分からない
「……どう、しよう……」
その時だった
コン……コンッ
「リール、入るぞ」
「…………っ!?」
ガチャ
「……ガイル……」
顔を見た瞬間
…グアアッと顔が熱くなる
私は慌てて平静を装う
「お、おはよう、どうしたの?」
「……起きてるなら、飯食え」
そう言って、親指で部屋の外を指す
「……分かったわ
着替えたらすぐ行くわ」
「……ああ」
ガイルは短く答えると
そのまま部屋を出ようとした
(……………?)
昨日あんなことを言われたのに
……されたのに
いつもと変わらない……?
まるで、何もなかったみたいだ
(私が……気にしすぎてるだけ?)
そう思った、その時――
ガイルがふと足を止めた
「…………」
私には背を向けたまま
「……答えは急がねぇから」
「…………え?」
ガイルは振り返らない
「……ゆっくり、考えてくれ」
パタン……
扉が閉まった
「…………」
しばらく、その扉を見つめる
そして……
「…………っ」
次の瞬間、私は枕へ顔を埋めた
「も……ぅ……!」
顔が、グアアアッと熱くなる
「なんなのよぉぉぉぉぉ……!!」
枕に顔を押し付けたまま
ジタバタと足を動かす
「うう……」
まだ……今まで通りでいたい
そう思うのに
もう、昨日までと同じには戻れない気がした
………………………………
部屋を出るまでに
私は何度も何度も深呼吸をした
「……私は店員
私は店員……」
ここは、いつもの店
ガイルは店長
そう思い込む
「…………よし」
小さく息を吐いて、扉を開けた
キッチンへ入ると、ふわりと鼻をくすぐる
いつものコーヒーの香り
そして…
いつも通り、そこにガイルがいる
「……来たか」
コトン…
いつものように
温めたミルクが目の前に置かれる
「……あ、ありがとう」
顔を上げ、ガイルを見る
「…………っ…」
(う……っ)
いつも見ていたはずなのに
何も変わっていないはずなのに
目に映るガイルが………
やけにキラキラして、眩しく感じる
(……いやいやいや)
慌てて目を泳がせる
(いつも通りよ……
いつも通り……私は店員)
そんな私を見て、ガイルがふっと笑った
「…………」
ドキッ………
(…………っ)
胸が跳ねる
(……ドキッじゃないのよ、私!!)
慌ててミルクへ視線を落とす
「…………」
「…………」
二人の間に、静かな時間が流れる
……いつもなら
こんな沈黙なんて気にならない
…なのに
今日は、やけに長く感じた
(えーと……えーと…
いつも、何話してたっけ……)
頭をフル回転させていると
カサ……
目の前にクッキーが差し出された
「あ……」
顔を上げると
ガイルと目が合う
「…………」
そして、気付いた
ガイルの顔が……少し赤い
(……え?
ガイルって……照れること、あるんだ……)
いつもぶっきらぼうで
何でもない顔をしているのに
今は少しだけ———照れている
(なんだか……カワ……)
パーン!!
「…………!?」
自分で自分の頬を両手で叩いた
ガイルが驚いて目をパチクリさせる
「……な、何してんだ、お前」
「あ……ご、ごめん!
なんでもないの!」
慌ててクッキーを手に取る
「ちょっと……
目を覚まそうと思って……アハハ……」
「…………」
怪訝そうな
ガイルの視線から逃げるように
クッキーを頬張った
(……もう……全然…ダメじゃない)
私は店員
ガイルは店長
そう、まだ、それでいい
そう思っていたのに
……なのに
胸の奥では――
さっきから、ずっと
小さな鼓動が、鳴り続けていた。




